接戦生んだ接点の攻防。初戦でブレイブルーパス下したワイルドナイツの伸びしろ。
Queenの『I Was Born To Love You』が響く埼玉・熊谷ラグビー場へ、ホームの埼玉パナソニックワイルドナイツが見参。リーグワンの初戦である。旧トップリーグ時代から続く3連覇への期待を背に、12月17日、昨季4強の東芝ブレイブルーパス東京を迎える。
けがからカムバックしたての松田力也は、後に「復帰戦が厳しい試合だった。自分自身、勝って反省できる」と振り返る。その言葉通り、序盤から試練が重なった。
3点差で迎えた9分頃。SOで先発した松田が、ハーフ線付近左からキックを放つ。
敵陣中盤左端でFBの野口竜司が好捕する。
ところが、着地した地点で対する赤のジャージィに囲まれた。
寝たまま球を手離せない反則を取られる。ここからラインアウトからの用意されたムーブ、オフロードパスを交えた連続フェーズで後退する。
13分、ブレイブルーパスのNO8、リーチ マイケルのフィニッシュなどで0-10と差を広げられた。
その3分後には0-13とリードされた。各国代表の活動で合流の遅れたメンバーは、先方の倍以上。想定された連携不足に加え、「接点無双」を謳うブレイブルーパスが仕掛けるフィジカルバトルにてこずった。
左PRとして好タックル連発の稲垣啓太は、「ブレイクダウン(接点)周辺の反則が多かった」と認める。ベン・オキーフ レフリーの笛への対応にも、やや難儀した。
「レフリーとのコミュニケーションがうまくいっていなかった部分もあったでしょう。自分たちで勝手に『これくらいならOK』と線引きして、それが実際にはレフリーがだめと判断した。また、相手はそのブレイクダウン周辺(でのボールへ絡むこと)を狙っていたと思います。それに対し、僕らのサポートが遅かったのも事実。そこが全てだと思います」
もっともワイルドナイツには、順法精神を高めるキーマンがいる。
ブレイブルーパスにもらった得点機を活かし、7-13とした直後、ベンチにいたHOの堀江翔太は同じ位置でスターターだった坂手淳史主将に助言する。
坂手の述懐。
「外から見ているところを伝えてくれた。特にブレイクダウン(接点)周りがどうなっているか、どうすればアタックでさらに前に出られるかのコミュニケーションを取りました。僕たちが必死にやっているために気づかない部分を伝えてくれることで、ゲームがよく進んでいく。ありがたかったです」
堀江はこう補足した。
「ブレイクダウンへの寄りが遅かった。(走者が)キャリアして、向こうがジャッカルして、(やっとサポートに)入るという感じがして。(ボール保持者が)コンタクトエリアに入った瞬間には、パスがなければ(本来なら援護役は)ブレイクダウンに入らなければならない。そこらへんの判断が、遅かった」
ワイルドナイツは堀江の指摘を受け、ボール保持者が捕まっても簡単に倒れぬよう、かつ援護役が機敏に働きかけるべくリマインド。すると序盤から球にファイトしていたブレイブルーパスの狼たちが、かえって判定の餌食となった。
7-16で迎えた前半34分頃だ。
中盤から深めのパスを刻んで右側のスペースを破るや、SHの小山大輝が捕まったところへFBの野口、NO8のジャック・コーネルセン、WTBのセミシ・トゥポウが立て続けにスイープへ入る。
するとその地点で、対するLOのジェイコブ・ピアスが反則を取られる。
ブレイブルーパスの共同主将、先発SHの小川高廣は悔やんだ。
「(徐々に)ひとりめのタックラーのミスが多くなって、相手に乗られた状態でブレイクダウンになることがあって、そこで手を使って(反則)…となってしまって…」
この時、そこまで奮闘のピアスは一時退場処分を食らい、そのまま敵陣に止まったワイルドナイツは12-16と迫った。
ワイルドナイツは、接点の領域を改善したことで危険水域を脱したわけだ。かたやブレイブルーパスも引き続きフィジカルバトルで魅したが、要所で規律を乱した。
後半15分。ブレイブルーパスの防御網の切れ目を松田が割いた。約45メートル、走り切った。
直後のコンバージョン成功で19-16。逆転された小川はこうだ。
「格上の相手と戦うには、うちのほうがディシプリン(規律)がよくならないといけない。試合中も『ペナルティをしないように』というコールもあって、気を付けてはいるんですが、自分をコントロールできるかどうかの差が出てしまった…」
その後はワイルドナイツの堀江の好ジャッカルが反則と見なされ、19-19と振り出しに戻った。ただしブレイブルーパスは、それを最後に得点できなくなった。
特に21分、攻めどころで自軍ボールの接点へ横入りするペナルティに泣いた。31分に自陣で別な反則を犯したことで、22-19と惜敗。リーチは言葉を絞った。
「疲れた時にいかに集中できるかで(両軍に)違いがあります。ワイルドナイツは、後半に出てくる選手にベテランが多い。テストマッチの経験が多い、知識の高い選手が(途中から)入ると規律は高まる。自分たちもそこ(終盤の規律)をいつも気をかけていますが…。疲れた時に何を考えるかの部分を、仕上げないといけないです」
勝ったワイルドナイツも終盤までエラーで足踏みしていたとあり、ロビー・ディーンズ ヘッドコーチは淡々と述べる。
「リーグワンでどれだけタフな試合が続くか。その、前兆が見られた」
バックヤードにコンディション調整中の主力候補を残すなか、坂手は「まだ1試合目。このゲームに勝ったことでポジティブに次の準備へ進める」とも強調する。伸びしろを残して白星発進できたのは確か。
何より、際立つ個がフォア・ザ・チームを本能的に強調するという、ワイルドナイツの凄みはこの日も見られた。
アウトサイドCTBのディラン・ライリーは、松田のトライへのアシスト、華麗なラン、再三のハードタックルで試合を締めた。それでも、自分の手柄を誇らなかったのだ。
「最終的には、ラグビーがチームスポーツである、ということに尽きます。自分は15人のうちの1人。自分の仕事が終われば(起き上がって)次の仕事を探しています」