「まだまだ。でも…」。東洋大を苦しんで制した早大の伸びしろとは。
早大ラグビー部は、加盟する関東大学対抗戦Aを8チーム中3位で終えた。
初黒星を喫したのは11月6日。埼玉・熊谷ラグビー場で、後に優勝の帝京大に17-49と屈した。向こうの司令塔である高本幹也のパスコースを鋭い出足で封じるなど、大田尾竜彦監督いわく「全部が全部、悪かったわけではない」という内容ではあったが、1対1、接点で苦しんだ。
12月4日には、東京の国立競技場で明大との「早明戦」を落とした。21-35。最初の相手ボールキックオフから明大に好機をものにされ、以後は攻めても向こうの壁をあまり破れず。帝京大戦時と同じく、スクラムで押し込まれたのも痛かった。
全国トーナメントの大学選手権では、3回戦から登場。心機一転。史上最多を塗り替える17度目の優勝を目指す。
12月11日、東京・秩父宮ラグビー場。3回戦で初出場の東洋大に34-19で勝った。果たして大田尾監督は、こう安堵した。
「選手たちには非常にプレッシャーがかかっていたなか、それに打ち勝ってくれたのを誇らしく思います。チームとして大きく成長できる試合だったし、準備だったと思います」
対する東洋大は、関東大学リーグ戦で29季ぶりに1部昇格しながら3位と躍進。この日も序盤から多くのチャンスを作り、ミスで得点機を逃すたびに鋭いタックルを披露した。流れが傾くのを防いだ。
早大は、なかなか主導権を奪えなかった。好機の接点で落球するなど、自滅の影をもちらつかせた。後半4分、7-19と12点差をつけられた。
ただし、がまんの時間帯も、鋭い圧力で応戦していた。
まずキックチェイスを機能させた。ロングキックの得意な相手SOの土橋郁矢へひたすら迫り、弾道の飛距離や角度を変えた。捕球と蹴り返しも概ね安定。大田尾監督の述懐。
「非常に精度の高い(東洋大の)キックを、ほとんど処理できた」
嗅覚が鋭かったのはSHの宮尾昌典。インターセプトからのトライ、中盤でのペナルティキック獲得後の速攻およびキック、タックルで、僅差の展開を彩った。
何より早大は、長らく主戦級だったHOの佐藤健次、LOの前田知暉をベンチスタートさせていた。
選手のコンディションを鑑みての決断だが、大駒を切り札に据えていたことで「どこかでギアは上げられるだろう」と大田尾監督。そもそも「前半も、内容自体は悪くなかった」と落ち着いていた。
スクラムで東洋大ボールを与える判定が続いたのを受け、佐藤、前田を予定より早いハーフタイム明けから投じ、10分からは長らく戦線を離れていたエース候補の伊藤大祐をFBとして送り込んだ。
そして5点差を追う18分、敵陣22メートル線付近で連続攻撃を仕掛けた。宮尾が緩急をつけてパスをさばき、接点でペナルティキックを獲得した。インサイドCTBの吉村紘ゲーム主将がペナルティゴールを決め、17-19とする。
終盤には東洋大が疲れを覗かせたのもあり、早大は26分、33分と、得意のワイド攻撃で数的優位を活用。連続トライなどで31-19とした。伊藤のランとパスが冴えた。
ノーサイド直前のペナルティゴールでだめを押した吉村は、正直に振り返った。
「試合を迎えるにあたり、正直、相当、怖かったです。それは東洋大さんをリスペクトしているからこそです。(伝統校の)ワセダがここで負けてはいけないという相当な緊張感を持って、一週間(準備期間)を過ごしてきました。いい準備ができたからこそ、何度リードされてもひとつになって、最終的に勝つことができたんじゃないかと思います」
大田尾監督は、東洋大戦の勝利にこんな価値も見出していた。
「対抗戦では入りの10分がよくなかったゲームが続いていた。今週は『そこを正さないと、一気に行かれる(流れを失う)』と話しました。結果、ファーストトライが獲れて、逆転をされたもののペースは悪くなかった。それが成功体験として(今後も)残ると思います」
付け加えれば、空中戦のラインアウトも多角度的に改善できたという。
「(前半29分に)スティールからトライは取られましたが、大きい選手のいる相手に対して(全体的には)建て直せた。FWがいつでも(ラインアウトで)投げられる状態にするようBKが速く(攻撃陣形を)セットするといったところも徹底した。FWもストレスなくやれたんじゃないかと思います」
これから待ち受ける難関はどう乗り越えるか。
25日の準々決勝では「早明戦」で敗れた明大と再戦。勝てば、1月2日に国立である準決勝では、関西大学Aリーグ首位の京産大か、対抗戦4位の慶大の勝者とぶつかる。
さらに、決勝進出時に相まみえそうなチームのひとつには、大学選手権2連覇を目指す帝京大が挙げられる。
早大陣営のひとりは、優勝への射程距離についてこう述べる。
「このままではまだまだ。ただ、学生は短期間で一気に伸びる」
いまの早大は、端から端へと球をつなぐ攻撃を看板とする。この成否を分けるのは、端にスペースを作るための動きだ。
帝京大を相手にもフィジカリティで対抗できるNO8の村田陣悟は「FWのえぐりがあるかないか(が鍵)」。接点周辺に立つFWが相手防御を巻き込めれば、端に大きなスペースを作れる。
切り札の伊藤は続ける。
「ワセダなりの工夫が重要になってくる。横、横で行くだけではなく、誰かが縦に行ってショートパスでつないでみるなどの動きがあれば、もっとうまく(相手防御を)崩せるかなと思います」
奥の手も待たれる。先の「早明戦」の直後、指揮官は「敵陣22メートルエリアに入ってからのアタック(を整備したい)」。決定力の向上が鍵だと話していた。
実際のところ、「早明戦」時に語った「22メートルエリアに入った時の…」という課題にどのくらい着手したのか。
そう問われた大田尾監督は…。
「いろいろと(戦術的は)アイデアはあるんですけど、今週(東洋大戦)は落とす(選手に伝える)ための時間がなかった。今週はベーシックなもののクオリティを上げようと話していました」
つまり明大との再戦で、新たな攻撃手順をお披露目するかもしれないわけだ。大田尾監督は「どうでしょうね」と微笑み、続ける。
「もう少し動き出し、(走り込む)アングル、(球を出す)タイミングがいろいろと変わるとは思っています。なかなか22メートルエリアに入って(トライを)獲れない状況が続いていますが、少し、改善したいと思っています」
現在、主将でFW第3列の相良昌彦が故障離脱中。佐藤も試合後のミックスゾーンには松葉杖を「形だけ」とはいえ持参。手負いの状態であるのも確かだ。
それでも、戦術的な伸びしろが見え隠れする。殊勲の村田は「中心となって引っ張ってきた選手がいないなか、自分がリーダーシップを発揮していきたい」と話した。