パワーと「判断」が光る。寮では爆睡? レキマ・ナサミラ、東海大の最終年度を楽しむ。
ブレザー姿の役員にリボン付きのメダルを渡され、首から下げる。「次の、試合も、頑張ります」。東海大ラグビー部4年のレキマ・ナサミラが、簡潔な日本語であいさつする。
10月30日は群馬県前橋市の広い運動公園にあるアースケア敷島サッカー・ラグビー場で、関東大学リーグ戦1部の第5週目のゲームにFLで先発。今季2度目のプレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞した。
まもなくメインスタンド下の小部屋へ移り、公式会見に出る。記者団から向かって左からナサミラ、伊藤峻祐主将、木村季由監督と並んだ。ナサミラは英語で思いを述べ、留学経験者の八百則和コーチが通訳を務めた。
「今日は、ベストのパフォーマンスができたと思っています。チームとしてもやろうとしていることができたと感じています」
関東学院大を74-7で制して4勝目を挙げた一戦を、指揮官は「ミスが起きたり、ペナルティでリズムを崩したりするなか、ゲームのなかで修正してプレーできた」と総括。船頭役の伊藤は、敵のタックルに仕掛けながらのパスでエラーがあったことを反省した。
それでもナサミラはひとまず前向きに語り、質疑を通して今季のプレーぶりを振り返ってゆく。
身長191センチ、体重123キロの巨躯を活かしたランニングに加え、ジャッカルが際立つのがナサミラの特徴。体力の削られる試合終盤でも、ナサミラが接点の球へしぶとく絡む姿が多く見られる。
この日もストライドの大きな走りで何度も前進。計3トライをマークした。守っては前半20分、自陣ゴール前左で相手走者を持ち上げんばかりの腕力でジャッカルを繰り出す。ペナルティキックを得た。ジャッカルは、53-7とほぼ勝負を決めていた後半40分頃にも決めた。
木村監督の視線を受けながら、瞳を輝かせて言う。
「今季が大学最後のシーズン。しっかりと自分で判断することを意識し、プレーしています」
この「判断」についてさらに深く聞かれれば、「ブレイクダウン(接点)ではジャッカルするか(ボールを奪いに行くか)、ファイトするか(相手にぶつかるか)の判断を意識しています」。その時々のぶつかり合いにおいて、すべき仕事を峻別する意識を語る。
会話の流れで八百コーチが「特に、彼にはペナルティが多かったところもあったので、そこを意識し、判断しているのではと…」と続けると、やりとりを見ていた木村監督が「それは、お前(八百コーチ)の意見だろう」と笑う。八百コーチは、「はい、補足です」。場が和む。
確かにこの競技では、相手のラック(ボール保持者が倒れている接点)にある球を触れば反則となる。つまりジャッカルは仕掛けるタイミングや当日のレフリング次第で、ペナルティキックを与えてしまう。
今季のナサミラは、ジャッカルを仕掛けるべきところへ仕掛ける「判断」を下している。果たして自軍の攻撃時間を増やす。
過去に日本代表のリーチ マイケルを輩出した木村監督は、今季7番をつけるナサミラの成長を語る。
「もともとフィーリングでプレーしていたところがありましたが、徐々に——彼の言葉にもあったように——判断、チームの自分の役割に意識が向くようになりました。きょうも、もともと苦手だったロー(低い)タックルへもかなり入っていた。プレーの幅が広がってきたと思います」
フィジアンのナサミラが来日したのは2019年。ワールドカップが日本で開かれる前に、同国のLOのワイサケ・ララトゥブアとともに東海大入りした。
以後は東海大の1軍争いに絡み、昨季までにチームのリーグ戦4連覇を経験できた。しかしその間は、思うに任せぬ時も過ごしただろう。特に2年目以降は、ウイルス禍に直面。慣れない異国の地にいながら、故郷へ帰るのはおろか、近隣への外出にも制限がかかった。
グラウンド内外の両方で指導の目を光らせる木村監督は、「それ(パンデミック)は自分たちではコントロールできないこと」と述べる。
「そこに目を向けて慰めの言葉をかけても(意味をなさない)。もう、乗り越えていくしかないので、違うところに目を向けさせるようにして、ラグビーと仲間に支えてもらうようにしてもらってきました」
CTBを務める伊藤主将は、「レックス」ことナサミラ、「ワイス」と呼ばれるララトゥブア、さらに3年でトンガ出身FLの通称「フィナ」、アフ・オフィナとの関係を語る。
「最終学年になって、僕たちも彼らに要求する内容が多くなってきました。レックスだけではなく、ワイス、フィナも、東海大のラグビーにマッチしようとしてくれています。寮生活でも、留学生で固まりがちなところを僕たちからコミュニケーションを取って仲良くしているというか…」
言葉を選ぶリーダーの横で、ナサミラが頬を緩める。
「練習でも、寮でも、よくコミュニケーションが取れるようになりました。ラグビーであれば、自分が何をしなければいけないかについて言われ、その内容がわかるようになってきました。寮でも、(日本人選手と)いい関係性が作れている」
普段の楽しみについて問われると、「…フィットネス(走り込み練習)が多いので、寮に帰ったら眠るだけです」。会見場の空気は緩んだ。
激しさと解放感を兼備する青年はまず、リーグ戦5連覇と大学日本一を目指す。卒業後のリーグワンでのプレーを視野に入れつつ、青春を謳歌する。