国内 2023.01.26

【車いすラグビー日本選手権】高知のFreedomが初優勝!

[ 張 理恵 ]
【車いすラグビー日本選手権】高知のFreedomが初優勝!
初優勝のFreedom(前列で副賞パネルを持つのが和田、中列・右から2番目#3が畑中)。(撮影/張 理恵)



「Freedomがあるから僕が車いすラグビーを始めた。それを作ってくれた二人に感謝しています」
 自身初の大会MVPを獲得した池透暢は、穏やかな笑顔でそう語った——。

 1月20〜22日、車いすラグビーのクラブチーム日本一を決める国内最高峰の大会「第24回車いすラグビー日本選手権大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)でおこなわれた。

 車いすラグビーの日本選手権は2019年12月の第21回大会以降、新型コロナの影響による中止(22回、23回大会)が続き、実に3年ぶりの開催となった。

 予選大会を勝ち抜いた8チームが出場した本大会は、2つのプールに分かれて4チーム総当たりの予選ラウンドをおこなった後、各プールの上位2チームが準決勝を戦い、頂上決戦を迎えた。

自身初の大会MVPを獲得した池透暢。(撮影/張 理恵)

 決勝は、Freedom(高知)対 TOHOKU STORMERS(東北・以下、STORMERS)。

 車いすラグビー日本代表キャプテンの池透暢が選手兼ヘッドコーチを務めるFreedomは、2大会連続で準優勝に終わり、今年こそ優勝を果たそうと、ここまで全勝で勝ち上がってきた。
 メンバーには、チームを創設した最年長60歳の和田将英と50歳の畑中功介、若手成長株のひとり・白川楓也に、昨年度加入した女性プレーヤーの森澤知央らが名を連ねる。

 対するTOHOKU STORMERSは東京パラリンピック日本代表の中町俊耶と橋本勝也を擁し、パラリンピアンの三阪洋行と庄子健が「東北に車いすラグビー文化を根付かせたい」との思いから2017年に結成したチームだ。
 準決勝では大会最多、8回の優勝を誇る強豪チーム・BLITZ(東京)との大接戦を制し、チーム結成5年目にして初の決勝進出を果たした。

 円陣を組み、心をひとつにすると、チームの思いが託されたスターティングラインナップがコートに現れ、ティップオフの笛が吹かれた。

 STORMERSは橋本のアグレッシブな突破力で相手ディフェンスを破り、普段から一緒に練習しているからこそ成し得る絶妙な呼吸で、中町からのロングパスをノールックで受け取った庄子がトライを奪っていく。
 一方のFreedomは、日本随一の視野の広さを誇る池が司令塔となり、計算されたゲーム運びで得点を重ねる。

 両者ともに一歩も譲らない攻防が続くが、第2ピリオドで試合の流れが一気にFreedomに傾く。パスを出す相手の間を読みながら、池の高さ、そして白川のリーチの長さを生かしてボールをカットしターンオーバーを奪う。
 1点、2点…とSTORMERSをじりじり引き離し、26-21とFreedomの5点リードで前半を終えた。

 STORMERSが今シーズン掲げるスローガンは、「デュエル(duel=勝負)」。戦術・戦略といった“型”だけに捉われるのではなく、一人ひとりがまず目の前の相手に挑んで勝つことを追求する。

 パラリンピックを目指す選手から余暇として楽しむ選手まで、ラグビーへの考え方も生活スタイルも違うメンバーが集うなか、「手をつなぐ」を合言葉に誰一人取り残すことなく歩んできた。
 それが今やプレースタイルにまでこだわる集団へと成長し、初の決勝の舞台にも臆することなく堂々とした戦いぶりを見せる。

結成5年目にして初の決勝進出を果たした準優勝のTOHOKU STORMERS。(撮影/張 理恵)
決勝でデュエルを体現し続けた橋本勝也(中央)と優勝の立役者のひとり・白川楓也(右)。(撮影/張 理恵)

 後半に入っても、STORMERSにとって苦しい展開が続くが、車いすラグビーを始めてわずか半年、日本選手権がデビュー戦となった新人・横森史也の献身的なディフェンスに、橋本がデュエルで勝ち取ったトライで応える。

