国内 2023.01.23

ハードな挑戦者ブラックラムズから5勝目。ワイルドナイツの真骨頂は。

[ 向 風見也 ]
ハードな挑戦者ブラックラムズから5勝目。ワイルドナイツの真骨頂は。
黒い壁をブレイクするワイルドナイツのマリカ・コロインベテ 🄫JRLO


 前年度12チーム中9位のブラックラムズは、昨季王者のワイルドナイツに圧をかけていた。

 1月21日、本拠地の東京・駒沢オリンピック公園総合運動場。国内リーグワン1部・第5節に挑んでいた。

 6点差を追う前半17分頃、自軍キックオフからの防御でNO8のネイサン・ヒューズが仕掛けた。

 新加入した元イングランド代表経験者が密集から球をもぎ取り、その2分後にはスクラムでペナルティキックを奪った。3点差に詰めた。

 以後は耐えに耐えた。23分頃に自陣ゴール前左に攻め込まれながら、向こうの組むモールをせき止めた。その後の突進も跳ね返した。

 LOのロトアヘア ポヒヴァ大和の述懐。

「皆が役割、相手のこと(特徴)を理解して、(モールの防御に)入れた。あとは、フィジカルで戦う、相手より低くというテーマもあって、それを出せた(発揮できた)」

 泥臭いファイトスタイルで勝ちに迫った。

 しかし実際には、望みは叶わなかった。

 ピーター・ヒューワット ヘッドコーチが振り返る。

「80分間、いいパフォーマンスをしなければいけない。僕たちは約65分間、よくできたけど、80分間そのようにはできなかった」

 指揮官が暗に指摘する、望まれない「約15分間」。それは、ハーフタイムの直前に始まった。

 ワイルドナイツは前半37分、自陣の深い位置でキックを捕る。

 蹴り返すか。否。

 SOの松田力也からパスをもらったFBの山沢拓也は、迫る防御網の背後へ柔らかいキックパスを放つ。

 楕円球は、左端にいたアウトサイドCTBのディラン・ライリーへ渡る。激走。その先に援護が連なり、SHの内田啓介のトライなどが決まる。

 ブラックラムズは、必死にプレッシャーをかけていたのをいなされた格好。このチームの先発SOだった堀米航平は、脱帽した。

「アンラッキーな部分もあり、しょうがなかったかなと…。(自軍の穴を)見逃さなかったんじゃないかなと」

 ここで16-3としたワイルドナイツは、続く40分、山沢のキックをブラックラムズが落球するのを見逃さなかった。拾った球を首尾よく左のスペースに通し、パスを受けたライリーの強烈なハンドオフとランを絡め、敵陣の深い位置へ進む。フェーズを重ねる。

 最後は、左側にできたラックの右に立っていた山沢が、一転、加速し、接点のさらに左に組まれた攻撃陣形へ加わる。

 左タッチライン際にいたWTBのマリカ・コロインベテの突破をサポートし、直後のコンバージョン成功で23-3とリードを広げた。

 ワイルドナイツは、今度の山沢のような動きで数的優位を作ることが多い。守る側にとっては、足りていたはずのタックラーの数が急に足らなくなるわけだ。

 ブラックラムズのCTBに入ったハドレー・パークスは、昨季までワイルドナイツに在籍していた。古巣の独特なライン参加について、こう分析した。

「あれは、彼らが得意としていることです。少しプレーをした後に、その動き(横への移動)をする。FWを交え、スキルをうまく使っていく」

 ましてやここでは、山沢が参加する前からワイルドナイツの攻め手がブラックラムズの防御よりも2名、多かった。ワイルドナイツが、システムに倣いながらもチャンスに敏感なのがうかがえた。
 
