「ロックスターはいない」。ブラックラムズ、ピンチに強い「DNA」の背景は。
ピンチのたびに魅力を振りまいた。
3月10日、東京・秩父宮ラグビー場。夜空と同じ色のジャージィをまとったリコーブラックラムズ東京は、国内リーグワン1部・第11節に臨んでいた。
前半13、15分頃と、続けて後退させられた。対するコベルコ神戸スティーラーズに、数的不利のあった左大外を突かれたのだ。敵陣中盤から、自陣深くまで戻った。
本領発揮はここからだった。
突破を許すたびに、快速WTBのネタニ・ヴァカヤリアが、元ウェールズ代表CTBで今季新加入のハドレー・パークスが、大きく駆け戻って走者を仕留めた。ミスを誘った。失点を免れた。
同僚のWTBである栗原由太は、「結構、思ったよりも苦しい場面があった。意図とは違ったのですが」。つまり「意図」しない状況にあっても、ハードワークで決壊を防いだのだ。
10-5とリードして迎えた前半29分、36-19と差をつけていた後半35分頃には、自陣ゴールライン上で粘った。トライを与えなかった。
合言葉は「キャッスル」。自陣のゴールエリアを「城」と見立て、同22メートルエリアで敵軍の進撃を防ぐイメージだ。プレースタイルを独自の言語に昇華するブラックラムズにあって、栗原は続ける。
「そこにプライドを持っている。ここ(自陣深く)に来ると集中力が上がる」
殊勲者はブロディ・マクカランだ。対戦したスティーラーズから移籍したてのFLは、17分、相手のミスキックを捕ってからの疾走でトライ。何よりタックル、接点への球への絡みを重ねた。
「それは、自分の仕事ですね。ディフェンスが、とても大事」
ブラックラムズは2018年度の旧トップリーグ王者のスティーラーズに対し、堅守、こぼれ球への反応、好機における技術の正確さで対抗した。41-26。リーグワン1部の第11節で5勝目を挙げた。
序盤に黒星が先行したのを踏まえ、ピーター・ヒューワット ヘッドコーチは言う。
「選手たちはずっと、ハードワークを続けていた。自分たちがいいチームだと気づけたんじゃないかと思います。常に選手に言っていたのは、『1試合でどちらに転んでもおかしくない。最初、連続で負けたが、ワンゲームをよく戦えれば、状況は変わる』ということです」
今季は前年度のファイナリストだったワイルドナイツ、サンゴリアスとの試合でも、「キャッスル」を守るシーンを披露している。
思えば2013年度に就任の神鳥裕之監督時代から、グラウンド外での規律とグラウンド内での無形の力を重んじてきた。粘り強い防御を紡いできた。
かつてサンゴリアスで働いていたヒューワットが着任して2シーズン目の今季。「自分たちがどんなチームなのか」を、選手同士で話し合ったのがよかったという。
スティーラーズ戦を欠場したSHの山本昌太は、こう証言する。
「出てきた言葉は、泥臭さ、がまん強さ、あきらめない姿勢。これが特徴であり、DNAなのではないかと。ラインブレイクされたり、キックを蹴られたりしたら、しっかり走って戻る。そういう誰でもできることを、強みにしていこうと」
ヒューワットと同じく元サンゴリアスの若井正樹ハイパフォーマンスマネージャーは、「ZUU」と呼ばれる動物の動きを模したトレーニングで身体の根っこを鍛える。
マクカランは笑う。
「プレシーズンの時のZUU。めちゃめちゃ、きついです」
ヒューワットは何度でも言う。
「うちにはロックスターはいない」
特定の戦力に頼らずとも鍛錬の成果で勝負できる。その矜持の表れか。
指揮官は続ける。
「自分の仕事をきっちり、しっかりやる。そうすれば、本当にタフなチームになる。勝負なので、その日の相手に上回られて負けることもあるのかもしれません。それでも、ベーシックなことを高いレベルでやる。そうすれば、勝ちに近くなる」
リーグで「カテゴリーC」と分類される他国代表経験者のメンバーには、パークスのような下働きで光る名手を並べる。原則、当該選手とは複数年契約を交わし、生え抜きとの相乗効果を促す。
一部報道では、来季以降のビッグネームの加入が伝えられた。その件について西辻勤ゼネラルマネージャーは「ノーコメント」とするが、これとは別な文脈で本心を明かす。
「ちゃんと自分たちのカルチャーを理解し、コミットしてくれる人がいい。その条件に合わなければ、どんなにいい選手でも採る気はないです」
本当の意味でよいクラブを作る。その途上にある。