国内 2023.03.03

ラグビー、最後のキャリアは千里馬で。FL李智栄選手

[ 見明亨徳 ]
ラグビー、最後のキャリアは千里馬で。FL李智栄選手
全国クラブ大会決勝戦。ゲインを狙う千里馬クラブの李智栄選手(撮影:見明亨徳)


 「第30回全国クラブラグビー大会」の決勝は2月19日に熊谷ラグビー場でおこなわれ、大会連覇を目指した慶應大ラグビー部OB創部のハーキュリーズと、26大会ぶりに決勝進出となった大阪朝鮮高OB創部の千里馬クラブが対戦した。前半からハーキュリーズが有利に進め、19-0(前半14-0)で2大会連続3度目の優勝を飾った。

 在日チームのあらゆるジャンルで初の日本一を目指した千里馬、2022年に加入したFL李智栄(り・じよん)はラグビー人生最後のキャリアを母校の仲間たちと戦っている。決勝後「相手のほうがひたむきでチャレンジャーでした。千里馬のほうがチャレンジャーでなければいけなかった。来年も千里馬で続ける気持ちが強くなった」と語った。

 1994年10月5日生まれの28歳。179センチ、92キロ。大会パンフレットには職業欄に「2次会BAR」と記載されている。東大阪朝鮮中で楕円球人生を始め、大阪朝高から京産大へ進んだ。その間、ジュニア・ジャパン、U20代表にも選出された逸材だ。大学卒業後は、2017年春にトップリーグのNTTドコモレッドハリケーンズに入団。得意のタックル、ブレークダウンでの相手ボール奪取(ジャッカル)で見せ場を作ってきた。しかし、チームは親会社のNTTの意向のもと、2022年リーグワン初年度シーズンを終えてNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安とチーム再編を実施した。トップチームは「浦安D-Rocks」として今季はリーグワンのディビジョン2で戦う。NTTドコモレッドハリケーンズ大阪はディビジョン3へ降格となった。

昨年6月、在日選抜として韓国代表と対戦。「日本代表を狙う心はあった」(撮影:見明亨徳)

 李は、昨年6月、アジアラグビーチャンピオンシップへ向け強化のために来日した韓国代表と、在日選抜の一員として戦った。当時、「まだ上のレベルで戦いたい。日本代表という希望をかなえたい」と進路を見据えていた。しかし、「上のチームで契約がまとまらなかった。2部の下か3部しかこなかった。(ドコモには)残らないというのは自分で決めていた、線引きしていたので。ラグビー人生、最後は千里馬と決めていたのと起業家になりたいというのがあった。1年間、(元日本代表主将の)廣瀬俊朗さんらに相談してきました。自分の中でラグビー日本代表を目指す、それじゃなかったら『人に感動を届けたい』という軸があったので。それに振り切ったという形です」。

 今は大阪市内道頓堀の中心部でバーを経営している。「去年11月2日に『2次会BAR』を開店しました。経営しつつトップアスリートを目指す選手たちに還元したい。もっと人に喜んでもらえるとか感動してもらえるようなことをしていきたい」という。

大阪市内道頓堀にオープンした「2次会BAR」
経営者として夜20時から翌朝まで働く

 李が感動してもらえるのはラグビーをする姿でも同じだ。決勝戦、ハーキュリーズに敗れたが、タックル、ジャッカルを狙う。立ち上がり次のポイントへ。80分間走り続けていた。

 千里馬は1980年に大阪朝鮮高OBらが創部した古豪だ。全国クラブ大会は第1回大会(1993年度)から出場し、決勝でイワサキクラブに24-10で敗れ準優勝、第4回大会は六甲クラブに25-15で敗れ、2度の準優勝経験をもつ。そして今年が26大会ぶりの決勝進出だった。1回戦で過去11回の優勝を誇る神奈川タマリバクラブを後半逆転し23-14(前半 6-7)で制した。2回戦は敵地、福岡県久留米市で福岡かぶと虫RFCを24-15(前半 24-8)で破った。FLの7番をつけた李は前半4分に先制トライを奪った。
 準決勝は2月5日に名古屋の聖地・瑞穂。相手は、こちらも過去4回優勝の北海道バーバリアンズだ。タマリバとともに東日本の雄としてクラブシーンを率いてきた。千里馬は今大会キックが好調のSO呉尚俊(お・さんじゅん)がPGを決めて3点を先取した。19分、6番をつけた李が動いた、敵陣22メートル内の左ラインアウト。投じられたボールは並んだメンバーを越えて李の胸元に入った。すぐにゴールラインを目指す。止められたがラックからLO中西健人がインゴールへねじ込んだ。「(最初に)オーバーボールで僕が取るというのがサインプレーです。5番がトライは違うのですが」
――サインはウリマル(朝鮮・韓国語)で出している、新しく入った日本の選手もそれを覚えている。
「朝高のOBチームということで。今は半分が日本の方ですが、アイデンティティーというか、ウリマルを使ってサインを出しています」

全国大会準決勝。前半、ラインアウトのサインプレーから味方のトライにつなげた(撮影:見明亨徳)

 試合は前半17-0で折り返した。後半はバーバリアンズの猛攻撃をくらうが23-20と、後半33分の呉のPGで逃げ切った。李は試合後、「めちゃくちゃきつかった。ふだんラグビーばかりやっているわけでないので。自分の身体、後半になると。その見積もりが甘かった。僕の中で体も動く予定だったし、チームも余裕をもってやる予定だったのですけど、どこか気が抜けていたし、体も動かないで相手のペースになってペナルティを重ねた、という悪い流れでした。(在日初めての日本一を目指す)千里馬に入るまで知らなかった。背負って行きたい。歴史を変えたい」と臨んだが、結果は2位だった。

 バーを開いた理由は「外国人選手と仲良くなったのがお酒だったので、お酒ってすごいな。お酒って人生に必要なものじゃない、スポーツも。人生、ラグビーなくてもいいけど。彩をあたえるというか豊かにするために、お酒もバーもスポーツもいいなと思い開店しました。お客さんの8、9割はラグビー関係、在日関係。交流の場にしたい。日本代表になりたかったのは代表を通して何かファンの人たちとしたい、という気持ちが強かった。振り返るとわかった。いまはバーで頑張っている感じです。千里馬もできるだけプレーしたい。ラグビーは4月ころまで休み。今後は仕事とオフをうまく切り替えて体を作って来シーズン、闘えるようにしたい」。

来年こそ悲願の「日本一」へ。千里馬クラブ(撮影:見明亨徳)

 同じ第3列、NO8韓裕樹監督は「いつもと違う会場の緊張感で少しずつ全部にずれがあった。ハーキュリーズさんにうまくかわされました。チームの目標は、もともと今年(2022年度)は全国大会出場で来年日本一という計画だった。これで明確になった。今年を超えられるようやっていきたいと思います」。エンジと白ジャージーのラガーマンたちの日本一への戦いは、仕事との両立で春に再開する。

※「2次会BAR:大阪市中央区道頓堀2-4-4花扇ビル2階」

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