【コラム】『キャプテン』の重み。
ただしテストマッチに挑む代表チームの主将にかかる重圧はまた別次元だろう。まして初めてジャパンのキャプテンとして迎えるシーズンである。2019年ワールドカップで熱狂のピッチに立ち、27のキャップを積み重ねてきた生来のスキッパーであっても、少なからずパフォーマンスに影響が及ぶのではないか――。しかし、そんな心配は無用だった。
6月25日、宮崎合宿組のファーストマッチとなった北九州でのウルグアイとの第2テスト。開始3分に敵陣陣ゴール前でペナルティを獲得すると、キャプテン坂手は迷わずタッチへ蹴り出してトライを狙いにいく選択をした。自ら投じるスローをジャンパーの元キャプテン、リーチ マイケルにピタリと合わせ、モールを組み、相手のサイド防御が手薄になった瞬間に持ち出す。そのまま押し切ってインゴールに飛び込んだ。
シーズン最初のゲームの序盤で、新たにキャプテンに任命された選手が最初のトライを挙げる。取った時間帯から取り方、取った人まで、これ以上ない形の理想的な1本。チームにとっても、坂手自身にとっても、このトライの意味は大きかった。よしっ、これで勢いに乗っていける。きっとジェイミー・ジェセフヘッドコーチも、コーチングボックスで拳をギュッと握りしめたはずだ。
続くフランスとの2連戦でも、坂手は先頭に立って堂々とジャパンを牽引した。セットプレーで互角に渡り合い、ディフェンスでは代名詞の猛タックルを連発。アタックでも迷いのないボールキャリーと献身的なサポート、多彩なスキルで多くのチャンスに絡んだ。チームの代表者としてメディア対応などオフザピッチでの仕事を数多くこなしながら、芝の上では常に質の高いパフォーマンスを保ち続けた。
インパクトの大きさなら、『レ・ブルー』の面々も舌を巻く破壊力を披露したテビタ・タタフや、国立競技場の芝にあざやかな2トライを刻んだ山中亮平に軍配が上がるかもしれない。それでも個人的には、見事に重責を果たしきった坂手のリーダーシップを、真っ先に今夏の代表活動の収穫に挙げたい。初めてキャプテンとして臨むテストシリーズで、そのことを周囲にまったく意識させなかった。それだけですでに賞賛に値する。