コラム 2022.07.07

【ラグリパWest】世田谷→西宮。報徳ラグビー三人衆の充実。

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】世田谷→西宮。報徳ラグビー三人衆の充実。
世田谷の千歳中から西宮の報徳学園に来た3人組。海老澤琥珀、伊藤利江人、ジョーンズ日光(左から)。東福岡、東海大仰星、桐蔭学園に次ぐ、史上4校目の高校ラグビー三冠に輝き、東京から兵庫への高校選択の正しさを証明したい



 3人は世田谷から西宮にやってきた。西下してラグビーが充実する。

 伊藤利江人(りえと)。
 海老澤琥珀(こはく)。
 ジョーンズ日光(にっこう)。

 中学は東京の千歳。高校は兵庫の報徳学園。ラストの3年目を迎える。
「来てよかった。思った通り楽しいです。ほぼ選手たちで考えます。自由です」
 伊藤の細い目はたれる。お公家さんのような品が漂う。名の由来はイタリア語のlieto=幸せ。名付けた父はこの国でプレーした。

 監督の西條裕朗は言う。
「東京から3人一緒に来るのは珍しい。今までになかったことです」
 報徳は今春、23回目の選抜大会を初めて制覇した。3人の選択に誤りはない。

「中学とチームが似ています」
 伊藤は同質感を口にする。この区立中の監督は長島章。その指導も「自由」が軸。この『Rugby Republic』に朝日新聞記者でもある野村周平が以前リポートしている。
<タッチフットでなかなかボールをもらえない子どもがいる。そんな光景を見つけると、先生はすかさずルールを変える>
 タッチした人を攻撃側に回す。ブレイクダウンも作る。自由=楽しさを感じて育つ。

 伊藤と海老澤は中2の夏に報徳学園の練習を体験した。2人は世田谷ラグビースクールから一緒。伊藤は大学への青写真があった。
「父と同じ明治に行きたい、と相談したら、報徳はいい選手が出る、と教えてくれました」
 父の名は宏明。明治の現ヘッドコーチである。東京SG(旧サントリー)など5チームでプレーした。日本代表キャップは2。ポジションは親子ともにSOだ。

 近年、報徳学園から明治に進んだ選手には梶村祐介や前田剛(ごう)、井上遼らがいる。梶村は横浜(旧キヤノン)のCTB、前田と井上は神戸(旧・神戸製鋼)のFLだ。毎年、コンスタントに1人は紫紺の門をたたく。

 その伊藤と9年の付き合いになる海老澤はWTB。副将を任されている。丸刈りの頭まで日に焼ける。琥珀という名の由来は知らない。
「聞いても教えてくれません」
 顧問の木下友紀子がチャチャを入れる。
「ラーメンのスープとちゃうのん」
 うんうん、それも琥珀色、なんでやねん。

 そのラーメン屋で関西を感じる。
「ある店で、携帯の充電がない、って騒いでいたら、充電器を貸してくれました。優しい地域だなあ、と思いました」
 海老澤は伊藤の家に下宿する。父は逆単身赴任の形になる。2人は高校日本代表候補。サイズは伊藤が173センチ、75キロ。海老澤が171センチ、80キロだ。

 ジョーンズ日光は2人より頭ひとつ抜ける。186センチ、100キロのLO。夕日を浴びると髪は金色、瞳はグレーに輝く。アメリカと日本のハーフだ。名は戸籍上のニコラスに祖父母が好きな地名をあてた。

 中学で先輩に勧誘され競技を始める。3年秋にあった太陽生命カップでコーチの泉光太郎から報徳学園への入学を誘われた。
「兵庫で頑張ろうと思いました。母のためという気持ちもありました」
 母の明実は県西部の姫路近郊で育った。ジョーンズはチームが借り上げている寮に、ほかの遠隔地出身の部員たちと暮らす。

 クラスは3年6組。担任は木下。社会科教員でもある。
「絶対に頭がいいはずです。英語を日本語に変換しないといけないハンディがあるけど、そのままアメリカにいたら、すごい大学に行っていたと思います」
 10歳の時、ハワイからもうひとつの母国に戻って来た。

 3人の最終学年の目標は決まっている。海老澤は言う。
「高校3冠っすね。7人制を勝って、花園も優勝します」
 9回目となる7人制の全国大会はこの7月16日からの三連休にある。伊藤はチーム主将をつとめる。開催のラグビー場から「花園」と呼ばれる冬の全国大会は年末年始にある。

 半年ほど前の101回大会は3回戦で敗退した。優勝する東海大仰星に0−33。新チームはこの3人を含め、「報徳史上最高の代」と呼ばれる3年生が軸になる。選抜優勝後も好調に推移。県民大会(春季大会)でも優勝した。決勝で関西学院を52−21で降す。

 伊藤は試合の流し方を考える。
「ゲームメイクはまだまだです。中学までCTBだったので。大和とどうやって作るかを模索しています」
 HB団を組むSHの村田大和と話し合う。父からのアドバイスは精神面だ。
「技術的なことは何も言われません。ただ、気持ちの入っていない試合はわかるらしく、『やめたら』ってLINEが来たりします」
 向き合い方の大切さを教えられている。

 海老澤はウエイトトレに励む。
「僕はステップキャラなんですが、それだけでは上で通用しません。今年はフィジカルを上げ、簡単に倒れないようにしています」
 ベンチプレスの最高は110キロ。昨年は3ケタに到達しなかった。長い日は1時間ほど居残り練習に励む。

 ジョーンズはリアクションに力点を置く。
「反応が遅れ、タックルができないことがあります。そういうことをなくしたいです」
 ボールがどこにあるかを常に確認して、すぐに広がる。予測する。コールもしっかり聞くように普段の練習から注意している。

「3人一緒にプレーをしたいです。でもそのためにはまず自分が頑張らないといけません。レギュラーを獲ることだけではなく、悔いを残さない。やり切りたい、と思っています」
 ジョーンズは3人の中で唯一の控えである。自信のある腕力でボールを奪うモールディフェンスを含め先発の15人に入りたい

 海老澤は表情を大きく崩す。
「来て、めちゃめちゃよかった。濃厚な3年間でした。まだ終わっていませんが」
 この夏、そして冬と有終の美を飾りたい。

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