国内 2022.12.10

激動の関西リーグを振り返る。同志社大・宮本監督「次の試合が本当に大事」

[ 明石尚之 ]
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激動の関西リーグを振り返る。同志社大・宮本監督「次の試合が本当に大事」
東京サンゴリアスのスタッフから今季、同志社大の監督に就任した宮本啓希監督(撮影:毛受亮介)

 アップダウンの激しいジェットコースターのようだった。
 今季の同志社大学のことだ。

 関西リーグの最終節を前にして2勝4敗。5位に沈んでいた。昨季から導入された勝ち点制でなければ、この時点で大学選手権出場の道は閉ざされていただろう。

 ただ絶体絶命の状況に変わりはなかった。最終節で天理大に3トライ差以上つけて勝利するのが最初の条件。
 そして近大が京産大に8点差以上離されて敗れ、関西学院大が摂南大に敗れなければならなかった。

 なにより、関西2位の天理大から3トライ差以上つけて勝ち星を挙げることが、戦前までの戦いぶりではもっとも難しいように映った。
 結果的に上述の条件をすべてクリアし、大逆転で選手権行きを掴むのだが、最終節を迎えるまでの過程は苦難の連続だった。

 今季から紺グレの指揮を執る宮本啓希監督は「新たな同志社を作る」と意気込み、2月から新チームを始動させた。ボールを保持して自陣からでもアタックを展開するラグビーを指向。はじめはハンドリングエラーなどのミスが多発し、結果も伴わなかった。

 宮本監督は「やっていること自体は難しくない」と話すも、「ただしんどいのは間違いないです。相手とのコンタクトの回数は増えますし、その上で動き勝たないといけません」。そのためのフィットネス、コンタクト強度を上げるには、やはり時間がかかった。

「決められたことをするのではなく、自分たちが(その場で)判断するアタックまで持っていきたかったので、春はボールを持ち続けキックに制限をかけていた」という事情もあったが、春季トーナメントでは立命館大に14-57と大敗していた。

 いざ夏合宿の早大戦でキックを解禁するも敗戦。宮本監督が「激動の3か月だった」と振り返る関西リーグも、開幕戦・立命館大戦での逆転負けから始まった(15-19)。

「(開幕戦の黒星は)痛かったです。学生たちはよく我慢してくれたと思います。外からいろんな意見をもらいました。それでも戦い方をぶらしてはいけないと。あくまで関西優勝、日本一を取りに行くのが目標で、自分たちよりも強い相手に勝つためにはこれが必要だと伝え続けてきましたから」

 次節の関大戦(26-25)、摂南大戦(25-12)と苦しみながらも、勝ちを積み上げる中で少しずつ手ごたえを掴んだ。「いい形でトライを取れ始めて、同じ絵を見られる選手が多くなっている印象でした」

 しかし、第4節の関西学院大戦は悲劇だった。前半奪った26点もの大量リードをひっくり返され、「大」逆転負けを喫したのだ(34-38)。
「前半は準備したことが全部出て、僕自身、気が緩んでいたと思います。ハーフタイムでは後半もしっかり継続しようと話しましたが、メッセージ性が弱かった。自分たちのやってきたことができなくなると、そのまま崩れていきました」

 それでも宮本監督は「いまこうなったからこそ言えるのですが」と前置きした上で、この敗戦こそが浮上のきっかけだったと振り返る。

「負けたことはショックでしたが、やってきたことができないとこういう結果になる。だからやってきたこと自体は間違っていないと。
 次の試合が京産戦だったことも大きかったです。チャレンジャーマインドでいくしかなかった。そこで4回生の行動を変わり、本当にやらなければならないと、チームが変わっていきました」

 翌週、結果的に勝つことはできなかった。それでもここまで大勝続きだった京産大に対して、26-31と肉薄する。前半に17点差をつけられるも、後半の猛追で一時はリードも奪っていた。

 ただこのまま波に乗れないが、今季の同志社だ。次節の近大戦で、まさかの完封負けに終わる(0-34)。
「試合が終わった時の学生のメンタルは正直、ゼロ以下だったと思います」

 幸運にも前日に関西学大と立命大がともに敗れていたため、わずかながら選手権出場の可能性が残る。
 マインドセットの再構築が必要だった。

 宮本監督は最終節の天理大戦に向けて、昨季の最終戦となった帝京大戦の映像を見せた。監督就任後の最初のミーティングでも流した、24-76と大敗した試合だ。
「君たちはここからスタートしたんだと。その時は選手の中に、試合前から勝てないと思っていた人もいた。いまのメンタルはどうだと。気持ちが沈んでいるかもしれないけど、数㌫のチャンスを掴むために自分たちのやるべきことをすべてやろうと思うのか、なんとなくこのまま2週間を過ごすのか、考えてほしいと伝えました」

 同じ失敗を繰り返すのか、それとももう一度立ち上がるのかを問うた。

 そこで先に奮起したのは、コルツのメンバーたちだった。近大戦の翌週の試合で、同じ相手を圧倒したのだ(50-7)。
「彼らは4回生の油谷(慧)を中心に、今年やってきたことをシーズン序盤からやり続けてくれました。それがこうして良い結果につながっていると、上のメンバーも感じていたと思います」

 天理戦の前には、こうしたチームの成長を感じる瞬間がいくつもあった。
 例えば試合当日朝のミーティング。
「いつも学生たちだけでプレーのチェックをするのですが、そのとき初めてミスがなかったんです。リーダーたちがすごく準備してくれた。このポイントでは誰がラックに入って、何枚入って、誰がどこに動いて、どういうコミュニケーションを取るのか、といったことを全部やっていたんだと思います」

 すべては会心のゲームにつながった。前半2分、モールを20㍍近く押し切る先制パンチで、完璧な立ち上がりを見せる。最初のモールで仕掛けることは作戦通りだった。
「絶対押し切るというマインドセットで全員がひとつになれた。最高の入りができました」

 前半を終えて2トライ差。これ以上ないほど順調な試合運びだったが、宮本監督はハーフタイムに喝を入れる。関学戦の反省が生きた。
「いけるぞ!という雰囲気、が関学戦と一緒に感じました。このままいけば同じことになるぞと」

 後半は苦戦を強いられる時間帯もあったが、ゴールラインを割らせなかったことで徐々にボーナスポイント付きの勝利を手繰り寄せる。
 スコアが動かずに迎えた23分に待望の追加点。結局、4トライ差をつけて見せた(47-19)。

「(結果が出なかった日々は)正直、辛かったです。思うようにできないことより、学生たちからしたら全然結果が出てなくてしんどいよな、と。反発と言いますか、試合のレビューやプレビューをしていても頭の中にスッと入っていないなとは感じていました。でも学生たちは最後に信じてくれた。だから天理戦の試合後はありがとうと伝えました。でもこっからやでと。そのために(強い相手に勝つために)やってきたんだからと」

 だから興奮冷めやらぬ中でも、宮本監督はもう一度気を引き締める。
「次の試合が本当に大事です。どんなチームが相手でも、どんな状況でも同じ力を出すということが、これから同志社大学ラグビー部が強いチームになっていくには必要。選手権の雰囲気、負けたら終わりのプレッシャーの中で(天理戦と)同じことができるか、です」

 何度も危機を乗り越えた同志社の、真価が問われている。

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