女子 2023.01.19

引退。入籍。そして恩返し。女子ラグビーの鈴木彩香が引退会見

[ 編集部 ]
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引退。入籍。そして恩返し。女子ラグビーの鈴木彩香が引退会見
引退会見では、柔らかな表情が印象的だった。(撮影/松本かおり)
会場には、刻んできた足跡を伝えるものが(撮影/松本かおり)



 25年の競技人生を終えた。
 日本代表、所属するアルカス熊谷で活躍してきた鈴木彩香が引退記者会見を開いた。

 東京・丸の内の会場で、決断の理由と思い出を口にした。
 これからは『WOMEN’S RUGBY COMMUNITY』(ウィメンズラグビーコミュニティ)の活動を通じ、女子ラグビーと関わっていく。

 鈴木は33歳。日本の女子ラグビーのレジェンドの一人だ。
 15人制日本代表のキャップを18持つ。2008年のシンガポール戦で初キャップを得た時は、まだ18歳だった。
 昨夏の南アフリカ戦(第2テスト)が最後のテストマッチとなった。

 ワールドカップ(以下、W杯)には2大会に出場している。
 2017年のアイルランドでの大会と、2022年にニュージーランドでおこなわれた大会だ。
 昨年は出場機会がなかった。

 7人制代表でも21キャップを持っている(2007年の初選出時は17歳)。
 2009年と2013年のセブンズW杯に出場。2016年のリオ五輪でもプレーした。

 先のW杯後に引退の決断をした。
 英・プレミアシップのワスプス在籍時に脳震盪。その症状に苦しみ、長い期間プレーができなかった。
 しかしW杯を目指し、その舞台でプレーをする強い気持ちを持って再起を目指した。
 結果、スコッド入りを果たす。

 昨年のW杯では試合メンバーに入ることはできなかったけれど、チームを良き方向へドライブするグループのひとりとして、周囲に影響を与えた。

 しかし、サクラフィフティーンは目標の8強に届かず、勝利を手にできなかった。特に、試合に出たメンバーたちの悔しさは大きかった。
 その光景を見た鈴木は、「私も日本に戻ったらラグビーをやりたくなるだろうな、と思いました」と言う。

 しかし、その気持ちは湧き上がらなかった。
 気づいた。
「それだけやり切ったんだな、と」
 ブーツを脱ぐことを決めた。

 会見では、ともに時間を過ごした恩人、仲間から寄せられたビデオメッセージが紹介された。
 一緒に世界と戦った仲間や後輩たちが「昔の彩香さんは怖かった」と言っていた。

 本人が笑う。
「怖かったと思いますよ。日本代表は勝たなければいけない。それだけしか考えていませんでしたから」
 トゲトゲしかった自分も、年齢と経験を重ね、一回転し、だいぶ柔らかくなったと表情を崩す。

 年末に入籍した。
「これまでラグビー中心の生活でした。これからは、ラグビーをいろんな角度から見て、何が必要なのか考えたいですね。ひとりの女性、人間として生きていきます」

『WOMEN’S RUGBY COMMUNITY』は、女子ラグビーの普及啓発、社会的価値の向上を目的とするものだ。
 同じ立ち上げメンバーの福島わさな、小出深冬とともに活動し、鈴木自身は「恩返しのつもりで」女子ラグビーをサポートしていくつもりだ。

 会の最後、幼い頃からともにタグラグビーで楕円球と戯れていた後輩の鈴木陽子が花束を渡した。
「彩香ちゃんは、ラグビーが好き過ぎて一生離れられないと思います。これからもラグビーを引っ張っていってください」

 本人が報道陣に挨拶をした。
「クソガキ時代からお世話になりました。未熟な頃から取材していただき、世間の皆様に知っていただいた。感謝しています。これからも力を借りると思います。よろしくお願いします」

 鈴木彩香は、いい年齢の重ね方をした。
 そして、新しい道に踏み出す。


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