日本代表 2022.10.13

「楽しめた」けど「満足していない」。日本代表・李承信の視点。

[ 向 風見也 ]
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「楽しめた」けど「満足していない」。日本代表・李承信の視点。
李承信。オーストラリアAとの最終戦でもJAPAN XVの10番をつける(撮影:筒井剛史)


 勢いを生んだ。

 10月8日、福岡・ベスト電器スタジアム。日本代表が編成する「JAPAN XV」の10番をつけた李承信は、対オーストラリアA・3連戦の2試合目に先発する。

 帝京大を1年で中退してコベルコ神戸スティーラーズ入りし、2シーズンを過ごした21歳。今春、初めて参加した日本代表活動では、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチに積極的に学ぶ姿勢が買われた。今夏、テストマッチ(代表戦)デビューを果たしていた。

 今シリーズでは1日の初戦(東京・秩父宮ラグビー場/●22-34)こそキャンプ中の故障のため欠場も、2戦目に復帰。戦前、こう話した。

「(初戦をスタンドで観て)グラウンド内からは見られないスペースが見られた。明日の試合でも、一緒にゲームをオーガナイズする選手とコミュニケーションを深めてそのスペースを活かしたいです。仲間といいコミュニケーションを取って、スコアの部分でチームをリードしたい」
 
 宣言通りだった。

 最初の自軍キックオフ。チームが敵陣深い位置で球を確保するのを受け、李は左右に揺さぶる。

 4フェーズ目のことだ。敵陣22メートル線付近右中間に接点ができるや、各選手へ立ち位置を指示。接点の左に4人のFWを並べ、その後ろに立ってパスを呼び込む。

 球を手にすると、防御と十分に間合いを取り左大外の走者へつなぐ。WTBのシオサイア・フィフィタがゴール前に迫る。

 次のフェーズではFWが中央付近でぶつかり、続く6フェーズ目では李が右へ深めにパスを放る。

 FBの山中亮平、CTBの中村亮土とつなぎ、最後は飛び出す防御の死角に立っていたWTBの松島幸太朗がフィニッシュ。5-0。

 続く5分頃には、グラウンド中盤でのキック捕球後の攻めをリード。両サイドのスペースをえぐるよう素早い展開を重ね、右に立つFLの姫野和樹がハーフ線を突破すると、李もその左側のコースへ駆け込む。

 姫野の作った接点から球をもらうと、迫り来るタックラーをひきつけながら右へ「内返し」と呼ばれるパスを放つ。FLの下川甲嗣を一気に前進させ、次の左への攻撃で再びゴール前に迫れた。8-0と点差を広げるのは、それから約5分後のことだった。

「ストラクチャーで相手を崩せた。そこはポジティブに捉えています。少しでもブレイクダウン(ボール保持者ら接点周辺)にモメンタム(勢い)があれば展開してアタックしようと、今週、意識してきた。アウトサイド(外側)の選手ともコミュニケーションが取れた」

 終盤はより加速した。11-15と4点差を追う後半19分頃には、敵陣10メートル線付近右中間でランを繰り出す。

「相手(オーストラリアAの守備)は、待っている感じ。キャリーして仕掛けよう」

 果たして相手のハイタックルを誘う。ペナルティキックを得て、約4分後にはNO8のリーチ マイケルのトライなどで18-15と勝ち越す。

 続く27分。自陣10メートル線付近右から左への攻めでは、先制した際と同じように4枚のFWの後ろでボールをもらう。

 数的優位のできた左へ簡潔にさばき、同タッチライン付近の接点からは直接、球を受ける。

 前進する。

 相手の防御が不揃いに飛び出したところで、李は自身の右斜め後ろにいたHOの坂手淳史主将へパス。

 果たして坂手はラインブレイクし、サポートについたSHの流大へつなぐ。間もなくオーストラリアAは反則を犯し、JAPAN XVは21-15と加点できた。

 しかし、勝利は逃した。

 ラストワンプレーで逆転され、21-22と惜敗した。李は手応えをつかみながら、「満足はしていない」と悔しそうだった。

 そういえば、戦前、李は「スペースを活かしたい」のほかにこんな目標を掲げていた。

「ゲームをコントロールして、アタック(ランとパス)と、キックのバランスを整えるように。自分がリーダーシップを取ってアタックをリードして、どんな難しい状況でも対応していけるように。…首脳陣からもそういうコメントがあったので、意識したいです」

 きっと李が「満足していない」と語るのも、かような領域か。確かにJAPAN XVには、蹴り合いに苦しむ傾向もなくはなかった。

 試合中盤は、相手が多用した高く、短い弾道のキックに難儀。相手のボール再獲得と侵略を許し、「相手のキックが思ったよりも前の方で(落ちた)。(自軍の)前と後ろの選手でコミュニケーションが取れないことがあった。そこに相手もいいチェイスがあって…」と感じた。

 陣地を奪うためのキック合戦では、自陣の死角へ蹴り込まれるシーンがいくつかあった。首尾よく敵陣へ進むためには、いま以上の目配りが必要だと思ったか。

「(JAPAN XVも)うまく敵陣には入れていましたけど、もっと自分からのキック、外(タッチライン際)からのキックを交えたら、もっとバックフィールド(相手の後衛)をコントロールできた」

 逆転負けに至るプロセスには、明確な改善点があると言いたげだった。

 もちろん、「夏のシーズンよりもコミュニケーションが取れたり、視野が広かったり。チームが勝つためにするべきことが明確になっていて、今日のゲームは楽しめました」と前向きでもある。

 そもそも今度の3連戦は、10月下旬以降の代表戦や来秋のワールドカップ・フランス大会に向けた地固めの機会。自分たちのプレースタイルに手応えをつかみ、局面ごとの失敗に学ぶのが狙いだ。

 期待の司令塔が「満足していない」と前を向いていること自体に、価値があった。

 シリーズ3戦目は14日、大阪・ヨドコウ桜スタジアムでおこなわれる

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