熱戦勝ち切り、節目の勝利。モウンガ、スーパーラグビー100キャップの幸せ
「私は、クルセイダーであることに誇りを持っています」
試合後に笑顔でそう語ったのは、リッチー・モウンガだった。
4月7日、クライストチャーチにあるオレンジ・セオリー・スタジアムでおこなわれた「2023年スーパーラグビー・パシフィック」の第7節のモアナ・パシフィカ戦でクルセイダーズの司令塔リッチー・モウンガがスーパーラグビー100試合出場を達成した。
モウンガのスーパーラグビーデビューは2016年。100試合目と同じくクライストチャーチでのデビュー戦だった。
2015年を最後にチームを去ったレジェンドのダン・カーターの跡を継いだモウンガは、そのまま十字軍の10番に定着した。
◆主役が魅せるも、モアナ・パシフィカの健闘目立つ
モウンガの100試合の節目という事で、試合前からスタジアム全体でお祝いする雰囲気が感じられた。
たくさんの人で作った花道がフィールドの中央付近まで作られていた。
スタジアムのビックスクリーンにモウンガの姿が映し出された。いよいよ主役の入場だ。
精悍な表情のモウンガが、2人のお子さんを抱えてピッチに入ってくる。
その先に待っていたのは、モウンガの母校の高校生たち。
情熱たっぷりの「ハカ」でモウンガを出迎えた。
試合は、モウンガが序盤で魅せた。
開始4分に自らPGを決める。そしてその8分後にモウンガ、マジックが炸裂したのだ。
敵陣10 メーターラインを越えたくらいででボールを貰ったモウンガは、華麗なフットワークでディフェンスを置き去りにする。そのままトライを狙いに行くかのように思えた。
しかし、ディフェンスをしっかりと引き付け、針の穴を通すかのような絶妙なパスでHOコーディー・テイラーのトライをアシストした。
主役のいきなりの活躍にスタジアムは、割れんばかりの歓声と拍手で盛り上がった。そのままクルセイダーズが圧勝するかと思う雰囲気だった。
しかしその後は、ビジーターのモアナ・パシフィカが主導権を握る。
破壊力抜群の13番リーヴァイ・アウムア、14番ティモチ・タヴァタヴァナワイがクルセイダーズのディフェンスを何度も切り裂いた。
前半アウムアが2トライ、タヴァタヴァナワイが1トライと、クルセイダーズの2トライ(いずれもテイラー)を上回った。
2人の活躍で、前半は17-21。王者クルセイダーズはモアナパフィシカにリードを許した。
後半に入って挽回すると思われたクルセイダーズ。しかし、プレッシャーに押されてクルセイダーズらしからぬハンドリングエラーが多発。
モアナ・パシフィカが得点を許さない時間が続いた。
モウンガの100試合目が…。 スタジアムに嫌な雰囲気が流れるのを感じた。
モアナ・パシフィカの気迫あふれるプレーを前に、昨年の覇者クルセイダーズはタジタジだったのだ。
その様子を見るに見かねたスタジアムで観戦する子どもたちが、クルセイダーズコールを始めるほどだった。
しかしクルセイダーズは、セットピース(スクラム、ラインアウト)で完全に上回っていた。後半の途中から、その強みを軸に試合を進めるプランに徹する。
それが功を奏して徐々にペースをつかんでいった。
ようやく逆転できたのは50分を過ぎてからだ。モウンガのキックからチャンスをつかむ。
売り出し中のLOドミニック・ガーディーナー(本職はFL)がアンクルタックルを受け、つまずきながらもインゴールに抑えた。
モウンガのゴールも決まり24−21と逆転に成功。
結局、クルセイダーズは後半3トライを挙げ、苦戦しながらも38−21のスコアーで勝利した。
すっきりとはいかなかったが、モウンガの100試合目に花を添えることができた。
◆喜びを噛み締めた感動的なセレモニー
試合後のピッチでのセレモニーは、モウンガの家族、友人など多数の人たちが参加した。
観客もピッチに降りる事が許され、モウンガの100試合を一緒に祝った。
スーパーラグビー100試合達成の記念品は、モウンガの両親から贈呈となった。キス、ハグを交わした感動的なシーンとなった。
インタビューでは、「スコット・ロバートソン(クルセイダーズのヘッドコーチ、以下HC)が私のプレースタイルを信じてくれた」とHCに感謝を述べた。
そして、チーム、家族、ファンにも感謝の気持ちを素直に表現した。一言ひとことに100試合の重みを感じられた。
モウンガは、クライストチャーチで育ち、クルセイダーズにあこがれ、その夢が叶った。ホームのクライストチャーチで100試合を達成できた喜びを噛み締めていた。
現在(7節の終了時点)5勝2敗で4 位の位置につけているクルセイダーズ。
オールブラックスを含む主力にケガ人が多く出た中でこの成績は悪くない。これからケガ人が戻ってくる事を考えると、強いクルセイダーズが戻ってくるだろう。
来年から日本で3シーズンプレーするモウンガ。来年からオールブラックスの指揮を執るロバートソンHCも今季でチームを去る。
クルセイダーズは、優勝してふたりの旅立ちに花を添えることができるだろうか。