【コラム】明日なき者に明日はくる
全国のファンの注目する激突ではない。しかし、あの場にいた選手、ことに4年生にとっては忘れがたく強烈な時間である。クラブの老若の卒業生の声援を浴びながら、みな勝ち負けに責任をとっていた。
12月4日の98回目の早明戦。ふと「次」の影のようなものが芝生をよぎった。はっきり書けば、ここまでの歩みでは挑む側のはずの早稲田のタックルに殺気が足りない。ブレイクダウンの圧力で上回り、35―21で逃げ切った明治も無慈悲な追い討ちの姿勢にやや欠けていた。
もちろん真剣勝負だ。白星と対抗戦2位の立場をつかもうと体を張っている。しかし、そうした次元を超える「俺たちに明日はない」という切実な攻守には届かなかった。
事情は察する。なにしろ「次」が控えている。21日後の全国大学選手権準々決勝における再戦の可能性は低くない。「明日はある」のだ。
手の内を隠す、という計算よりも、なんというのか「この時点の力のままぶつかる」心理が働いた気がする。早明戦の醍醐味は、不利とされる側が突然殻を破り、駆け倒し、観客や視聴者の感情を「ラグビーの青春とはいいもんだなあ」と揺さぶるところにある。
人間の自然な感覚(21日後にまた当たるかもしれない)のおよぼす影響を理屈で変えるのは無理だ。ひとつ唱えるなら、今季の学生シーンの先頭走者は帝京大学であるのだから、すでに対抗戦で敗れた明治や早稲田がチャンピオンたるには、大きく伸びなくては追いつけない。そのためには本当の決勝を終えるまですべてファイナルの覚悟で連戦を進むほかはない。早明戦もそうではなかったか。
12月11日。秩父宮ラグビー場で東洋大学が早稲田と対戦する。今季リーグ戦1部昇格のクラブとっては明確に「決勝」だ。対抗戦の伝統校が「次の明治戦雪辱こそファイナル」ととらえたらチャンスもめぐる。かたや赤黒ジャージィが「俺たちに明日はないから明日がくる」決意でこぼれ球にむしゃぶりつけば、ひとつ上の階に居場所ができるだろう。