国内 2023.01.07

支えは家族と同僚の存在。ライナーズのマシレワ、大けがを経て日本代表復帰へ。

[ 向 風見也 ]
支えは家族と同僚の存在。ライナーズのマシレワ、大けがを経て日本代表復帰へ。
けがから復活し、今季リーグワンの開幕節から奮闘しているライナーズのセミシ・マシレワ 🄫JRLO


 感極まった。花園近鉄ライナーズでラグビーをするセミシ・マシレワは12月18日、加盟するリーグワン1部の初戦で先発FBに名を連ねた。

 試合に先立ち部内でおこなわれた、ジャージィ渡しの瞬間のことだ。15番をもらい、皆の前で意気込みを語るうちに涙を流した。

 長い戦線離脱から、ようやく戻ってこられたからだ。

「精神的には厳しかった。初期の段階は落ち込みすぎて、よくない状態になったこともありました…」

 身長181センチ、体重93キロの30歳。大きなストライドでしなやかに走るフィジアンだ。2017年にライナーズへ入り、翌18年に国内での知名度を高めた。

 折しもライナーズと並行し、サンウルブズにも在籍していた。

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から挑んだサンウルブズでは、同僚で日本代表だった田中史朗から耳打ちされた。

 自身が、お笑い芸人の江頭2:50さんに似ていると知らされた。

 江頭さんがタイツ一丁で身体をくねらせる様子をネット上の動画で見て、試合でトライを決めた後のパフォーマンスに採り入れた。ファンには自ずと「エガちゃん」と呼ばれた。

 サンウルブズは日本代表とプレースタイル、主要スタッフを共有していた。日本代表は2019年のワールドカップ日本大会で8強入りし、翌年以降も体制を継続した。

 自ずとマシレワは、23年のフランス大会に向けた日本代表候補の1人となった。代表資格を得るのに必要な日本での継続居住年数をクリアして迎えた2021年7月3日、アイルランド代表戦でテストマッチ(代表戦)デビューを飾った。

 夢のワールドカップ出場へ、確かな一歩を踏み出した。

 思うに進まないのが人生だ。2022年1月から参戦したリーグワン2部の試合中、膝の前十字靭帯と半月板を痛めた。

 ワールドカップまで2年を切ったタイミングでの大けが。秋にジョギングを再開するまでは、気分が上下した。

 家族を支えにした。

 妻のララ、息子のフレッチャーとマイルズの存在の大切さを再確認したのは、インターネットで元プロバスケットボール選手のコービー・ブライアントのエピソードに触れた時のことだ。

 ブライアントが大けがをした直後、心配そうな顔をする子どもたちに「全然、問題ない」と気丈にふるまっていたのを知り、自身の原点に立ち返った。

「私もフレッチャーとマイルズのためにラグビーをしているところがある。彼らの人生を支えているのは自分なのだ」

 同僚にも助けられた。長年オーストラリア代表としても活躍してきたウィル・ゲニアとクウェイド・クーパーには、自身と似た故障を抱えた過去があると知った。発する言葉に説得力を感じた。

 リハビリの期間中、チームスケジュールの1時間から1時間半前にケアルームに足を運ぶと決めたのは、クーパーが日頃からこう口にしていたからだ。

「結果ではなく、過程が大事。普段の過ごし方に焦点を当てていこう」

 グラウンドから離れている間、グラウンドに立つ意味、グラウンドに立つために必要な哲学を知った。グラウンドに戻れるとわかって思いがあふれるのは、自然な流れだった。

『近鉄漢』のセミシ・マシレワ(撮影:向 風見也)

 12月30日の練習後、クラブのミーティングルームで取材に応じる。着ていた青いパーカーは、クーパーがデザインしたものだという。

「クウェイドからは『全ての卵をバスケットに入れてしまうな』とも言われました。(バスケットへ『卵』を詰め込みすぎるようなことは控え)日々のタスクをクリアすることに集中しろ、という意味です」

 いま開催中のリーグワンが終われば、ワールドカップ・フランス大会を見据える。関係者によると、マシレワは昨年も故障を持つ日本代表候補を対象とするキャンプへ参加した。空中戦の強さや突破力が求められるWTB、FBの有力株として見られていよう。

 当の本人は、丁寧に日々を過ごす。

「サンウルブズでのプレーが評価されて日本代表に呼ばれたと思っています。あの頃のようにトライを獲りまくって、わくわくするラグビーをお見せしたいです。ハイボールの処理は、強みだと思ってもらっています。いまもその自信を失ってはいない。今後の試合で、よりその自信をつけたいです。(代表側からは)いまのところ何の連絡も来ていません。ただ、もし声がかかれば、ぜひ、参加したいです。メンバーに選ばれれば、ライナーズの皆も家族も喜んでくれる」

 開幕2連敗中のライナーズは故障者、感染症などの影響で思うような陣容を組めずにいたが、組織的にスペースをえぐる連続攻撃には確かな手ごたえをつかんでいる。

 NECグリーンロケッツ東葛との初戦(千葉・柏の葉公園総合競技場)では34-36と打ち合い、コベルコ神戸スティーラーズとの第2節(兵庫・神戸総合運動公園ユニバー記念競技場)では58失点で沈むも、マシレワの2トライを含む36得点で魅した。

「いい感じです。約9か月(リハビリ)を経て出た初戦では試合勘を取り戻せた。2試合目ではより違和感なくプレーできた。(ライナーズは)厳しいチーム事情でもいいラグビーができている。仲間を誇らしく思えました」

 1月8日の第3節は東大阪市花園ラグビー場で開催のため、「ホスト開幕戦」との位置づけだ。昨季4強のクボタスピアーズ船橋・東京ベイを迎える一戦にあって、マシレワはWTBに入る。苦難を乗り越えたライナーズの11番が、ファンを喜ばせる。

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