【フランス代表SOンタマック インタビュー①】この秋は、W杯のノックアウトステージをイメージして戦った。「ディフェンスも、好きです」
トゥールーズのホームゲームでは、『ンタマック! いつか僕も君のようになってやるぞ!』とダンボールで手作りしたプラカードを掲げる少年がスタンドで映し出される。
11月20日、フランス×日本の試合会場に向かう地下鉄の中だった。トゥールーズのニットキャップを被った10歳ぐらいの少年に「誰みたいになりたいの?」と質問すると、「ンタマック!」と返ってきた。
すっかり子どもから憧れられる存在となったフランス代表の若き司令塔、ロマン・ンタマック(23歳)がインタビューに応じてくれた。
トゥールーズで行われた日本戦の3日後のことだ。
今秋のオータムネーションズ・シリーズについて、「今回のシリーズはワールドカップ(以下、W杯)のノックアウトステージと想定して、オーストラリアが準々決勝、南アフリカが準決勝、そして日本が決勝戦のつもりで準備していました」と話した。
「日本ラグビーが世界で重要な地位を占めていることを示しています。どのチームも南アフリカやNZと対戦するように日本戦の準備をしています。どのチームからも恐れられ、またリスペクトされているということです。最近の試合のスコアは必ずしも日本チームのレベルを表しているとは言えないでしょう。とても才能があり、いい選手がいて一筋縄ではいかないチームです」
日本代表を称える。
「彼らの強みは、スピードがあり、とてもよく動き、パスをたくさんして、どんどんボールを動かすところです。フィジカルは南アフリカほどではないかもしれませんが、激しくヒットしてきます。とても屈強な選手もいます。ここ数年でどんどん向上しています。それが結果に反映されない時もありますが、いいラグビーをしているのです。全員がチームメイトのためにプレーをしていて信頼関係が感じられます。自分たちのプレーに自信も持っていています。スタッフと選手もうまくいっているのでしょう。まだ強化するところはあるでしょうが、それはフランス代表も同じこと。また若い選手も多く、W杯に向けてさらに良くなるでしょう」
この秋の3連戦、ンタマック自身のパフォーマンスは本来期待されているものではなかった。
今季のトップ14の開幕戦で負傷して以来、8週間ぶりの試合が代表戦だった。これについて、所属クラブのスタッド・トゥルーザンのユーゴ・モラHCが言う。
「8週間練習をしていませんでした。ハイレベルの試合で必要な反応を、2〜3週間で取り戻すことができなかった。フィジカル面ではなく、状況判断や反応において危険に晒されることになるだろうと予想はしていた。残念ながらその通りになってしまった」
「日本戦の序盤、続けて4つのアクションがネガティブでした。しかし彼は、ネガティブなアクションが続いても、ここという瞬間にポジティブに切り替えることができる。WTBダミアン・プノーにキックパスをして、ファーストトライとなったシーンがそうです。彼には状況に適応する能力がある。さらに良い選手になるためには、このような難しい時期も通らなければならない。23歳という彼の年齢にすればすでに素晴らしい選手。これまでコーチしてきた若い選手の中で、最も輝きを持っている選手だと思う。いま彼が経験していることは、現段階ではネガティブに見られるかもしれませんが、将来彼をさらに良い選手にしてくれるポジティブなこと」
同HCは、そう確信している。
2019年W杯(日本大会)ではワールドラグビーの最優秀新人賞に選ばれたこともあり、彼がフランス代表で活躍することが当然のことのようになってしまった。
しかし、まだ23歳なのだ。
3年前を振り返って話す。
「W杯では多くのことを経験し、多くのことを学びます。僕は20歳でW杯に参加することができました。若くして多くのことを経験できたのです。その経験を、その後のクラブやフランス代表での高いレベルの試合でのプレーにつなげることができた。自身を成長させることができました。W杯のおかげで、ラグビー選手としてより速く成長することができたのです」
大会の半年前までは、2019年のW杯に参加できるとは思っていなかった。
「それまで代表チームに呼ばれたこともなかった。スタッド・トゥルーザンでトップ14デビューしたばかりだったので、目標はクラブで連戦することでした。幸いクラブでいいパフォーマンスをだし、2019年のシックスネーションズで代表チームに召集されました。それでも試合に出場できるとは思っていなかった。若い選手を代表チームの練習に参加させて経験を積ませるために呼ばれているのだと思っていました。先輩たちからいろいろ学びたいという気持ちだけでした。ところがシックスネーションズで全試合に出場することになり、大会を終えた頃に『今回のプレーが評価され、さらに努力を続ければ、もしかしたら日本でのW杯に参加できるかもしれない』と思うようになったのです」と当時の気持ちを打ち明ける。
19歳で代表デビュー。最初の2試合はCTBでプレーし、3試合目からは『10』を背中につけた。
当時トゥールーズではCTBでプレーしていたにもかかわらず、落ち着いたプレーでスコットランド戦ではトライを挙げる。イタリア戦ではドロップゴールも決めた。
それ以来、フランス代表で『10』をつけている。
昨年11月にはNZを破った。自らトライも決めた。
また、自陣インゴールからのカウンターアタックで世界のラグビーファンを沸かせた。
「その時は自分がどういう状態だったかよく分かっていなかった。いま思えばNZ相手にトライを取り、とても嬉しいし、誇らしく思う。カウンターも準備していたプレーではなく本能的に体が動いた。本当に勝ててよかった。チームの全員が待っていた試合でした。そのために準備を重ねてきました。8万人の観客で満員のスタッド・ド・フランスで特別な瞬間でした。その試合から僕たちフランス代表チームは、こんなに素晴らしい試合ができるんだ、という意識を持てるようになった。それまで応援してくれていた人たちもさらに信じてくれるようになった。チームの意識が変わるきっかけになった試合です」
強烈に人々の記憶に残るプレーもあるが、どちらかというと、正確なパスやキックで味方を引き立てるタイプの選手。そして、防御を高く評価されているところも特徴だ。
「ディフェンスはさらに重要です。FWのようなビッグタックルをする必要はないけど、最低限、タックルミスをせず、相手を倒してすぐに防御ラインに戻ることを心がけています」
「タックル、好きですよね」と問うと、「はい、好きでないとできません。僕のゾーンに敵が入ってきた時は迷わずタックルにしに行きます!」と爽やかな笑顔で返ってきた。
※このインタビューの様子は、日本テレビの『CHEERS! —気持ち高まる瞬間に—』(12月29日(木)、夜9時48分)で一部放送予定となっています。