「力、あるな」と思わせたい。イーグルスが感じる手応えと課題。
確実に進歩している。横浜キヤノンイーグルスへ入って10年目に差し掛かろうとしている嶋田直人は、そう実感する。
「一歩、一歩、小さいかもしれないですが、前進しています」
国内リーグワン1部に参戦中だ。元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介監督が就いたのが一昨季。前年度は終盤まで、クラブ史上初の4強入りを争った。
今季も第9節までに6勝して4位に入ったが、第10節ではそれまで2勝の静岡ブルーレヴズと引き分けた。3月3日、東京・秩父宮ラグビー場で22-22とした。
CTBで主将の梶村祐介が反省したのは、後半の立ち上がりだった。敵陣深くまで進んで反則を引き出しながら、得点できなかった。
同じ失敗は繰り返さない。続く12日の三菱重工相模原ダイナボアーズとの第11節では、向かい風の影響で前半を5-21とリードされても慌てなかった。
後半4分に相手が反則を犯したのを受け、田村優のペナルティゴールで着実に3点を上積みした。8-21と差を詰め、残された時間で逆転を目指した。
リザーブにいたHOの川村慎の証言。
「(ブルーレヴズ戦後は)試合の機微というか、どこで相手のプレッシャーを感じつつもどこで勝ち切るか、というようなことは話し合いました。後半は『ゼロゼロ』の気持ちで焦らず、試合をビルドアップし、自分たちのラグビーで点を獲っていく…と。それ(話し合いで得られた意識)があのペナルティゴールにつながりました。成長の証です」
ハーフタイムを経て陣地が入れ替わったことで、後半のイーグルスは強風の吹く方角へ攻められるようになっていた。
ペナルティゴール成功から約2分後には、SOの田村が自陣中盤左のスクラムから得たボールを右奥へキック。弾道は捕球役の頭上を越え、敵陣22メートルの向こう側でバウンドしてタッチラインを出た。
イーグルスは、「50:22ルール」に伴いチャンスを広げる。ここで得られた自軍ボールラインアウトこそ失敗も、そのままゴール前に居続けて8分には15-21と迫った。
以後も田村のロングキックでエリアを確保し、少機を手繰り寄せて徐々に加点した。22-21とリードして迎えた試合終盤には、相手と3トライ差以上をつけてもらえるボーナスポイントも獲れるよう意識した。41-21で快勝した。
後半20分に投じられるや好スクラムで魅した川村は、こう頷く。
「ひとつひとつの試合で学んだことを、次の試合につなげていくことができています。ブルーレヴズ戦後で言えば、タイトな試合をどう勝ち切るか、です。それが徐々に積み上がって、いいチームになって、グラウンドに出られるメンバーがそれを体現している。仲間たちにも頼もしさを感じます。トップ4、もしくは優勝を狙う感覚あります。『気合いで!』ではなく、『前半はがまんの時間。次は…』と現実的に話し合って、勝てている」
不振にあえぐこともあった旧トップリーグ時代に主将を経験した嶋田は、チームの成長過程を語った。
「たぶん、去年のチームできょうみたいなゲームをしていたら、負けていたと思います。前半の悪い空気のまま後半に入って『うまくいかへん、うまくいかへん』と言って、気づいたらゲームが終わって…となっていたんじゃないかと。先週(ブルーレヴズ戦)も、負けそうなところを負けなかった。あれも、いままでのイーグルスだと負けていたんじゃないかと、長くいる自分は思います。その意味ではチームも、個人も成長できていると思います。ちゃんと自分たちのラグビーをしていたら、トップ4に行ける。手応えを感じています」
「ライザーズ」と呼ばれる控えグループが、練習で激しいプレッシャーをかけてくれることにも嶋田は感謝する。
試合後の会見では、沢木監督がこう切り出す。
「前半は思ったよりも風が強く、選手たちがいつもと違う、我々のプレーじゃないことをやってしまっていた。後半はしっかりと自分たちがコントロールして、自分たちのスタイルのラグビーに戻せたのが成長したところ。これを前半の途中くらいに直せるような修正力を身に付けないと、トップ4のチームと戦う時には命取りになる。きょうは、いい経験ができたと思います」
サービス精神の表れか。リードされて迎えたハーフタイムの指示について聞かれ、「俺が怒っていると思ったんでしょ」と報道陣を笑わせる。補足する。
「何が原因でこうなって(苦戦して)いるのか、冷静に理解できている選手とそうでない選手がいたので、過ぎたことは忘れて、後半にどういうマインドセットで戦うかを、ただ、伝えただけです。最初から後半みたいにスマートなラグビーをしないと。一貫性がまだまだ足りないチームだと思うので、そこを、埋めていかないといけないです」
これにて3位に浮上した。18日は敵地の東京・江戸川区陸上競技場で、目下2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイとぶつかる。
「現状3位にいる力を持っていることは、慢心じゃなくて、自信にしなきゃいけない。ファンの方、メディアの皆さんにも『イーグルス、力、あるな』と思わせなきゃいけないです。貪欲にチームとしてレベルアップしないと、我々がターゲットにする位置には行けない。チーム全員で成長していけたらと思います」