フランス代表の15番定着へ。トマ・ラモスの価値
「フランス代表の10番はンタマックかジャリベールか?」と現地メディアやファンの間で議論されてきた。
しかし、今季序盤に負傷してブランクがあったにも関わらず、昨秋のテストマッチではロマン・ンタマックが10番に起用されたことで、この議論はいまのところ収まっている。
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今現在はむしろ、「フランス代表の15番は誰が着けるのか?」が話題となっている。
ファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)は、集団的経験値を大切にしている。選手の負傷や、リーグとの規定で試合数が制限された時以外はメンバーを固定し安定したチームづくりを心掛けてきた。
しかし15番だけは、毎年変わってきた。
就任1年目は3部リーグからモンペリエに移籍したばかりのアントニー・ブチエが抜擢された。
ブチエはイングランド戦で自陣ゴール前から敵陣深くに達するロングキックなどで期待に応えただけでなく、パスやランでも評価を得た。しかしハイボールで苦戦した。
2年目は、代表から2年以上遠ざかっていたブリス・デュランが起用された。経験もあり、後方から攻め上がる能力があり、ハイボールにも強い。ただ、キックの飛距離に欠けた。
3年目のシックスネーションズでは、メルヴィン・ジャミネが抜擢される。正確なゴールキックと「キックの飛距離はインターナショナルレベルで1、2位を争う」とガルチエHCは評価している。
しかし、トップ14での経験もまだ2年目と浅い。昨夏の日本との第2戦では、新人のマックス・スプリングに15番を委ねられた。
そして今年は、トマ・ラモスが15番を背負っている。
所属するトゥールーズでのラモスの活躍を見てきたファンからは、「やっと彼に順番が回ってきた」という声が聞かれた。
ジャミネほどの飛距離はないが、ラモスも正確なキッカーである。プレーの基礎もしっかりできていて安心感もある。
SOもできる。所属するトゥールーズがトップ14で優勝した2019年、2021年の決勝で10番を着け、チームを指揮していたのはラモスだ。
代表でも、グラウンドにもう一人SOの働きができる選手を置くことにより、ンタマックの負担を減らすこともできる。
またトゥールーズ一緒にプレーしているンタマックやデュポンと息が合っていることもラモスを起用するポイントの一つだ。
さらにチームは、キックを多用するこれまでの戦術から方向転換しようとしている。
もう少し積極的にボールを持ってアタックを仕掛ける戦術を採り入れたいスタッフの意向も、すでに怪我から復帰しているジャミネより、ラモスが選ばれている理由だろう。
ラモスは相手のプレーを読み、カウンターアタックを仕掛けるセンスを持っている。スコットランドのSOフィン・ラッセルの飛ばしパスを読み、インターセプトしてトライにまで持って行ったのがいい例だ。
ラモスがトゥールーズのプロチームでデビューしたのは2014年。まだ18歳だった。
当時、トゥールーズにはフランス代表47キャップのクレマン・ポワトルノーがFBにいた。ポワトルノーが不在の時はマキシム・メダールが15に入った。
なかなか出場機会が回ってこない。3年後、2部リーグのコロミエにレンタル移籍することになった。
「1年でトゥールーズに戻る」と決心して臨んだコロミエでのシーズン。24試合に出場し、そのうち23試合で15番のジャージーを着た。ゴールキックも任されて347点を挙げ、2部リーグで得点王、そして最優秀選手にも選ばれた。
翌シーズン、トゥールーズに戻り15番で連戦する。2シーズン目にはトップ14で得点王となり、2019年のシックスネーションズでフランス代表初キャップを得た。
7か月後にはワールドカップ(以下、W杯)のスコッドに入り、来日。アルゼンチン戦で後半途中に出場し、続くアメリカ戦では先発出場した。
しかし後半はじめに足首を負傷し、彼の初W杯は終わった。
代表チームがガルチエ体制になってからは、代表合宿には参加していたが、試合出場機会はなかなか巡って来なかった。クラブと代表合宿を行き来する状態が続いていた。
その間もクラブで活躍を続けながら、時を待った。昨秋のテストマッチ前にジャミネが負傷し、ようやく巡ってきたチャンスをしっかり掴んだ。
「メルヴィン(ジャミネ)が10連勝していてプレッシャーもあっただろうが、トマはとても良かった」とガルチエHCの信頼も得た。
そして「このポジションに新たな競争が生まれた」とレ・ブルーの名将は続けた。
今大会でフランスチームは自陣からの脱出に苦戦している。ジャミネのようなロングキックが必要なのでは、とも言われている。
次の対戦相手のイングランドはキッキングゲームを得意としていることから、「次はジャミネが再び選ばれるかもしれない」と議論は止まない。
ところで今季トゥールーズには、ジャミネと一緒にイタリア代表FBアンジュ・カプオッゾも加入している。アルゼンチン代表FBフアン・クルス・マリアも含めると4人の国代表FBがこのクラブに在籍している。
「一度試合が始まると背中の番号は関係ない」(トゥールーズ ユーゴ・モラHC)というトゥールーズのラグビーの中で、ジャミネがどう成長していくのかも楽しみだ。