 しかし、ゲームを支配したのはFreedomだ。
 最大7点差にまでリードを広げると、勝利へのカウントダウンと言わんばかりに、ベンチメンバーが次々とコートに送り出される。

「決勝で、このチームを作ってくれた和田さん、畑中さんを、センターコートに出したい」
 大会が始まった頃、ヘッドコーチの池はそう語っていた。そうして、和田—畑中−池に、池と同時期にラグビーを始めたキャプテンの渡邉翔太が加わった「泣かせる」ラインナップが決勝の舞台で実現した。

 2013年に結成したFreedomは、日本選手権での最下位や出場すら逃す苦い思いも経験してきた。
 そんな時期をともに乗り越えてきた4人で最後にセンターコートに立とうと、池と渡邉は大会のだいぶ前から決めていたという。

 さらに、池を慕い移籍してきた白川や、東京パラリンピックを見て自分もラグビーをやってみたいと昨年度に加入した森澤をはじめ、メンバー全員が出場し、51-45で試合終了。
 Freedomがついに悲願の初優勝に輝いた。

「2大会連続で準優勝に終わり悔しい思いをしたが、三度目の正直でやっと結果が出た。自分が車いすラグビーを始めて10年近くこのチームでやってきたことが『初優勝』という形になって本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
 世界を相手に戦う目つきとはまるで違う、充実感に満ちたやさしい表情で、池は優勝の喜びを語った。

 20年前、40歳のときに車いすラグビーを始めたという和田。「引退の話は5〜6年前から流れていますよ。もう無理でしょ」と話すが、ようやく手にした優勝に「最高にうれしいです」と、とびっきりの笑顔を見せた。

 そして、当時は車いすバスケットボールでパラリンピックを目指していた池に3年間、断られながらもしぶとくアプローチを続けた創設メンバーの畑中は、「ここまで長かった。Freedomはいろいろな個性があって楽しいチームです」と、誇らしげにメンバーを見渡しながら語った。

 世界の大舞台で活躍する日本代表選手も、その原点はみな、クラブチームにある。多くの車いすラガーマンたちはクラブチームを「家族のような存在」だと語る。
 競技スポーツとしてだけではなく、生涯スポーツとしても楽しめるのもまた、車いすラグビーの大きな魅力だ。
 ドラマ以上にドラマティックで、数々の人間ドラマが生まれるクラブチーム日本一決定戦に今後も注目したい。

 車いすラグビーでは、クラブチームから日本代表へとカテゴリーを移し、パラリンピック予選前の貴重な実戦の場となる「2023 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が、2/2〜2/5に千葉市の千葉ポートアリーナで開催される。

 昨年の世界選手権で金メダルを獲得したオーストラリア、銀メダルのアメリカ、そして来年にパラリンピック開催を控えるフランスを、日本が迎え撃つ。
 迫力と興奮に沸く熱い戦いを、ぜひとも会場で体感してほしい。

【第24回車いすラグビー日本選手権大会 結果】
優勝:Freedom(高知)
準優勝:TOHOKU STORMERS(東北)
3位:BLITZ(東京)
4位:Okinawa Hurricanes(沖縄)
5位:AXE(埼玉)
6位:Fukuoka DANDELION(福岡)
7位:RIZE CHIBA(千葉)
8位:SILVERBACKS(北海道)

【ベストプレーヤー賞】
Class 0.5 :横森史也(TOHOKU STORMERS)
Class 1.0 :草場龍治(Fukuoka DANDELION)
Class 1.5 :乗松聖矢(Fukuoka DANDELION)
Class 2.0 :堀 貴志 (Fukuoka DANDELION)
Class 2.5 :荒武優仁(BLITZ)
Class 3.0 :島川慎一((BLITZ)
Class 3.5 :ザチャリー・マデル(Okinawa Hurricanes)

【大会MVP】
池 透暢(Freedom)

3位のBLITZは6名の少数精鋭でシーズンを戦い抜いた。(撮影/張 理恵)
3位決定戦で見応えあるマッチアップを演じた島川慎一(左)とザチャリー・マデル(右)。(撮影/張 理恵)


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