コラム 2023.01.26
【コラム】スタイルを信じ切る――トンネル脱出のカギは。

【コラム】スタイルを信じ切る――トンネル脱出のカギは。

[ 直江光信 ]
【キーワード】

 キックを蹴り込み、いいフィールドポジションでのディフェンスからプレーを組み立てる――という試合運びが現代ラグビーで主流になっているのは、そうした理由からだ。いったんは相手にボールを渡すことになるが、自陣ゴールラインまで距離がある位置でしっかりと防御陣形を整備しておけば、そう簡単に崩されることはない。相手が強引に攻めてきたところを狙いすましてターンオーバーできれば、一気にビッグチャンス到来となる。

 いまリーグワンでもっともこの戦い方に長けているのが、埼玉パナソニックワイルドナイツである。まずキックそのもの、そしてそれに対応するチェイスとディフェンス陣形のセッティングの精度が極めて高く、相手はなかなか突破口を見つけられない。反対に蹴り合いの中でわずかでも隙が生まれると、たちまちチーム全体で連動してカウンター攻撃を仕留め切ってしまう。

 1月21日、駒沢オリンピック公園陸上競技場。リコーブラックラムズ東京との一戦を注視してつくづく感心した。

 ワイルドナイツのプレーヤーは、蹴り込まれるキックをめったにバウンドさせない。的確なポジショニングと鋭い読みで地面にはねる前にキャッチし、すぐさま次の展開に移る。その結果、相手に体勢を整える間を与えず有利な状況で仕掛けられる。不規則なバウンドに手間取ることもない。

 何よりその意識が、特定の誰かではなくメンバー全員に浸透している。チームとして身体化されているとってもいい。不戦敗を除けばこの日で公式戦26連勝、「負けないワイルドナイツ」の真髄が、そこに垣間見えた。

 ライナーズはワイルドナイツではない。だから同じラグビーをする必要はない。ただ、一人ひとりの選手がチームの方針に沿って真摯に責任を果たす姿勢は、きっと参考になるはずだ。

 心優しきファンがホストスタジアムの花園ラグビー場の観客席を埋めた1月21日の東京サントリーサンゴリアス戦。タックルを改善し気迫をみなぎらせて挑んだら、前半の40分は対等に戦えた。フィジカルに関しては慣れの部分も大きい。1対1の接点とブレイクダウンで対抗できるようになれば、昨季ディビジョン2を席巻した攻撃力が輝きを放つシーンも自然と増えていくだろう。

 まずはここまで築いてきたチームのスタイルを信じ切ること。その上で、すべてのメンバーが全力を尽くして役割をまっとうする。その先に、トンネル脱出の光が見えると思う。

【筆者プロフィール】直江光信( なおえ・みつのぶ )
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長

PICK UP