クワッガ・スミスの一貫性。「模範を示すのを念頭に」
ファフ・デクラークは負けず嫌いだ。
「ほぼ、成功した感じです。惜しかった!」
身長172センチ、体重88キロと小柄ながら、激しい防御と積極性で世界的選手となっていた31歳だ。
振り返るは3月3日のプレーである。この夜は東京・秩父宮ラグビー場で、横浜キヤノンイーグルスのSHとしてリーグワン第10節に先発していた。
前半38分頃。自陣ゴール前左でピンチに反応した。対する静岡ブルーレヴズのNO8が、視線を横切るのを逃さなかったのだ。
捕まえたか。
捕まえきれなかった。
「絶対にいいプレーをしてくると思い、対策していたのですが…。世界トップクラスのプレーをされてしまいました」
デクラークを振り切りトライラインを割ったのは、クワッガ・スミス。ブルーレヴズの共同主将を務める29歳だ。大きなストライドで少機を活かし、目下12チーム中4位のイーグルスに8-15と迫った。夜空に歓声が響いた。
南アフリカ代表同士の激突でもあったこの場面。スミスは「(代表で)一緒にやっているチームメイトと対戦することには不思議な感覚がありますが」と笑いながら、勇ましく振り返る。
「相手が誰なのかは関係なく、チームのために自分のベストを出し続けることを頭に入れています。全力でした」
このビッグプレーを経て、ブルーレヴズは巻き返した。
ハーフタイム明けに直面した波状攻撃に耐え、FBにサム・グリーンを投じて攻めを活性化させ、15-15と同点に追いつき終盤を迎えた。
その間もスミスはシャープな走り、間一髪のインターセプトで魅した。さらに後半31分、この夜最大のハイライトシーンを作る。
敵陣ゴール前左で相手ボールのラインアウトに対峙。組織で圧をかける流れで接点に絡む。反則を誘う。
刹那、自ら速攻を仕掛ける。
球をインゴールへねじ込む。
一瞬の出来事は直後のコンバージョン成功も呼ぶ。ここまでわずか2勝ながら上位陣とも接戦を演じてきたブルーレヴズは、22-15と7点差をつけクライマックスを迎えたのだ。
スミスはこうだ。
「どんな時でもいいパフォーマンスをする、模範を示すのを念頭に置いています」
スミスの公式サイズは「身長180センチ、体重94キロ」。昨今2メートル級も増える国際舞台のFW市場にあっては、大柄ではない。
真骨頂とするのは、身体つきでは証明されない強さ、しなやかさだ。
2018年に加入以来、ハイパフォーマンスを披露した。5シーズン目の今季は、主将を任された。シンボルとして戦う。
「主将をすることは自分にとってプラスになっている。大きな責任がありますが、充実しています。国際舞台でプレーする選手としても、模範を示していきたいです。最後の数分で(白星を)失うようなゲームから抜け出し、勝ち始めていきたいです。私たちは全員がハードワークできるチーム。どんなことがあってもやっていけると信じています」
イーグルス戦は結局、22-22で引き分けた。スリリングなトライで勝ち越した直後、キックオフの攻防を経て同点に追いつかれたのだ。
試合後の会見で、堀川隆延ヘッドコーチは表情をゆがめる。
「ラスト10分…。自分たちが本当にどうしていくのか、選手とコミュニケーションを取って改善したいです。選手は一試合、一試合、成長を遂げていて、まだまだ成長できる」
しかし、ちょうど臨席していた主将については、「素晴らしいです。本当に。これ以外の言葉はないです」。さらに話を広げる。
「インターナショナルなプレーを毎試合、見せてくれることで——クワッガには申し訳ない(言い方)ですが——日本で同じポジションをする身体のそんなに大きくない大学生、高校生が夢、希望の持てるプレーをしてくれていると思います」
長らく主戦HOとして働く日野剛志は、こう証言する。
「彼はどんな試合でも、どんな相手にも、公式戦でなくても、一貫性を持ったプレーをします。真摯に向き合っている。手を抜かないですよね。外国人選手だからといって日本人選手と違うことをするのではなく、チームに与えられた練習を自分のなかでこなす。ラグビーへの姿勢に一貫性があるから、ゲームでのパフォーマンスにも一貫性がある」
自分らしく戦い、自分のいる組織に影響を与えるスミス。11日の第11節では、2年連続国内4強以上のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを迎え撃つ。
本拠地のエコパスタジアムで、いつも通りに働く。