国内 2023.01.17

【連載】プロクラブのすすめ④ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「新加入選手ようこそ!」

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ④ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「新加入選手ようこそ!」

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けに迫る連載、第4回。

 2季目のリーグワン開幕後に話を聞いた今回は、ホスト開幕戦の手ごたえや工夫、そして今季から始まったアーリーエントリーの話題から、山谷拓志社長の人材採用への思いを語ってもらった。(取材日1月5日)

◆過去の連載記事はこちら

――静岡ブルーレヴズとなってから2季目のシーズンが開幕しました。ビジター(トヨタスタジアム)での開幕戦はどう見ていましたか。

 最後は追い上げてなんとか勝ち点1を取れたのは良かったです。でも過去の東海ダービーは分がありましたし、初戦を落としたくはなかったので、やはり勝ちたかったですね…。翌週のホストの開幕につなげる、という意味でも、勝つことで集客にも影響が出ると考えていました。

――試合後には、ヴェルブリッツの提案で出場しない選手たちによる「ミライマッチ」が組まれました。これは前回、山谷さんがフランスで見て取り入れたいと話していたことでした。

 申し出があったときにはありがたいと思いました。ただ(自分たちがやるとなった時は)メインの試合の前か後か、どちらでやったほうがいいのか、というのは悩みどころです。試合前にやると芝生のコンディションが悪くなるけど、試合後だと時間帯が遅くなったり、寒くなってしまう。
 ヤマハスタジアムの場合はサッカーのシーズンが重なれば、2試合やることは芝の観点からどうしてもナーバスな問題になります。エコパなどでできればとは思っていますが、相手チームあってのことでもありますね。

――ワイルドナイツとのホスト開幕戦は本当に惜しかったです。

 頼むから勝ってくれ、と祈るばかりでした。最後の5分、こちらのミスもありましたが、最後に勝ち切るワイルドナイツさんはさすがでした。
 集客も1万人を目指していた中で、9443人。試合も集客もあと一歩というところでした。何が足りないのかをもう一度見つめ直していきたいと思っています。

 とはいえ去年は平均3000人、最終戦は6000人ということを考えれば、事業面での成長は確実に見られた。特に新規のファンがたくさんいました。今季は平均6000人という目標を掲げているので、事業サイドではもう一度最終節で1万人を成し遂げようと話しました。

――集客は昨年同様、どのチームも苦戦している印象です。その中で都市圏ではない静岡の地で1万人近く集めたのは評価できるのでは。

 いろんな見方ができると思います。都市圏は人口のポテンシャルがあるから観客が入るという見方もできますし、逆にいろんな娯楽がある中で集客する難しさもある。
 ただ確かに磐田の地で、1万人近く集客できたことは非常に可能性も感じました。2シーズン目の開幕戦としては合格点かなと思います。

――ホスト開幕戦に向けて工夫したことは。

 ひとつは来場者プレゼント、いわゆるギブアウェイです。ニットキャップがすごく好評でしたし、スタンドがニットキャップで埋まるのはなかなか見られない光景でした。試合後には僕も浜松に行ったのですが、街でもニット帽をつけてる人がたくさんいて、すごく嬉しかったですね。
 もうひとつは小柳ゆきさんのライブ。めちゃくちゃ良かったんです! われわれが一番集客したいターゲット層である30代、40代の方々にはドンピシャだったと思います。

 あとはスタッフのみんながイベントでのチケットの手売りやスポンサー回り、チラシ配り、ポスター張りをかなりやってくれました。SNSの広告も試行錯誤しながらやりましたし、そうした地道なことの積み重ねですよね。やってきたことが成果につながったことは、社員も自信がついたと思います。

――やはり昨年と比べれば、街中でレヴズのことを目にする機会は増えましたか。

 これは確実に増えてます。地元の商店街が旗を作ってくれたり、ポスターを貼ってくれるお店もだいぶ増えてきました。ほかにも百貨店では横断幕を掲げてくれたり、地元のバス会社さんがラッピングバスを作ってくれたり、地元の電鉄会社さんが選手の等身大パネルを置いてくれたり。それもわれわれは一切お金を出さずにご協力でやっていただける。本当にありがたいです。

――話は変わりますが、1月4日にはNZのベイ・オブ・プレンティとのパートナーシップ協定が発表されました。

 もともとヤマハ時代から交流がありましたが、フランスのトゥールーズとともに連携を強化したいと思っています。シーズンの時期が被らないので、メインは選手の派遣先と考えています。実はいま、トゥールーズ、ベイ・オブ・プレンティにどの選手を派遣するか議論しているところです。
 前回も話しましたが、これは(大卒)選手のリクルートに有効だと思っています。海外でのプレー経験を積むことができるのは大きなアドバンテージになる。

――リクルートでいえば、大学選手権決勝後からアーリーエントリーが可能になります。

 大学生のリクルートについては僕自身、かなり関心がありますし、組織の強さは採用で半分くらい決まると思っています。経営者はかなりコミットしてやるべきだと思っているので、バスケの時もそうでしたが、本当にこの選手を取るべきと感じたら何よりも優先してスケジュールを組んで、その選手に会いにいきます。
 栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)の時は、アメリカにいる田臥勇太選手にダメ元でスタッフを行かせた結果来てくれた、ということもありました。
 今季加入の選手でいえば、早稲田の槇(瑛人)くんとはうなぎを一緒に食べに行って、うちのチームのことを熱く語りましたよ(笑)。

――採用が大事、というのは山谷さんの実体験から確信している。

 そうですね。リクルートで働いていた時の話ですが、リクルートはなによりも人材採用を優先する会社なんです。例えば各部署で業績がいい営業マンがいれば、すぐに人事部に異動されます。業績がいいということは相手を感化させる、言い換えれば口説く力があるということですから、人材採用にそういう人を回すべきだ、という考えです。
 リクルートシーガルズ(現・オービックシーガルズ)のスタッフ時代には採用担当もやりました。そこで自分の誘った選手がいまのコーチとしてチームを支える人材になっていたりする。だから選手のリクルートはチームの将来を作る意味で、ものすごく重要です。

 昨年には大学生向けに冊子を作りました。われわれが伝えきれていないメッセージやチームのことを載せています(チームHPからも閲覧可能)。静岡にこういうチームがある、こういう考えで運営してる、こんな思いを持って入った選手がいる、ということを伝えたいんです。

※1月10日には新加入選手5名を発表。SO家村健太(京産大共同主将)、CTB伊藤峻祐(東海大主将)、LO齋藤良明慈縁(東洋大主将)、WTB槇瑛人(早大)、八木澤龍翔(筑波大)が加わる。

PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)

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