堅守をもたらすつながり、2年前の涙…。東洋大快進撃の背景は?
勢いではなく、実力で結果を出す。
今年度の関東大学ラグビーリーグ戦1部で、最大級のインパクトを示すのが東洋大だ。
昨季29シーズンぶりに2部からの昇格を決め、今季初戦で4連覇中の東海大を27-24で撃破。以後、10月までにおこなった計4試合で3勝1敗。いずれも昨季の4傑が相手だった。
昨年度の上位陣が軒並み黒星を喫するなか、得られた勝点は「13」と8チーム中2位タイ。残る3試合を経て3位以内に入れば、大学選手権出場が叶う。
下部出身のクラブが勝ち星を先行させているとあり、シーズンを重ねるごとに躍進が伝えられる。
ところが、就任5年目の福永昇三監督はこうだ。
「どちらかというと、3勝したこと(の嬉しさ)より、大東大戦の負けの悔しさが大きいです」
確かに大東大とのシーズン3試合目では、序盤から中盤に得点機を逃している。さらに一時勝ち越しを決めた後半ロスタイムに、反則により再逆転された。
結局、自分たちで白星を手離す形で、26-27と惜敗したのだ。いわば、上位陣に地力で引けを取らなかった。このあたりに東洋大の底力がにじむ。
チーム作りの理念を問われれば、「のびのびやってくれればいいな、というのが根本にある」と福永監督。その言葉通り、多国籍からなる部員のキャラクターが際立つ。
南アフリカ出身の1年生LO、身長211センチのジュアン・ウーストハイゼンが空中戦のラインアウトで存在感を示す。特に相手ボールの時は最前列に並び、飛ばずしてもボール投入役へ圧をかけられる。
このラインアウトで本当の軸となっているのは、LOやFLに入る齋藤良明慈縁主将だ。ファーストネームは「らみんじえん」と読む。
セネガルと日本にルーツを持つチームリーダーは、ラインアウトで披露するジャンプについてこう言葉を選ぶ。
「皆に言われるのは、運動神経がいいねということです。自分はそれを遺伝のせいにしたくなくて、一応、頑張って身に付けた力だと言いたいのですが…。親には、感謝しています」
努力でつかんだ強みには、飛び上がるうまさも挙げられるか。ラインアウトの防御に入る齋藤は、相手の捕球役へボールが渡る瞬間に最高到達点へと届く。タイミングがいい。
「ラインアウトディフェンスは強み。むしろ(ボールを取り返す)チャンス」
攻めを引っ張るひとりは4年生SHの神田悠作だ。東筑高卒業後に2年の浪人生活を経て入部のランナーは、3年目からいまの位置に入り鋭いサイドアタックを重ねる。
その神田と司令塔団を組むのは、副将の土橋郁矢。努力する姿勢で後輩の尊敬を集める4年生SOは、ロングキックで鳴らす。
大外には俊足戦士が並ぶ。WTBを務める2年生のモリース・マークス、3年生の杉本海斗は、50メートル走のタイムをいずれも「5.9秒」とする。
特に杉本は、ゴールキッカーも担う。
3勝目を挙げた日大との第4週では、ラストワンプレーで逆転のコンバージョンを難しい角度から決めた。
厳密に記せば、当初は失敗も、日大が声を出して妨害する反則を犯したことで蹴り直し。落ち着いてスコアを33-32にできた。
直後の会見。本人が緊張気味に話す。
「自分たちはチャレンジャー。どんどん向かっていく気持ちが今日の試合の最後まで現れたんじゃないかと感じています。その結果、(自身も)強い気持ちでコンバージョンキックを決めることができた」
東洋大の真骨頂は、この十人十色の個性が一枚岩となっていることだ。その様子は、看板の組織防御に見られる。
いったん相手を止めた選手もなるたけ素早く起き上がり、横幅の広い防御ラインに入る。大外のタックラーは適宜、鋭く飛び出して展開攻撃を防いだり、列を保って走路を埋めたりする。
このシステムを機能させるひとりが、シーズン途中からアウトサイドCTBに入った大島暁。身長166センチと小柄ながら、齋藤主将に「野性的」と称されるその動きで大外の広いスペースをカバーする。強烈なタックルを繰り出す。
ウーストハイゼンと外国人枠を争う2年生LOのマタリキ・チャニングス、3年生FLのタニエラ・ヴェアも地道にタックルを重ねる。要所でのジャッカルも光る。
肉弾戦で際立つ4年生FLの田中翔が、堅守の秘訣を述べる。
「コミュニケーションです。タイトファイブ(FW第1、2列)の選手がたまに(接点の周り)に固まってしまうのですが、外に入る選手が『広がれ、広がれ』と伝え、皆、それを聞く意識がある。普段からそうした(ライン上の)並びとコーリングの練習をしてもいる。それで、いいディフェンスができていると思います」
長らく下部に甘んじていた東洋大にとっての転機は、福永体制3季目にあったと齋藤は言う。当時の高橋太一主将を思い返し、こう証言する。
「東洋大には、人として未熟な選手が多い時代もあったと思います。ただ(2019年度入部の)自分が2年生の頃、高橋太一さんを中心に——グラウンドで頑張るのは当然のこと——人間力の強化に取り組んでいって…」
グラウンド内で成果を残すべく、グラウンド外での態度から見つめ直したのだ。CTB兼FBの4年生、田中康平はうなずく。
「掃除、身の回りの整理整頓、あいさつ。そういう当たり前のことを当たり前にやることが、大事だと思います。神頼みではないですが、善意のある行動はいいことにつながってくると信じています」
果たして高橋の代は、2部を制した。ところが折しもウイルス禍にあり、1部との入替戦に出られなかった。
というのもシーズン前に、「全試合実施後、入替戦前に、新型コロナウイルス感染症の影響による大学から出場辞退の申し入れがあった場合、入替戦は開催しない」と定められていた。1部の舞台でそのルールに抵触する試合が発生し、東洋大は悲願を果たすチャンスすら奪われたのだ。
指揮官がこの決定を伝えるチームミーティングでは、当時の最上級生が涙を流した。
その向こう側に2021年度の昇格、2022年度の1部での白星先行があった。
齋藤がここまでの流れについて話したのは9月某日。川越市内の本拠地グラウンドでのことだ。
視線の先には、ちょうど2019年に建ったばかりのクロスフィットジムがある。現4年生は、全体練習時以外にもよくこのジムへ通ってきた。努力をやめなかった。
通称「ラミン」は胸を張る。
「以前はウェイトの器具が(使用後に)ごちゃごちゃと並べてあったり、寮にも汚い箇所が多かったりしました。ただ、(現在は)自主的に掃除をする人が増えました」
多士済々のメンバーが、自分と仲間とチームを磨くために動く。それが東洋大らしさだ。
福永監督が「ひとつ、ひとつ、進む。自分たちにしかできないパフォーマンスをさせていただければと思っています」と話せば、齋藤は勇ましく締める。
自分たちのパフォーマンスが勢いではなく、実力の表れだと言いたげである。
「4試合を終えて、自分たちの力は確実に通用しているなと感じています。日本一は届く目標だと強く思っています。それだけのメンバーと、やる気と、エネルギーがあるので。積極的に、がむしゃらに挑んでいきたいです」
11月6日、同じ勝ち点で並ぶ流経大に茨城県内の相手校で挑む。