国内 2023.01.25

現在トライランキング1位の尾崎晟也、サンゴリアスが攻め切れるわけを語る。

[ 向 風見也 ]
現在トライランキング1位の尾崎晟也、サンゴリアスが攻め切れるわけを語る。
今季開幕から5試合すべてトライを決めているサンゴリアスの尾崎晟也。写真はスティーラーズ戦 🄫JRLO


 東京サントリーサンゴリアスの尾崎晟也は、1月某日、学生時代に通ったラーメン屋へ出かけた。折しも、出身の帝京大ラグビー部が大学選手権で優勝したばかりだった。これから来店する4年生部員の食事代にと、1万円札を置いていった。

 出身校が結果を出すなか、当の本人もハイパフォーマンスを維持する。

 目下、12月中旬に開幕したリーグワン1部に参戦中だ。タッチライン際のWTBや最後尾のFBとして、第5節までにリーグ最多の10トライを奪った。

 1月24日、都内の練習場で言った。

「まだ5節しか終わっていないので。ただ、結果として1位にいるのはすごく嬉しいですし、最終的にトライ王を狙いたいなと思っています」

 開幕前の準備期間に、足首の使い方を見直した。おかげで故障のリスクを減らし、ステップで相手をかわしてからもさらに加速できるようになった。

 もともと得意だった相手の死角への走り込み、最近になって意識する「ワークレート(仕事量)」との合わせ技で、好結果を生んでいる。

 取材日の2日前、東大阪市花園ラグビー場での第5節ではFBで先発した。51-10で4勝目を挙げ、プレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞した。

 危険地帯に蹴り込まれた際のカバーリングが光り、攻めては4トライを決めた。

 特に前半26分の1本目では、パスをしてから早めにボールをもらう「セカンドタッチ」への意欲を結実させた。

 まず自陣22メートル線付近右中間から駆け上がり、右端を走っていたNO8のテビタ・タタフへさばく。「テビならゲイン(突破)してくれる」と、さらに右へ大回りする。

 その「テビ」ことタタフが、敵陣10メートル線付近右で対する元オーストラリア代表SHのウィル・ゲニアを吹っ飛ばした。併走した尾崎が再びボールをもらい、スピードを落とさずトライラインを割った。

 自身のトライラッシュの背景には、チームの進歩があると実感していよう。

 今季のサンゴリアスは、OBの田中澄憲新監督のもと攻め方を刷新している。

 各選手が所定の位置に立って効率よく動くよりも、その時々で攻める方角へ複数名が駆け込むよう促す。個々の運動量を求める。

 このスタンスは、オーストラリア代表新ヘッドコーチのエディー・ジョーンズが率いていた2010年度からの2シーズン、沢木敬介監督のもと旧トップリーグ2連覇を果たした2016年度以降の3シーズンと似ている。

 2018年度入部の尾崎は言う。

「新しいというか、ちょっと前のサンゴリアスのスタイルを(採り)入れている」

 戦法の徹底ぶりを信じ切れた瞬間が、1月14日の第4節にあった。

 場所はノエビアスタジアム神戸だった。WTBで先発の尾崎は、後半35分、敵陣22メートルエリア右端でFBの松島幸太朗からパスをもらった。

 防御をかわして前に出る際、タッチライン際を走り切るのではなく、中央方向へ切れ込んだ。

 そのコースは防御が分厚くなるため、追っ手に捕まりやすくなる。ただし一方で、「全員が(攻める方向へサポートに)走ってくるのが前提にある。もし自分が(トライを)獲りきれなくても、その次がある」。必ず援護役が駆け寄ってくると確信できた。

 その通りとなった。向こうのタックルに倒されながら、走り込んできた同僚へバトンを渡した。

 受け手は河瀬諒介だ。早大卒のルーキーで、逆側のWTBとして途中出場でのデビューを飾ったばかりだった。

 果たして河瀬は、ファーストタッチでの初トライを決めた。

 この午後は、豪華戦力を擁するコベルコ神戸スティーラーズを39-19で制した。

 尾崎は改めて、サンゴリアスの組織性について話す。

「段々、かみ合ってきたと感じます。(いまの攻め方でなら)どこでチャンスが生まれ、どういうシチュエーションで抜けるか。それを皆が理解し始めています」

 それにしても、全員で一定方向に動いて数的優位を作るいまのシステムでは、突進と下働きを重ねるFWの選手に負担がかかる。

 だから尾崎は、「たぶん、相当、きついと思います。でも、よく走ってくれる」と味方FWに感謝する。こうも続ける。

「ひとりひとりのフィットネス(持久力の高さ)がベースにあるから、(いまの戦い方が)できる」

 身長174センチ、体重84キロの27歳。いまは3歳下の弟、泰雅も同僚だ。兄は京都の伏見工高(現・京都工学院高)、帝京大を経てサンゴリアスの門を叩いてから、攻守で渋い光を放ってきた。

 尾崎のアシストで初トライを記録の河瀬は、この先輩の得点力以外の凄みを居残り練習で感じているという。

「晟也さんに、ディフェンスのランニングコースを学んでいます。よく練習後に1対1をして、抜かれ! …そこから、アドバイスをもらえる。成長できていると感じます」

 2人が主戦場とするWTBは、防御のしにくいポジションでもある。頭上を越すキックを警戒しつつ、走力やスキルに長けた相手を止めなければならないためだ。

 河瀬は、尾崎がWTBに入った際の守りに「本当に、うまいです。なかなか、抜けないですね」。自分のところへパスが飛んでくるまでの間合いの詰め方、左右どちらかの進路を消すポジショニングの妙に感心させられる。

 今年はワールドカップがフランスである。帝京大4年時から日本代表のジャージィを着ている尾崎は、昨秋の代表活動に参加しながら、中盤以降にあった海外遠征のメンバーから外れた。

 大舞台へ出るには、いまのフィールドで結果を残すほかない。

「(代表入りは)意識しすぎず、サンゴリアスに100パーセント、フォーカス。その結果がつながり(代表に)呼んでいただければ、そこでも頑張りたい」

 自分がトライを獲る。味方にトライを獲らせる。相手にトライを獲らせない。その、ひとつひとつの勝負に集中する。

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