強さが強さを引き出す選抜大会決勝。「やるべきことはわかっている」と勝者。
優勝した桐蔭学園は、相手の凄みのおかげで自分たちの凄みを示せた。
3月31日、埼玉・熊谷ラグビー場。25日に始まった全国選抜大会の決勝で、東福岡に34-19で勝った。
序盤、魅したのは東福岡だ。昨季の冬の王者である。
栄冠を掴んだ際の主力は揃って卒業済み。今季からレギュラーになった選手が多いとあり、今大会では準決勝までエラーを重ねがちだった。
それでも「大会通じて、これだけ成長するとは思わなかったです」と藤田雄一郎監督。ファイナルの舞台では、勢いをつけて大胆に展開できた。パスをもらった走者の手前側、奥側のユニットが機能的に動き、CTBの神拓海がその間をつなぐ。
守りでも献身した。中盤でできた接点という接点へ、ひとり、またひとりと圧をかけたのは前半6分頃。間もなく桐蔭学園の反則を誘い、やがてチーム2本目のトライを奪う。開始8分で12点差をつけた。
総じてFLの松崎天晴、右PRの茨木海斗は、よく走者を押し戻した。指揮官は言う。
「それ(接点でのファイト)をやれないと桐蔭学園には対抗できないし、それをやれないと東福岡のラグビーはできない」
東福岡が強みを発揮した前半、リードして折り返したのは、桐蔭学園の方だった。
同10分以降、向こうのペナルティー連発を受けて中盤に侵入する。まもなく蹴り合いに転じ、スペースへのハイパントを落球させて自軍スクラムを得る。19分、ボールキープから相手の反則を引き出す。3-12と差を詰める。
22分には自陣深い位置での攻守逆転から、オフロードパスと長いドリブルを重ねる。10-12と迫る。ハーフタイム直前には、かさみ始めていた東福岡の反則に乗じて13-12と1点、先行できた。
すると後半は、東福岡のNO8で主将の高比良恭介曰く「きつくなった場面で、徐々に自分たちFWが(相手に)差し込まれて…」。桐蔭学園の藤原秀之監督はこうだ。
「これが東福岡。一の矢よりも、二の矢、三の矢が強い。慣れろ(と伝えた)。ハーフタイム(まで)には、慣れたかなと」
次第に桐蔭学園は、東福岡の激しさへの耐性をつけた。ボール保持者の姿勢や強度を見直すことで、スムーズに球が出せるようになった。
同時に、東福岡の激しさを回避する工夫も施した。前半の途中あたりから、グラウンドの中盤ではキックを多用。ボールを持って正面衝突するシーンを最小化した。
守っては防御ラインを押し上げるか、タックラーの数を担保してスペースを埋めるかを逐一、判断できるようになった。東福岡の攻め手を封じるシーンは、時間を追うごとに増えた。
「東福岡さんが外に大きく展開することは、わかっていた。立っている人の数を増やさないと、ディフェンスは苦しくなる(数的不利を突かれる)。後ろから声をかけ、枚数を増やし、何とか対処できました」
こう語ったFBの吉田晃己は、個人技でも光る。
後半3分、東福岡の守備網の裏側へ短くキック。それを自ら捕球し、追っ手をかわし、約40メートルを駆け抜けた。トライと直後のコンバージョンで20-12とリードを広げた。
その後も東福岡の強靭さにチャンスを潰されるシーンこそあったが、「相手の芯を食らわない。相手の弱いところに入ろう」と吉田。その思いを球の動かし方に反映させる。
同20分、敵陣22メートルエリアで攻め始めるや、タッチライン際の隙間を攻略した。WTBの田中健想のフィニッシュなどで、34-12とほぼ勝負をつけた。
桐蔭学園は前年度こそ冬の全国行きを逃すも、その分、早くから新チームを始動させた。現時点での完成度には手ごたえがあった。
さらにこの日は好敵手が奮闘したことで、伝統的な強みをかえって引き立たせた。
「ラグビー偏差値」と呼ばれる、試合の状況に応じて正しいプレーを選ぶ資質のことだ。
勝った吉田は言った。
「ひとりひとりがやるべきことをわかっていて、どのように戦いたいのかを描けている」
成熟の途上にある青年たちが、成熟した駆け引きで関係者を唸らせていた。