【ラグリパWest】近畿最西のラグビー部。兵庫県立姫路工業高校
姫路城は国宝であり、世界遺産である。白亜の天守閣は5層7階。天を衝く。
姫路工はその北に位置する。
「校舎に上がれば、お城が見えます」
原龍之介は言う。この兵庫県立の高校のラグビー部監督である。
姫路工の愛称は「ひめこー」。近畿のもっとも西に位置するラグビー部であり、そして15人制を堅持する。原はほほ笑む。
「私が赴任して、4月から3年目に入りますが、15人を切らしたことはありません」
現在の部員は2学年で20人。主将は新3年の中村潤心(じゅんしん)。経験者ということもあって、司令塔のSOを任されている。
「言うたら弱小校ですけど、15人で試合ができて、ベンチにも選手がいてくれます。恵まれていると思います」
姫路工の全国大会出場はない。
入部を途切れさせないのは部長の原卓也の存在が大きい。名の通った野球やバレーボールの退部者にも積極的に声をかける。新3年生11人のうち、7人は途中入部だ。
「人数が少なくて、ケガを怖れていたら、練習も試合もできません」
今いる教え子のために頑張る。監督と部長は同姓だが、縁戚関係はない。部員たちは名前で呼び分ける。
2人はともに6月生まれ。今年、原は25歳。部長は7つ上になる。青年首脳である。
「卓也先生に勧誘やお金の管理などをしてもらって、すごく助かっています」
原には感謝の念がある。
ほかのスポーツ出身でもすんなり格闘系のラグビーに溶け込めるのは地域性もある。
「この辺りは祭りが盛んです。だから、熱い子が多い。体育祭も盛り上がります」
灘のけんか祭りは神輿(みこし)をぶつけ合わせる。そういう激しさに慣れている。
「初心者でもタックルにビビる子はほとんどいません。すらすら技術に入れます」
原は理科の教員でもある。ここが初任校になる。出身は大阪教育大だ。
「化学を主体に、時々物理も教えます」
教育の道に進んだ理由がある。
「子供たちの成長が目の前で見てとれます」
母の尚美も臨時教員だった。
原は経験者である。友人に誘われ、3歳からラグビースクールに入った。スタートは西宮、中2で芦屋に移る。古賀由教(よしゆき)や人羅奎太郎は芦屋の同級生。古賀はBR東京(旧リコー)のWTB、人羅は花園L(旧・近鉄)のSHになった。
原の高校は西宮東。ラグビー部がなかった。ハンドボールをやった。現役生として大学に入ったあと、楕円球に戻る。
「離れてみて、またやりたくなりました」
大阪教育大は関西リーグのB(二部)である。177センチ、83キロの原はFLだった。
コーチ経験がほぼない分、専門書や動画などでその不足を補う。安全面は特に配慮している。グラウンドでのタックル練習は最初、マットを敷いて取り組ませる。
姫路工はこの1月の新人戦(兼近畿大会予選)は2回戦敗退。甲南に5−55だった。昨秋の102回全国大会県予選は3回戦で神戸村野工に敗れた。7−79。新人戦は2ブロックの4強、全国予選は8強目前だった。
「ベスト8を目指して、4強に入れたら」
主将の中村はチーム目標を立てる。
中村は4人いる経験者のひとり。タグラグビーから入り、中1で明石ジュニアラグビークラブに入った。慶大副将の山田響や7人制日本代表に入った近大の植田和磨の後輩になる。2人ともに報徳学園に進んだ。県内最多、冬の全国大会出場48回を誇っている。
「報徳はレベルが高過ぎました。それに高校を卒業したら働くつもりでした」
就職に有利。さらに自宅から30分ほどで通えることもあって姫路工を選んだ。
「ラグビーの上手な子は県内や県外の強い学校に誘われます。でも、上手くなくとも、ラグビーが好きな子たちはいます」
原は話す。県西には明石、加古川、姫路などのラグビースクールがある。その受け皿になってゆく青写真を描いている。
姫路工の創部は1950年(昭和25)。報徳学園より2年先んじる。県決勝進出は1985年の新人戦。御影(みかげ)に9−11だった。そのジャージーは黄×紺の段柄である。
OBには山本剣士(けんし)がいる。S東京ベイ(旧クボタ)に所属する。186センチ、115キロのPRはここから大体大に進んだ。古いOBには駒井正彦(故人)がいる。兵庫県ラグビー協会の会長など歴任した。
姫路工の学校創立は1936年(昭和11)。今は全日制の男女共学校である。6科制で原が担任をする溶接や機械などがある。
「スクラムマシンやバーベルのおもりを置くラックなんかは自分たちで作れます」
標榜する「ものづくりの学校」を部活動でも実践している。
代表的な運動クラブとして野球やバレーボールがある。野球は春夏の甲子園に5回出場。2001年には右腕・真田裕貴が巨人にドラフト1巡目で入団する。バレーボールは32回の近畿大会出場がある。
ラグビーやその野球が使うグラウンドは土。一辺100メートルほどの正方形の広さで、サッカーを含め三分割して使う。平日の練習は放課後の3時間ほど。照明はついている。教室を転用したウエイトルームもある。ほかの公立と比べて環境は悪くない。
中学生は経験者2人の推薦での受験が報告されている。競技推薦はないが、学業や校内活動を重視した推薦はある。
「播州という地域にも15人制にチームがある、ということを示し、その灯を消さないようにしてゆきたいですね」
原は力を込める。このチームの隆盛(りゅうせい)は、単に学校のみにとどまらない。地域やラグビーのためでもある。「ダブル原」に課せられている使命は小さくはない。