国内 2023.02.01

来日4季目。イーグルスのエスピー・マレーが示したい「選手としての価値」。

[ 向 風見也 ]
来日4季目。イーグルスのエスピー・マレーが示したい「選手としての価値」。
ワイルドナイツ戦でサインプレーからトライを決めた直後のエスピー・マレー(撮影:松本かおり)


 ラグビー選手はワインのようだ。

 そう表現するのはエスピー・マレーだ。身長185センチ、体重95キロの33歳で、横浜キヤノンイーグルスに加わり4季目に突入した。

 1月28日、埼玉・熊谷ラグビー場。国内リーグワン1部・第6節に、最後尾のFBとして先発フル出場した。

 相手は埼玉パナソニックワイルドナイツだ。旧トップリーグ時代から国内シーズン2連覇中で、公式戦26連勝中の強豪である。

 優勝候補と目されるこのワイルドナイツから、イーグルスは試合終了5分前にリードを奪った。

 19-14。NO8のシオネ・ハラシリがインゴールを割り、マレーがコンバージョンを成功させた。

 ところが、直後の相手ボールキックオフでピンチを迎えてしまった。

 自陣22メートルエリア左で飛んできた球を捕ったマレーへ、相手WTBの竹山晃暉がタックル。そこで生まれた接点へ、ワイルドナイツの戦士たちが次々と身体を差し込んだ。

 イーグルスはワイルドナイツにペナルティキックを与え、直後の攻防こそなんとかせき止めるも陣地挽回には至らなかった。

 ラストワンプレーでPRのヴァル アサエリ愛のトライ、SOの松田力也のゴールキックが決まり、イーグルスは19-21で今季4勝目を逃した。

 王者の連勝ストップへ間近に迫りながら、最後はひっくり返されたのだ。

 しかしその悔しさを、マレーは肥やしにしているだろう。

 ベテランの域に差し掛かってもなお、体験を進歩につなげる意欲を失わないからだ。

「年齢は、ただの数字です。赤ワインが熟成していい味になるのと同じで、私も経験してもっと日本のラグビーのリーグに貢献できるようになりたいです」

 激しいジャッカルと高い弾道のキックで今度の接戦を支えたひとりでもあるマレーは、南アフリカで生まれ育った。

 前所属先である母国のストーマーズを離れ、新たな刺激を求めてイーグルスに入ったのは2019年のことだった。

 生き残りをかけていた時期が、昨年の春ごろにあったか。
 
 4月9日の大阪・万博記念競技場で、マレーはリーグワン元年の1部・第12節に出ていた。

 適宜キック、ランを使い分け、プレーオフ進出を争っていたクボタスピアーズ船橋・東京ベイを30-21で下した。プレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞した。

 直後のオンライン会見での談話に、緊張感がにじんでいた。

「私自身にとって、この試合はとても重要でした。選手としての価値を証明しなければいけない試合でした」

 その背景について、沢木敬介監督は「僕が、いつも、言っているからじゃないですか。外国人選手に対して」。沢木監督は毎週、全選手と1対1で面談をする。時には選手に「言っている」。すなわち、発破をかける。

 当時のマレーには、こんな思いで接したようだ。

「市場にはいろんな選手がいるわけで。そのなかで必要とされる人間が、チームに残っていく」

 折しも、新しいシーズンに自国代表SHのファフ・デクラークを迎えると報じられていた。新外国人選手の加入は、既存の海外出身者にとっては限られた出場枠の争いが激化することを意味する。

 とにかく、ずっとこの国にいたいと考えるマレーは、尻に火をつけて大一番に臨んでいたわけだ。

 果たして、活躍した。

 例のスピアーズ戦から約1か月後のことだ。練習場でゴールキックのセッションをするマレーを見て、指揮官は「SP! Good! Keep!」と声をかける。静かにうなずく。

「(マレーの調子は)いいですよ」

 2020年に就任の沢木監督は、2015年まで日本代表のコーチングコーディネーターとして当時のヘッドコーチだったエディー・ジョーンズのもとで働いた。

 今年、約18年ぶりにオーストラリア代表の指揮官となったジョーンズは、選手やスタッフへ献身を求めることで知られる。

 そのためマレーは、いまでもジョーンズと連絡を取り合う沢木のアプローチをこう見ていた。

「エディー・ジョーンズと一緒に仕事をしていた彼は、選手にプレッシャーをかけることで成長させようと考えています。私のこともただの外国人と捉えるのではなく、私をワールドクラスの選手にしようとしている。すごく、いいコーチだと私は捉えています」

 来日3シーズン目にあたる昨季は結局、最後までパフォーマンスを安定させた。悲願のプレーオフ行きを目指す今季も、攻撃的なイーグルスの希少なアクセントとなっている。

 肉弾戦で身体を張るうえ、左足で長短のキックを放てるのだ。

 前にボールを投げられないこのスポーツにあって、足技は敵陣へ進むための有効な手段だ。利き足の異なるキッカーが並べばより広範囲に蹴られるため、相手は的を絞りづらい。

「テリトリーを獲得するうえで、自分の左足はチームに貢献できるポイントになっています」

 日本語も徐々に上達しつつあるマレーは、今年に入ってからの取材でこうも話していた。

「このリーグのなかで、ベストのFBになるのが目標です。自分を成長させ続けたい、レベルの高い自分を目指したいのです」

 ちょうどその後ろを通過した国内選手に、「ええこと言うなー!」と関西弁で投げかけられた。意味がわかった様子で笑った。

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