国内 2023.04.18

シーンと証言で振り返る。イーグルスとサンゴリアスの消耗戦の裏側は。

[ 向 風見也 ]
シーンと証言で振り返る。イーグルスとサンゴリアスの消耗戦の裏側は。
イーグルスを懸命に止めようとするサンゴリアスのハリー・ホッキングスと山本凱(撮影:松本かおり)


 もどかしかった。

 最後は神奈川・日産スタジアムのフィールドを、陸上のトラックを挟んでベンチから見つめるしかできなかった。

「しょうがないですね。はい」

 嶋田直人は4月15日、国内リーグワン1部の第15節に出た。

 横浜キヤノンイーグルスのオープンサイドFLで先発し、東京サントリーサンゴリアスを相手に好タックルを重ねていた。

 9-6と3点リードの後半20分だった。自陣ゴール前に入られるなか、身長181センチ、体重99キロの自身より9センチ、11キロも大きなFLのトム・サンダースに刺さった。落球を誘った。

「そこが、自分の役割だと思うので。運動量、タックルの部分を求められて、(試合に)出してもらえている」

 互いに球が確保しづらい雨の日のゲームで、持ち味のしつこさを活かした。

 しかし嶋田は、残り6分で退く。

 というのもその4分前、HOの仲間がグラウンドを離れていた。チームの反則の繰り返しにより、10分間の一時退場処分(シンビン)の対象となったのだ。

 HOは、スクラムの最前列中央へ入る専門職だ。当該の選手にシンビンが課されている間にスクラムがあれば、同じポジションの選手を投じ別な誰かを交代させることとなる。後半34分に嶋田が外れたのは、ちょうどそのタイミングでスクラムがあったからだ。本人は察していた。

「たぶん、自分が出されるな」

 場所は敵陣中盤左だった。この時は9-11と勝ち越されていたイーグルスだが、ここで反則を誘えばペナルティゴールによる逆転、もしくはより深い位置での反撃が狙えた。

 しかしこのスクラムでは、もともと嶋田の入っていた位置に本職と異なる面子が入っている。

 そもそもスクラムの優劣自体、変わりつつあった。

 序盤こそイーグルスは優勢も、終盤に入ればサンゴリアスが手応えを示していた。互いの体力の削り合いや、最前列におけるメンバーチェンジに伴ってのことだ。

 果たしてイーグルスは、サンゴリアスへフリーキック、ペナルティキックを立て続けに与えた。合図より早く組んだり、膝をついて塊を崩したりしたと判定されたからだ。

 間もなく自陣ゴール前まで入り込まれ、最後までその場に留まった。反撃機会を失った。

 ラストワンプレー。サンゴリアスのHOに入る中村駿太は、自軍のスクラムを押し切って拳を突き上げた。周りで確保したボールをSHの流大がタッチラインの外へ蹴り出し、ノーサイドに喜ぶ。

 サンゴリアスの祝原涼介は、後半19分から右PRとしてスクラムの先頭へ入っていた。その、皮膚感覚を明かした。

「フロントローのパック(最前列)で、いい感じで組めていました。また前半のメンバーがいい感じでパンチしていた(相手を摩耗させていた)ので、それが、効いたのかなと。僕が入った時、相手もばてていたのかなと」

 サンゴリアスは概ね高値安定である。一昨季までの旧トップリーグ時代に5度優勝。不成立のシーズンを除けば、昨季まで5シーズン連続で2位以上につく。

 かたやイーグルスは、2018年度のトップリーグで16チーム中12位と低迷していた。転換期を迎えたのは、沢木敬介監督が就いた2020年である。

 沢木はかつて、サンゴリアスの指揮官だった。在任3年で2度頂点に立っている。新天地でも当時と同じように、妥協なき鍛錬と緻密なゲームプランの明示に努める。就任2年目となったリーグワン元年には、クラブ史上初の4強入りに迫った。

 そのシーズンは6位に終わった。大詰めに組織的、個人的な疲れがたたったからだが、今季は組織としてその反省を活かす。

 第14節まで12チーム中4位につけるなか、元主将でHOの庭井祐輔は実感する。

「去年は——言い訳ですが——コンディション的にも厳しい部分があって、元気がなくなってしまい…。最後の1か月くらいは、『やらないといけないけれど、身体がついてこない』という状況でした。でも、今年はなんとかしよう、なんとかしようと抗っている部分があると思います。後半戦になっても(一定以上の)メンタリティ、エナジーを持てている」

 3位だったサンゴリアスには、同カード1回戦で23-32と負けていた。

 ただし、4強によるプレーオフ進出へ絡む今度の一戦へ、沢木も「(勝つ)イメージはある」。果たして今度の80分には、一定以上の手ごたえを掴む。試合後に述べた。

「お互い、レベルの高いラグビーだったかなと僕は思います」

 振り返れば前半7分、SOの田村優が頭を打って退出した。

 正司令塔を欠いた影響はあったと、沢木は認める。

「こういう試合で彼の経験値、ナレッジはチームには必要だったと思います」

 それでもゲームの序盤は、代役SOの小倉順平、FBのエスピー・マレーがロングキックでゲームを制御していた。球の落下地点では嶋田、WTBのイノケ・ブルアが圧をかけた。

