ブラックファーンズが照らすNZ女子ラグビーの未来。
11月20日にワールドラグビーアワードの発表があった。
15人制の年間最優秀新人賞にはルビー・トゥイ(WTB/FB)、女子15人制の年間最優秀選手賞には、共同キャプテンのルアヘイ・デマント(SO)が選ばれた。
そして年間最優秀コーチ賞にはウェイン・スミス。ブラックファーンズのRWC2021(女子ワールドカップ)優勝を支えた顔が並んだ。
スミスはコーチの仕事から引退をしていたが、ブラックファーンズの危機を前に再度現場に戻り、短期間で見事にチームを立て直し、世界一にした指導力が評価された。
ワールドラグビーが高く評価しているように、世界一になったブラックファーンズの注目度は高まるばかりだ。
2022年11月12日、 RWC2021決勝は、女子ニュージーランド(以下、NZ)代表 、ブラックファーンズ”が、34−31でイングランド代表を下し、初の自国開催で連覇 & 6度目の優勝を果たし幕を閉じた。
決勝翌日のセレモニーには多くのファンが集まった。
自国開催で見事優勝をしたブラックファーンズを見ようとオークランドの街中でイベントがおこなわれた。1000人以上のファンが駆けつけて優勝を一緒にお祝いした。
その後、サイン会などの時間も設けられ、選手たちとファンが触れ合った。そこには、未来のブラックファーンズになるであろう女の子もたくさんいた。
少し前だと「(男子NZ代表)オールブラックスになりたい」と言われていたのが‘、ブラックファーンズの勇姿を見た大会終了後には「ブラックファーンズになりたい」という声が聞こえてくるようになった。
オールブラックスがなかなか本来の復活にならない中、NZ国内の注目は、劣勢の中でも見事優勝したブラックファーンズに集まっている。
ファイナルの前は、30連勝中のイングランドの優勝を予想する声が多かった。
試合の序盤でイングランドにあっさり2トライを奪われた時には、イーデンパークは静まり返った。イングランドの得点源のモール攻撃の威力を見せつけられ、勝てないと思ったのだろう。
しかしイングランドにレッドカードが出るなど、準決勝と同様にドラマのような展開になっていく。運も、観客も味方につけたブラックファーンズが巻き返した。
残りワンプレーで、絶体絶命の自陣ゴール前ラインアウトとなる。その時も、リスクを承知で競りにいったことが大成功。優勝という結果にスタジアムは大いに沸いた。
試合後もスタジアムに残る観客がほとんどだった。最後までブラックファーンズを見届けたいと言う雰囲気が自然とできていたように思えた。
こんなにエキサイティングな試合を見ることはなかなかできない。
4万2579人の大観衆とともに、ブラックファーンズの優勝をお祝いできたことが素直に嬉しく思える瞬間だった。
昨年11月の欧州遠征で対 イングランド(12−43、15−56)、対フランス(13−38、7−29)と泥沼の4連敗。この結果を見てブラックファーンズがワールドカップで(以下、W杯)優勝すると誰が予想しただろうか?
一年で埋めれる差とは到底思えなかった。それくらい深刻だった。
それは、ブラックファーンズの選手たちも同じだったようだ。
W杯決勝後のインタビューなどでは「正直言うと(優勝できると)思っていなかった」と一年前の事を振り返りながら答えている選手も少なくはなかった。
試合後(優勝した後)だから答えれる事であり、この一年間は、相当苦しかっただろうと容易に想像がつく。自国開催だけにそのプレッシャーも大きかったに違いない。
昨年末の遠征の成績不振だけでなく、その後チーム内の問題も発覚して、更にゴタゴタになっていたブラックファーンズ。NZラグビー協会は、2017年W杯の優勝コーチでもある前任のグレン・ムーアの残留を決めていたが、チーム内の問題の調査後に納得がいっていなかったムーアは、辞任を決意(昨年末の成績とは関係ない)。
その直後にウェイン・スミス氏がHCの役割を引き受けることを決意したのが今年の4月、W杯開幕の僅か6か月前のHC交代劇だった。
スミスHCは、最初は正しい事をしているかどうか確信が持てなかったと語っていた。
イングランド、フランスとの差が大きかった事から、他のチームと同じようにしていてはいけない、何か違う事をしなければいけないと言う思いからでき上がったのが、超攻撃型のラグビーだった。
W杯に入って超攻撃型ラグビーは大爆発した。
ノックアウトステージに入ってFWが劣勢になっている状況でも、リスクを冒してまで継続していった展開ラグビーは、優勝を勝ち取っただけでなく、観客を虜にした。
それにより、あのイーデンパークを2度も完売に持っていくことにも成功した。
スミスHCが大会前から32人のスコッドで戦うと言っていたように、プールステージではローテーションで選手を起用した。それによりチームの底上げに成功した。
準決勝、決勝でベンチから投入されたインパクトプレイヤーの活躍が良い例だろう。32人のバランスが取れたチームだった。
その中でも、FLサラ・ヒリニ、CTBテレサ・フィッツパトリック、CTBステイシー・フルーラー、WTBポーシャ・ウッドマン、WTBルビー・トゥイらのセブンズの選手たちのプレーは流石だった。
昨年の東京オリンピックで金メダルを取るなど、世界での経験、そしてセブンズ仕込みのワークレートの高さがチームの目指す超攻撃型の高速ラグビーを支える原動力となったのは言うまでもない。
彼女たちなしでは、W杯の優勝はなかったかもしれない。
34歳の大ベテランのケンドラ・コックセッジ(SH)が最後に大きな仕事をやり遂げて有終の美を飾ることができた事は、NZ国内でも大きく注目された。
大ベテランは引退してしまうが、この大会で若手の成長があり今後がますます楽しみになってきた。
今回の大会が大成功で幕を閉じた事により、今後の女子ラグビーの発展が楽しみである。