コラム 2023.03.28
リスペクトが根底。近いけれど近すぎない“体育会同期”。「野澤武史」×「二ノ丸友幸」

リスペクトが根底。近いけれど近すぎない“体育会同期”。「野澤武史」×「二ノ丸友幸」

[ 多羅正崇 ]



■今の子ども達に「体育会」は選ばれるのか

——「体育会」は男同士の強すぎる連帯関係を生みがちですが、2人の場合は「お互いへのリスペクト」が適切な距離、関係性を生んでいる印象です。近いけれど、近すぎない同期ですね。

二ノ丸:少なくとも自分のことを「体育会系」だとは思っていないですね。「体育会系ですね」と言われたら、あまり褒められている気はしません。

野澤:僕も「体育会」はあまり好きな言葉ではないかな。唯一体育会の良いところを挙げるとするなら、すぐ椅子から立つ力、行動力かなと思う。

二ノ丸:「体育会」については、古き良きものについては継承したり、現代社会に通じるものがあれば残したらいい。ただ体育会の常識が社会の常識ではないものもたくさんあるので、どんどんアンラーン(過去の成功体験・学びを捨てる再学習方法)してアップデート、融合をしていけば良いと思う。

野澤:たぶんU17世代のトライアウトをした時に、体育座りをして並んでいるのは日本しかないんじゃないかな。日本の体育会にいると、不必要なことに耐える力がついてしまう。それは良い部分でもあるけど、疑問を持っておくことはすごく大事。

二ノ丸:体育会の常識でいえば「度が過ぎる上下関係」には常に疑問を抱いている。高校時代、「なんで後輩が先輩の洗濯をしなきゃいけないのか」と思っていたので、もちろん、1年時は先輩の洗濯をしたけど、3年生になった時は自分でしていた。あとは「全員で同じ体操をする」とかも苦手だったな・・・。自分が関わっているチームでは伝統なものは残しつつ、セルフウォーミングアップを取り入れている。人によってコンディションは違うわけだし、時間制限の中でどんなアップをするのかは、自分で考えて身体とコミュニケーションをとってほしい。高校時代(啓光学園)の時もセルフでアップをする時間があって、それが自分にとってのスタンダードだった。

野澤:脱体育会系を含め、現代に通じる取り組みをしていたチームは昔からあったね。

二ノ丸:啓光学園もチームカラーとして上下関係はあまりなかったと思う——と思っているのは僕だけかな?(笑)。でも試合で敬語は喋らなかったし、例えば、3年生にリーダーがいなかったら2年生の自分がゲームリーダーになっていた。

野澤:それはゴール思考だね。積み上げ思考ではなくて、「こうやったら勝てるんだからこれでいいだろう」という逆算の考え方。

二ノ丸:「練習は毎日するべき」も疑っていい常識。時期によっても異なるけど、やりすぎるから練習以外の日は「休みたい」が優先する思考になる。海外でよくあるように、全体練習を週2日にして「そこでレギュラーが決まります」と伝えれば、練習がない日に主体的に練習する文化に変わっていく。アップデートには時間が掛かるからすぐ理想にはならないけど、体育会の「常識」はそこから見直してみるのも必要かもしれないな。

野澤:今まで通りの「体育会」だったら、今の子供たちに選ばれなくなるのではという危機感はある。今の子たちに「3年生になったら面白くなるから待ってくれ」と言っても、待たないと思う。

二ノ丸:企業(社会)でも、もう年功序列から成果主義に移行しつつある。大学生の起業も増えているし、大企業よりもベンチャー、スタートアップの方が良いという価値観も生まれ出している。

野澤:あまりにも他の変化のスピードが速いから飽きられてしまう。いま変化のスピードが速い。昨日までやっていたことがいきなり0点になったり、昨日まで稼げていた商売がある日突然一切稼げなくなってしまうかもしれない時代。だからこそ、自分で判断できる人間を育てていかないといけない。

二ノ丸:自らで考えて判断し、動くことができる人間を「自考動型人材」と提唱している。ラグビーは戦術戦略のあるスポーツだから集団でやらなければいけないところはある。ただ「自考動型人材」への仕掛けはいろんな場面に散りばめることができる。今後は自分で判断できる人材がスタンダードになっていくと思う。

——変化の速い現代を生き抜くために心掛けていることは?

野澤:重要なのはインプットし続ける環境に身を置くことだと考えていて、常々「見る、読む、出会う」の実践を心掛けています。どれだけ現場を見たか、本を読んだか、人に会ったか。そのインプットが、ある日社会課題に対峙した時、自分の原動力になると思っています。

二ノ丸:先ほども述べましたが、固定観念や前例踏襲に陥らないために、常に広い視点を持ちながら、井の中の蛙にならないように、感度を高くして、自ら積極的に行動を起こしていくことが重要かなと思っています。色々な常識やルール、価値観が変わろうとしている変革期でもあることから、リスキリング、アンラーンを実践し、自分で自分をコントロールしながら、みずから正解を創っていくことを意識して行動しています。

◇ ◇ ◇

 ラグビーで培ったスキルを駆使し、ビジネスパーソンとしても精力的に活動する野澤氏と二ノ丸氏。お互いに認め合い、近すぎず遠すぎず「リスペクト」の距離で切磋琢磨する姿が印象的だ。

 さまざまな境界を横断する2人の対談には、多くの示唆があった。幅広く活動するからこそ、新しい視点やヒントも生まれるのだろう。今後も日本ラグビー界の発展に貢献する「横断者」の活躍に期待したい。


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