国内 2023.02.19

好調の裏に決断と準備。サンゴリアス中村駿太が感じる信頼の条件とは。

[ 向 風見也 ]
好調の裏に決断と準備。サンゴリアス中村駿太が感じる信頼の条件とは。
サンゴリアスの中村駿太。2月18日のブラックラムズ戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチ (C)JRLO


 好調なのでは。

「そうなんですよ!」
 
 間髪入れずに応える。

「なので、けがだけはしないように」

 中村駿太。東京サントリーサンゴリアスに加入7年目の28歳だ。12月中旬からの国内リーグワン1部でハイパフォーマンスを保つ。

 最前列中央のHOでここまで8戦中7度、先発する。スクラムを安定させ、突進、タックルで相手の懐をえぐり、多彩なパスで味方を快適に走らせる。

 2月18日、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場。第8節でも2番をつけた。

 対するリコーブラックラムズ東京に攻め手を封じられながらも、18-7で白星をつかんだ。今季7勝目だ。

 自身も、リーグ選定のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。前半7分と28分にトライを決めたうえ、見せ場のスクラムで再三、反則を誘った。

 かねて「スクラムの成功率を上げたい」と話しており、特にこの日は「ヒットのパワー」を意識したという。ぶつかり合う瞬間、FW8人の力をフル出力したかった。

「それが、(実際に)出せた」

 活躍の裏には、決断と準備があった。
 
 社員選手からプロ選手に立場を変えたのは、昨年9月のことだ。

 携わっていた首都圏の酒屋、飲食店への営業の仕事は充実していた。

「仕事は楽しかったですし、大好きでした。いまでも元同僚と連絡を取っている」

 それでも退路を断ったのは、「人生は1回。好きなことに100パーセント、打ち込みたい」との思いがあったからだ。過去2シーズン続けて好成績を残し、「プロでやっていける自信」がついたのも大きかった。

「フレッシュな気持ちでできている。ラグビーに賭ける、あとがない。そういう気持ちが芽生えました」

 プロ転向と前後して、「コンディショニングのベースを作れた」のもよかった。

 一時は右肩の故障の影響で上半身のトレーニングができず、段階的に体重が減っていた。

 心機一転。昨季終了後からリハビリを重ね、復調してから約半年間、ジムに通いつめた。筋肉を中心に増量できた。

 いまの公式サイズは「身長176センチ、体重105キロ」。海外選手のひしめくリーグワンでも、好感触を得ている。鍛錬期を振り返って笑う。

「ウェイト(トレーニング)を週8回。はい。1日2回です」

 サンゴリアスは人材の宝庫だ。学生シーンの実力者が相次いで門を叩き、国内屈指の部内競争を繰り広げる。果たして旧トップリーグでは5度、優勝している。

 いったいなぜ、サンゴリアスに好素材が引き寄せられるのか。

 杉並少年ラグビースクール、北中野中、神奈川の桐蔭学園高を経て、明大では2015年度の主将を務めた中村駿太は、こう説く。

「スタッフも一流。入ってから成長できるのが、一流の選手が選ぶ一番の理由かなと」

 その言葉通り、かつては世界的名将のエディー・ジョーンズが率いたことのあるサンゴリアスでは、多くの名コーチも在籍してきた。

 2016年度からトップリーグ2連覇の沢木敬介元監督は、ジョーンズとともに日本代表のスタッフとして2015年のワールドカップ・イングランド大会に挑戦。歴史的3勝に喜んだ。

 現在は、明大を率いて日本一となった田中澄憲監督がけん引する。元日本代表HOの青木佑輔がスクラムを教える。体制が変わっても、ハードワークが求められるのは変わらない。

 年代別代表に入るような「一流」の若者は、複数のチームからオファーをもらう。それでも出番が得づらいかもしれず、練習の厳しいサンゴリアスを選ぶのは、その選手が困難に立ち向かう「一流のマインド」を有している証拠だ。中村駿太は、このようにも分析する。

 さらにサンゴリアスで長く信頼されている選手には、いくつかの共通項があるとも感じる。

「適応する能力がある」

「自分に厳しくできる」

「けがが少ない」

「プレーの波が少ない」

 特に「プレーの波が少ない」の項目では、昨季までCTBとして爪痕を残した村田大志、FLで34歳の小澤直輝といった、渋く光る職人を例に挙げる。

 2人とも「練習でも常に安定したパフォーマンス、細かいスキル(への意識)を心がけている」のだという。

 もちろん自身も、その隊列に入らんとしていよう。

 現在、同じポジションで共同主将の堀越康介が故障離脱中だ。

 昨秋の日本代表にも加わった堀越は、2学年上の中村駿太の活躍をこう見ている。

「去年、僕が出ていない時にもいいプレーはしていたので、これくらいやるだろうな、やってもらわないと…と」

 一方、中村駿太は、堀越へ「早く、戻ってきて欲しいです」とエールを送る。

「チーム内でいい競争ができれば、レベルアップできる。帰ってきてもらって、またバトルしたいです!」

 ポジション争いが力になるのを、肌で知る。つくづく、生粋のサンゴリアス戦士だ。好敵手の帰還を待ちながら、次戦でも「自分の強みをチームのなかで発揮する」のを意識する。

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