「楽しめた」けど「満足していない」。日本代表・李承信の視点。
勢いを生んだ。
10月8日、福岡・ベスト電器スタジアム。日本代表が編成する「JAPAN XV」の10番をつけた李承信は、対オーストラリアA・3連戦の2試合目に先発する。
帝京大を1年で中退してコベルコ神戸スティーラーズ入りし、2シーズンを過ごした21歳。今春、初めて参加した日本代表活動では、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチに積極的に学ぶ姿勢が買われた。今夏、テストマッチ(代表戦)デビューを果たしていた。
今シリーズでは1日の初戦(東京・秩父宮ラグビー場/●22-34)こそキャンプ中の故障のため欠場も、2戦目に復帰。戦前、こう話した。
「(初戦をスタンドで観て)グラウンド内からは見られないスペースが見られた。明日の試合でも、一緒にゲームをオーガナイズする選手とコミュニケーションを深めてそのスペースを活かしたいです。仲間といいコミュニケーションを取って、スコアの部分でチームをリードしたい」
宣言通りだった。
最初の自軍キックオフ。チームが敵陣深い位置で球を確保するのを受け、李は左右に揺さぶる。
4フェーズ目のことだ。敵陣22メートル線付近右中間に接点ができるや、各選手へ立ち位置を指示。接点の左に4人のFWを並べ、その後ろに立ってパスを呼び込む。
球を手にすると、防御と十分に間合いを取り左大外の走者へつなぐ。WTBのシオサイア・フィフィタがゴール前に迫る。
次のフェーズではFWが中央付近でぶつかり、続く6フェーズ目では李が右へ深めにパスを放る。
FBの山中亮平、CTBの中村亮土とつなぎ、最後は飛び出す防御の死角に立っていたWTBの松島幸太朗がフィニッシュ。5-0。
続く5分頃には、グラウンド中盤でのキック捕球後の攻めをリード。両サイドのスペースをえぐるよう素早い展開を重ね、右に立つFLの姫野和樹がハーフ線を突破すると、李もその左側のコースへ駆け込む。
姫野の作った接点から球をもらうと、迫り来るタックラーをひきつけながら右へ「内返し」と呼ばれるパスを放つ。FLの下川甲嗣を一気に前進させ、次の左への攻撃で再びゴール前に迫れた。8-0と点差を広げるのは、それから約5分後のことだった。
「ストラクチャーで相手を崩せた。そこはポジティブに捉えています。少しでもブレイクダウン(ボール保持者ら接点周辺)にモメンタム(勢い)があれば展開してアタックしようと、今週、意識してきた。アウトサイド(外側)の選手ともコミュニケーションが取れた」
終盤はより加速した。11-15と4点差を追う後半19分頃には、敵陣10メートル線付近右中間でランを繰り出す。
「相手(オーストラリアAの守備)は、待っている感じ。キャリーして仕掛けよう」
果たして相手のハイタックルを誘う。ペナルティキックを得て、約4分後にはNO8のリーチ マイケルのトライなどで18-15と勝ち越す。
続く27分。自陣10メートル線付近右から左への攻めでは、先制した際と同じように4枚のFWの後ろでボールをもらう。
数的優位のできた左へ簡潔にさばき、同タッチライン付近の接点からは直接、球を受ける。
前進する。
相手の防御が不揃いに飛び出したところで、李は自身の右斜め後ろにいたHOの坂手淳史主将へパス。
果たして坂手はラインブレイクし、サポートについたSHの流大へつなぐ。間もなくオーストラリアAは反則を犯し、JAPAN XVは21-15と加点できた。
しかし、勝利は逃した。
ラストワンプレーで逆転され、21-22と惜敗した。李は手応えをつかみながら、「満足はしていない」と悔しそうだった。
そういえば、戦前、李は「スペースを活かしたい」のほかにこんな目標を掲げていた。
「ゲームをコントロールして、アタック(ランとパス)と、キックのバランスを整えるように。自分がリーダーシップを取ってアタックをリードして、どんな難しい状況でも対応していけるように。…首脳陣からもそういうコメントがあったので、意識したいです」
きっと李が「満足していない」と語るのも、かような領域か。確かにJAPAN XVには、蹴り合いに苦しむ傾向もなくはなかった。
試合中盤は、相手が多用した高く、短い弾道のキックに難儀。相手のボール再獲得と侵略を許し、「相手のキックが思ったよりも前の方で(落ちた)。(自軍の)前と後ろの選手でコミュニケーションが取れないことがあった。そこに相手もいいチェイスがあって…」と感じた。
陣地を奪うためのキック合戦では、自陣の死角へ蹴り込まれるシーンがいくつかあった。首尾よく敵陣へ進むためには、いま以上の目配りが必要だと思ったか。
「(JAPAN XVも)うまく敵陣には入れていましたけど、もっと自分からのキック、外(タッチライン際)からのキックを交えたら、もっとバックフィールド(相手の後衛)をコントロールできた」
逆転負けに至るプロセスには、明確な改善点があると言いたげだった。
もちろん、「夏のシーズンよりもコミュニケーションが取れたり、視野が広かったり。チームが勝つためにするべきことが明確になっていて、今日のゲームは楽しめました」と前向きでもある。
そもそも今度の3連戦は、10月下旬以降の代表戦や来秋のワールドカップ・フランス大会に向けた地固めの機会。自分たちのプレースタイルに手応えをつかみ、局面ごとの失敗に学ぶのが狙いだ。
期待の司令塔が「満足していない」と前を向いていること自体に、価値があった。