 いくつか得点機を作り、そのふたつを活かした。前半30分、6-0とリードした。

 さらにそのタイミングで、サンゴリアスの核弾頭たるNO8のテビタ・タタフが一時退場処分を受けていた。レイトチャージの反則があった。

 イーグルスは流れをつかみかけた。

 しかし、沢木と嶋田はそれぞれ述懐する。

「自分たちで流れを引き寄せられる場面を、自分たちから逃している」

「いいがまんはできていましたが、最終的には、がまんできてなかった。小さい差、ですよね」

 イーグルスが敵陣ゴール前右でモールを押し込みかけるも、こぼれ球をサンゴリアスにさらわれたのは前半40分頃のことだ。

 それをLOのツイ ヘンドリックは前方へ蹴り、直後にイーグルスの反則が起きた。6-0だったスコアは6-3へと詰まった。

 サンゴリアスのリザーブに控えたSHの流大は、こう述懐する。

「あの時間帯に3点を獲ったのが大きくて。自陣に入られた時間は長かったですが、皆、がまんして…」

 その流が投じられて5分後の後半15分頃には、イーグルスにトラブルが起きた。

 9-6と3点リードのイーグルスは、敵陣10メートル線付近右のラインアウトから左へ、左へとフェーズを重ねるなか、グラウンドの右中間でペナルティキックをもらう。

 レフリーに反則された側が優勢と見られ、「アドバンテージ」とコールされた。しばらく攻め続けると、左端でもペナルティキックが得られた。

 右中間か、左端か。リスタートの位置はイーグルスが選べた。ゲーム主将でLOのコリー・ヒルは、右中間を指した。

 着実に点差を広げるべく、比較的、正面に近い右中間からペナルティゴールを狙いたかったのだ。

 しかしどういうわけか、左端でのプレー再開を促された。

「レフリーにも、両サイドのアシスタントレフリーにも一生懸命、そう訴えたのですが、言葉の壁なのか、意図することが伝わらず…」

 気持ちを切り替え、左端でのペナルティキックからボールをタッチラインの外へ出した。

 ラインアウトからフェーズを重ねてトライを狙ったが、途中で反則を取られた。

 得点機を逸した。

 ヒルは続ける。

「ここで3点を獲っていれば6点差になり、ゲームの流れは変わっていたと思います。ただ、その通りにできなかったフラストレーションから、相手の流れになったことは非常に残念です」

 ゲームがクライマックスに入ると、イーグルスはタッチラインの外へ蹴り出すべきキック、追加点を得るためのラインアウトでミスを重ねる。

 逆にサンゴリアスは、敵陣での着実なボール保持、FBの松島幸太朗のカウンターアタックなどでペースを握る。

 そして30分、FW陣が敵陣ゴール前右でモールを押す。タタフがトライする。9-11。サンゴリアスが逆転した。
 
 このモールでは、祝原が味方の支柱役を右側から保護。周りにいた防御を排除し、塊の進路を作っている。

「フィジカルは強みにしている。(モールで)何発か、前に出られた」

 終盤のスクラムについてさらに聞かれれば、自ずとサンゴリアスの底力に話が及んだ。

「練習では、スクラム、うまくいかなくて。その意味では、チーム内競争がちゃんとできているから、試合で(いい形が)出せているのかな、と感じます」

 ノーサイド。イーグルスのロッカールームには、出場選手のみならず「ライザーズ」と呼ばれる控え組も集まった。

 選手によると、沢木はまず「ライザーズ」に試合の感想を聞いたそうだ。

「小さい差だった」

「がむしゃらにディフェンスできていた」

 そもそも味方同士が練習でプレッシャーをかけ合っているのは、イーグルスも同じだった。だから「ライザーズ」が口々に褒めてくれたことに、嶋田は安堵した。

「ゲームに出る責任は、皆、果たせたのかなと。ただ、最後に勝てるのが、一番いい」

 最終節の結果次第で、プレーオフへ行けるかどうかが決まる。

 渦中、沢木は「先を見ない」。まず自分たちと向き合う。

「次にベストゲームをする。そうしたら結果がついてくる。以上です。まずはシンプルなところをターゲットにして、あとは、結果がついてきた時に、チームが成長した状態で次のステップに進めればいい」

 かたやサンゴリアスは、この80分を制してプレーオフ進出を決めた。

 流は今回、それまで抱えていた故障から戻って間もないなかでのベンチ入りだった。

 結果が求められるビッグマッチのジャージィを、田中澄憲監督に託されたのだ。

「70パーセントの状態でもチームに与える影響力があるから、出て欲しい、と。不安なところもありましたが、期待に応えたい気持ちが大きかったので、出ました」

 試合の2週間前までは、イーグルスとは戦えないだろうと踏んでいた。サンゴリアスからイーグルスに移った近しい選手へも、その旨を私信で伝えていた。

 きっとその内容は、沢木の耳にも入っていたのだろう。

 沢木が監督だった頃の主将でもある流は、会場で元上司と顔を合わせるや突っ込まれた。

「嘘の情報、流しただろう」

 笑顔で述懐する。

「本当に出られないと思っていたんです! …と言って、なんとか。…はい。またゆっくり、どこかで話そう…と言って、終わりました」
 
 ちなみに流は、もともとイーグルスを「絶対にトップ4に入るチーム」と見ていた。接戦は必然だった。

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