【コラム】リーグワンにできること
さっきまでグラウンドで戦っていた子どもたちが輪になって座り、話し合っている。
「初めて組む相手で、サインプレーがうまくできませんでした」
「名前が分からなくて、パスがほしい時にコールできなかった」
試合は、別々のチームの選手たちが混じり合う「ミックス」形式で行われた。少し前にあいさつしたばかりのチームメートだから、互いのプレーの特徴はもちろん、名前もよく知らない。
パスが通らなかったり、タックルを遠慮してしまったり。うまくいかないことがたくさん起きた。
でも、それがよかった。試合での失敗は、自分事として振り返りやすいから。
車座での話し合いには、子どもたちの言葉を受け止め、議論を深める役割の大人がいた。
その一人が東芝ブレイブルーパス東京の採用担当、東口剛士さん。元々教員志望だった東口さんは、子どもたち一人ひとりの目をじっくり見て話していた。
「みんなが挙げたことって全部、コミュニケーションの問題。コミュニケーションを取ることって、本当に大事なんやなって思う」
子どもたちがうなずく。
「でも、それって今だけの問題なんかな。この先、違うチームでプレーしたり、中学や高校の部活に入ったりしたら、最初はみんなのこと知らないよね」
「だから、勇気を振り絞って自分から話しかけてみるのはどうかな。自分の名前や考えていること、やりたいプレーを伝えてみる。それって、今のみんながいるチームでも大切なことだし、この先も必ず必要になってくると思う」
子どもだけでなく、そばで見つめるコーチや保護者にとっても、素敵な学びの時間だった。
試合をして、互いの感想を言い合う。自分のことは自分では分かりづらい。けれど、人から言われるとぼんやりしていた長所や短所がくっきり浮かび上がることがある。
試合をして、話し合い、課題を受け止めて、また試合をする。そんな成長の好循環が、府中のグラウンドのあらゆる場所で起きていた。
ブレイブルーパスが11月に始めた小・中学生のための大会「ルーパスカップ」の一コマである。目的を言葉で表すと、「紳士・淑女の種を育てる大会」なのだという。
作戦はコーチでなく、子どもたちが決める。コーチや親は子どものプレーを褒める。親は子どものいいプレーをその場でメモに書き留める。
感想戦やミックス戦以外にも、そんな独自ルールを設けた。それらに賛同した複数のラグビースクールから、この日は約200人が参加した。
息子のプレーを見守った母親は「2015年のW杯を見てラグビーを始めました。子どもは本当にラグビーが大好き。コロナでなかなか機会がなかったから、こうやって試合できてよかった」と笑顔を浮かべた。
ルーパスカップを企画・運営した、こちらもブレイブルーパスの採用担当、望月雄太さんは「ミックス戦を見ていたら、10分くらいしか一緒に練習していないのにすごく仲良くなっていた。この2時間くらいで、子どもたちはものすごく成長したと思います」と手応えをかみしめた。
2019年W杯の成功で子どもたちのプレーヤーは増えたが、それに追いつくだけの環境作りは思うように進んでいないのが現状だ。特に彼らが思い切り走り回れるグラウンドは、コロナ禍の影響も相まって少ないままだ。この大会は、そんな課題を解消する一助になりうる。
「大勢が集まる大会をやろうとしても、ラグビースクール単体では特に場所を確保しづらい。でも僕らのようなクラブを運営する会社が動くことで、もっとこういう機会を増やせると思う」
望月さんは、リーグワン開幕に合わせたルーパスカップも計画しているという。年に1度でなく、複数回にわたって子どもたちと向き合う場を作る予定だ。そこにはチームのファンを増やし、集客につなげたい狙いもある。リーグワンに移行してから、ブレイブルーパスに限らず、こうした普及と事業の連携は大きく進んでいるように見える。
ただルーパスカップを取材して、過度に勝利を追い求めず、子どもたち、親、コーチの成長に重きを置くユニークな大会のあり方そのものに意義があると感じた。
望月さんが音頭を取り、子どもたちによる「ルーパス締め」で大会は終わった。リーチ・マイケルやワーナー・ディアンズといったトップチームの選手たちが、試合後に実施しているのと同じ手拍子やかけ声だという。
彼らと同じグラウンドでプレーし、同じように締める。時にお堅い雰囲気をまとっていた1948年創部の伝統のチームは今、そんなユーモアをまとうクラブに変化している。望月さんは「全国にルーパスカップを広めたい」と言う。子どもたちの笑顔を見て、この大会にはその価値があると思った。