20歳の柱。大きく低いワーナー・ディアンズ、「府中ダービー」で何を警戒する?
正真正銘の中心人物だ。
ワーナー・ディアンズ。東芝ブレイブルーパス東京所属の20歳である。
流経大柏高を卒業してすぐにプロになり、一昨年の秋には国内公式戦デビューを前に日本代表のジャージィを着た。同級生選手の多くは、まだ大学2年生だ。
昨年に発足したリーグワン1部では、クラブの主戦級のLOとして躍動したディアンズ。同年秋の日本代表活動にあっては、藤井雄一郎ナショナルチームディレクターに太鼓判を押された。
「MVP級」
10月29日には東京・国立競技場で、幼少期に憧れていたオールブラックスことニュージーランド代表に31-38と接戦を演じる。自身は後半16分、長身を活かした見事なキックチャージとトライを決めている。
ブレイブルーパスのサム・ワードFWコーチには、こう評される。
「ユニークなアスリートです。高卒後すぐにプロになり、まだプロがどういうものなのかを学んでいる途中。それでもオールブラックスとの試合で、よくプレーしている。学ぶ意欲がある。素晴らしい成長過程を踏んでいます」
身長201センチ、体重117キロというサイズで魅する。さらに特筆すべきは、高さがあるにもかかわらず低い姿勢でも光ることだ。
今季のリーグワンでは、昨年12月17日の初戦から存在感を発揮する。
敵地・熊谷ラグビー場で迎えた前半20分以降、ブレイブルーパスはグラウンド中盤でフェーズを重ねていた。
ここで4番をつけたディアンズは、クリーンアウトと呼ばれる相手のジャッカルを引きはがす動きを連発する。
堅守が自慢の埼玉パナソニックワイルドナイツに、思うような展開に持ち込ませない。
24分、ディアンズの牙は名物選手にも向く。
左PRで日本代表の常連でもある、稲垣啓太のジャッカルをクリーンアウトする。
長躯を折りたたみ、地面のボールとかがむ稲垣の間に肩を差し込む。稲垣に尻もちをつかせる。
「身体が慣れているスキル。とにかく速く(接点に)入る、と考えた」
この日は19-22で惜敗も、技術の価値は損なわれない。ワード コーチは言う。
「彼がクリーンアウトについて何をすべきかがわかっているため、その正確性が生まれているのだと思います」
ディアンズが中心たるゆえんは、グラウンドの外にもある。
ワード コーチによると、チームではベテランの森太志、三上正貴ら計8名が、攻防の起点であるセットプレーに関するリーダー陣を組む。その並びに、ディアンズも若くして連なる。
空中戦のラインアウトで、同じLOのジェイコブ・ピアスとともに相手ボールを奪い続けられるのはそのためだ。
準備の賜物。本人は説く。
「前の試合で何がうまくいったかを皆で話し合って、(その後の練習で)相手がだいたいやってくる動き、相手がボールをどこで捕っているかをチェックしてから、(次の)試合に入る。で、実際の試合で何か(事前の想定と)違うことがあったら、そのことを確認して変える(対応する)というイメージです」
ここまで4勝2敗というチームの状況を聞かれ、こうも話す。
「前の試合の修正点を練習し続けて、いい方向に来ています。(シーズンの)最初のほうの試合では、規律のところがよくなかったけど、少しずつ反則の回数、小さいミスも減ってきている感じです」
2月5日には東京・秩父宮ラグビー場で、大一番を迎える。
昨季準優勝で、同じ地域を本拠地とする東京サントリーサンゴリアスと通称「府中ダービー」をおこなう。
ブレイブルーパスは昨季、旧トップリーグ時代の2015年度以来となる4強入りを果たしている。
ぶつかり合いにこだわる伝統を有しながら、独自の攻撃布陣も披露する。FW選手が立ち並ぶ箇所へ、俊敏性に勝るWTBの選手が駆け込んで突破する。質的優位を活かす。
対するサンゴリアスが活かしたいのは、数的優位だ。
順目と呼ばれる、接点から球を動かした方向へ複数名が回る。防御の的を絞らせまいと、それぞれがパスコースへ駆け込む。持ち前の持久力と速さでその動作を繰り返し、相手の守りの人員が足りなくなる頃には止めを刺す。
サンゴリアスの面々が「昔のサンゴリアスに戻った」とうなずく、同部にとってのベーシックなスタイル。これにブレイブルーパスのディアンズは、あえて「体力勝負」を挑みたいという。
「順目に回ってくる相手には、僕たちも順目に回ってタックルするしかない。それをやっていきたい」
さらには日本代表NO8のテビタ・タタフの突進力、LOで身長206センチのハリー・ホッキングスのラインアウトを警戒して臨む。
「相手のFWには、ボールキャリー(突進)が強い選手がいっぱいいる。タタフが強い。ホッキングスはラインアウトディフェンスで競ってくる」
今季終了後にフランス移籍のタタフを警戒するのは、FLで先発の徳永祥尭も然りだ。
日本代表経験者でもある徳永は、タタフを「わかっていても止められない強さがある」としながら、タタフに勢いづかせないよう組織で戦いたいと話す。
ボール争奪局面に腕や身体を差し込み、その間に揃えた防御ラインで一気に圧力をかけたいところか。
「相手はスペースがあったり、ボールを持ってからの時間が長かったりすると強みを出してくる。それがないよう早めに、早めに…(圧をかける)。あいつ(タタフ)にボールが渡る前に、あいつにいいボールが渡らないように、プレッシャーをかけられるようにしたいです」
ライバルの攻撃力を削ぐことで、自分たちの攻撃力を発揮する機会を増やしたい。そのためにもディアンズは暴れる。