 ブラックラムズは後半8分、自陣ゴール前右で用意されたムーブを食らう。3-30とさらに離される。

 その後は攻撃機会を得ながら、起点となるラインアウトで球を確保できなかったり、いざ展開しても走者が接点で笛を吹かれたりした。

 ラインアウトについては「相手の声のプレッシャーに、ミスしてしまった」とロトアヘア。捕球位置を決めるサインを、投入役が聞き取れなかった。

 いくつかのミスを受け、サインを伝達するタイミングを早めたことで改善が叶った。ただ、問題を解決するまでに起きたエラーが悔やまれた。

 接点で球にへばりつかれた場面は、堅守で鳴らすワイルドナイツのよさが表れたとも言える。特に80分間を通しては、NO8の福井翔大のジャッカルが効いた。

 堀米は漏らす。

「ボール保持者が倒れるのが速かった。フットワークを使ってもう一歩、がまんすることが必要でした。倒れたら、今度は相手(が絡むまでが)速いので」

 終盤には攻め込まれてからの攻守逆転、同10分にSOで投じられていたアイザック・ルーカスの走り、好キックを活かし、一時は17-30と迫った。そう。「65分間」はよく戦えたと実感できた。

 反撃は、ここまでだった。

 17-38。ワイルドナイツの開幕5連勝を許した。

 善戦を白星に昇華させるには何が必要か。そう聞かれ、地上戦で光ったFLの松橋周平ゲーム主将はこのように語った。

「ちょっとしたプレーの精度、リアクションはまだまだ、高めていきたい。誰か1人でも自分の仕事ができない瞬間があると、それが相手の得点につながってしまう。どんな状況でも全員が自分の仕事に責任を持ってやることが必要です」

 この日の登録メンバー中、国代表戦経験者はブラックラムズの「4」に対してワイルドナイツは「12」。タレントに頼らないのを是とするブラックラムズは、今季は開幕2連敗も第3節以降はアウェーで連勝していた。

 トヨタヴェブルリッツ、静岡ブルーレヴズと、旧トップリーグ時代に4強経験のあるチームに僅差で勝ち切り、王者に挑んでいたのだ。

 かたやワイルドナイツでは、南アフリカ代表CTBのダミアン・デアレンデが第2子誕生の立ち合いで帰国した。代表経験が豊富でチームの防御を統率する堀江翔太は、首のケアのため定位置のリザーブ席に座らなかった。

 さらに先発のBK陣では、普段は松田とSOの座を争う山沢がFBに異動した。本来ならば正FBの野口竜司は、WTBに移った。

 ロビー・ディーンズ ヘッドコーチは、5月までのシーズン全体を見通す。

「シーズンを通し、ひとつのコンビネーションだけを貫き通すのは難しい。チームの幅を広げ、いろんな形を試したい。メディアの皆さんにはこのコンビネーションを初めて見た方もいるかもしれませんが、選手にとっては(練習で繰り返している分)驚きはない」

 試合では後半14分、松田がインターセプトを故意の反則と判定された。10分間の一時退場を余儀なくされた。

 いわばワイルドナイツは万全と異なる状況で、満点と異なる出来だったと自覚しながら、タフな伏兵のブラックラムズを21点差で下したわけだ。かえって懐の広さをにじませる。

 タレントを擁するのにタレントだけに頼らないのが、ワイルドナイツの真骨頂だった。

「要所、要所、いいコントロールができた。僕がイエローカードでチームに迷惑をかけた時間帯もありましたが、全体的にはいいゲームだったと思います。どことやる時も厳しい試合になると覚悟しています。そのなかでどんな判断、選択をしていくかが大事になる。最後に勝って終われるように、先を見据え、いいオプションを選択できたらと思っています」

 こう話した松田は、自身の反則について試合後すぐにレフリーに確認。「(次回は)アジャストしたい」と抜け目がなかった。

 日本代表でも船頭役を担うHOの坂手淳史主将も、組織の充実ぶりを語る。

「ハドル(円陣)で(プレー選択や判断について)いろんな声が出ていました。いろんなことを話す選手が増えてきた。それをまとめ、ゲームにいい影響を与えられれば」

 ノーサイド。メインスタンド下の会見場にディーンズが現れる。

 両手を広げ、笑みを浮かべた。

「ブラックラムズもいいチーム。これから先、いい結果が出るのではと感じています」

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