コラム 2022.09.15

【コラム】本質を見にいこう。

[ 向 風見也 ]
【コラム】本質を見にいこう。
8月の菅平、関学大と青学大の定期戦。まだ無骨ながら両校の「やりたいこと」が激突、見応えがあった(撮影:福島宏治)

 9月9日、都内のフランス大使館にラグビー日本代表選手がやって来た。ワールドカップを約1年後に控え、レセプションが開かれていた。

 取材に応じた1人はリーチ マイケル。過去3度のワールドカップに出た看板選手は、翌年の本大会よりもその前哨戦となる今秋のツアーについて話した。

「まず、目の前の試合に向け、どれだけいい準備ができるか。その段階だと思います。先を見る必要はない」

 目下、50名超の候補選手を合宿でふるいにかける日本代表は、10月下旬までに対オーストラリアA・3連戦を「JAPAN XV」名義で戦い、同月29日には国内でニュージーランド代表、11月12、20日にはイングランド代表、フランス代表にそれぞれ敵地でぶつかる。

 最後の3戦は正規のテストマッチ。相手は世界有数の強豪国だ。イングランド代表に至っては、本大会の予選プールでもぶつかるライバルだ。

 2019年の日本大会で初めて8強入りした日本代表はこの約3年間、パンデミックの影響などで以前ほどの国際経験を積めずにいた。今度の対戦機会は、再びの決勝トーナメント行きを目指すフランス大会への試金石となる。

「(特に)ヨーロッパ遠征で、手応えが掴める。海外に行って、海外でどうやって勝つか。そのいい勉強になると思います」

 周りを囲む記者の1人から、こんな趣旨の質問が飛ぶ。

「日本大会までの過程でも、前年秋のツアーで好感触を掴めたのですか」

 国民を熱狂させた日本大会の前年、日本代表は国内外で強豪国に挑んでいる。

 11月3日、若手主体のニュージーランド代表に31―69と大敗。続く17日(現地時間)には、イングランド代表に敵地で15―35と屈した。いずれの序盤こそ競り合ったものの、時間を重ねるごとに差をつけられた。

 当時の試合の現象を振り返れば、日本代表はニュージーランド代表戦で自軍ボールの被ターンオーバー、タックルミスを連発。イングランド代表戦では、スペースを攻略して前に出た直後のパス交換をかすかに乱した。

 2試合を通じ、格上を倒すのに不可欠なレフリングへの対応でも苦労していた。それゆえ、18年秋の時点で19年に「イケる」と感じるウォッチャーはそう多くなかったはずだ。

 そもそも当時のニュージーランド代表戦の直後、リーチその人がこう話している。

「きょうの試合では、世界の厳しさがよくわかりました。自分たちの練習のなかでも厳しくやっているつもりでしたが、もっと厳しくやらないといけないのが改めてわかりました」

 その他、「笑わない男」の愛称で有名人となった稲垣啓太も、得意技のジャッカルをなかば流行語とした姫野和樹も、当時のミックスゾーンでは一様に反省の弁を口にしていた。

 もしかしたら、聞き手に言わされた側面もあったのかもしれない。ただ、具体的なプレーの振り返りが甘く響かなかったのは確かだ。

 ところがフランス大使館にいた2022年のリーチは、この計160分間が翌年の日本大会への大きな足掛かりになったと話す。

「かなり、(18年秋の時点で)イケるなと思って。正直、あの時にもう1回オールブラックスと試合をしていたら、勝っていたと思います」

 きっとこの「イケる」は、試合中のプレーやスコアといった現象ではなく、チームがどうであるか、どうなるかといった本質を踏まえたうえでの「イケる」だったのだろう。

 タックルや接点に関しては技術的な修正点こそあれ、身体をぶつけ合った感触がそう悪くなかった…。直前の長期合宿で、首脳陣と選手との協調関係が確立しつつあった…。一部の主力を欠きながらも、自前のシステムが機能させるシーンをいくつも作れた…。

 ’18年秋の試合や日本大会でのパフォーマンス、蓄積された取材成果や各種証言を踏まえると、2018年秋にリーチが手応えを掴んだ要因はこのあたりに集約されそうだ。

 いずれにせよ、ひとつの普遍が再確認できる。

 現象をなぞるだけでは本質はわからない。

 また、本質を探ろうとして初めて試合、チーム、競技の妙味がわかる。

 これから始まる秋のツアー。日本代表が勝って成功体験を積み上げるかどうかも注目されるだろうが、本当のフォーカスポイントは別なところにあるような。

 意図的に相手防御を崩したり、意図的に相手の攻めを遮断したりする機会をどれだけ作れるか、もしくは作れないかといった、目指すスタイルの再現性に関する点が興味を引く。

 それは、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いるいまの日本代表に、まず自分たちと向き合ってチームを強くしてきた歴史があるからだ。

 ともかく、現象をなぞっただけで本質がわかった気になるのは危険だと自戒する。

 まずは多くの材料をもとに仮説を立てたり、その仮説を立てる自分の目を疑ったりする。ごくごく一部の最終決戦を除けば、ペナルティーゴールが入ったかどうか、ある場面で1人のタックルが決まったかどうかといった枝葉の現象に流されない。

 現在開催中の大学ラグビーを含め、それらを念頭に置いて報じたい。

【筆者プロフィール】向 風見也( むかい ふみや )
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。

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