日本代表 2022.07.05

日本代表、フランス代表戦を落とした意味と価値。

[ 向 風見也 ]
【キーワード】,
日本代表、フランス代表戦を落とした意味と価値。
日本代表のヴァルアサエリ愛がタックルするもボールをつなぐフランス代表(撮影:松本かおり)


 テストマッチ9連勝を狙う世界ランク2位のフランス代表は、一部の主力を母国に残していた。

 かたや10位の日本代表も若手を登用。さらに折からのウイルス禍で、予定された選手起用もままならない。かねて挑戦者の立ち位置であるうえ、アクシデントにさいなまれている。挑む側がさらに苦境に立たされる、その構図が透ける。

 その日本代表は、序盤から仕組みを機能させた。

 自陣からでも端から端へ球をつなぎ、スペースをえぐる。接点から展開する際は、時にFWのユニットを経由し、時にSOの捕球を始点とし、的を絞らせまいとした。

 本来ならラインの内側に入るCTBの選手は、流れに応じてグラウンドの端側に立つ。この日の先発選手がスピード自慢だったことを鑑みての配置か。

 トニー・ブラウン アシスタントコーチの理論を体現したこれらの動きは、前半14分のスリリングな得点シーンを生んだ。中盤以降は、接点の真上を走者が直進する動きも交わる。追加点への期待は高まる。

 守っても、前に出てのダブルタックル、複数名によるジャッカルを看板とした防御を機能させた。ジョン・ミッチェル新アシスタントコーチのシステムのもと、リーチ マイケル、ベン・ガンターの両FLが終始、危険なスナイパーでい続けた。

 HOの坂手淳史主将はこう総括する。

「僕たちのやろうとしているラグビーのスピード、スキルを使おうとすることは表現できた。(防御でも)ここまでやってきたセットの速さ、前に出るプレッシャー、ダブルショルダー(2人がかりのタックル)に入るところは、よくなってきていると思います」

 ところが愛知・豊田スタジアムの得点板には、結局、「23-42」と刻まれる。

 坂手も、前向きな振り返りに「遂行力ではまだまだ足りない部分がありました」「たくさん点を取られているので、だめな部分を探すときりはないですが…」と補足してもいた。

 前半は13-13と同点。その印象を聞かれ、左PRの稲垣啓太は「プランは遂行できてはいましたけど、もっとやれた部分もあった」と応じる。

 たしかに3-7と4点差を追っていた前半8分頃からの約2分間で、敵陣22メートル線付近での好機を2度、ふいにしていた。攻めの起点になるラインアウトで競られたり、着地してまもなく落球したり。スコア上こそ接戦を演じられた折も、逃したくない好機を逃していた。

 さらにハーフタイムが明けると、好機を失う流れでフランス代表に好機を活かされた。

 後半開始早々、敵陣22メートルエリアまで進む。ここで走者が絡まれ、寝たまま球を手離さないノット・リリース・ザ・ボールのペナルティを犯す。

 向こうのキックミスでいったんは攻撃権を取り返したものの、敵陣10メートル線付近右のラックを複数名にめくられる。ターンオーバー。

 このふたつの接点には、軌道修正が見え隠れした。

 ハーフタイムまでに、フランス代表は日本代表の倍にあたる8つの反則数を記録。接点で即座に笛を吹きがちなフランク・マーフィー レフリーの傾向に難儀した。

 ただし再びグラウンドへ現れてからは、接点への寄りのスピードを意識したような。ファビアン・ガルティエ ヘッドコーチは「我々はブレイクダウンでしっかり対応できた。そこは意識したことです」とうなずく。

 後半の反則数も6対6と笛に悩まされる向きは続くものの、件の微修正は一連の好プレーと無関係ではなさそう。日本代表はその流れで自陣22メートルエリアまで押し戻され、5分、13-20と勝ち越される。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチはこうだ。

「後半開始早々に7点差を追う展開となったのは、これからの改善点になります」

 追う立場となった日本代表は、手にした球を自ら失うようになった。

 16-23と7点差を詰めたかった後半15分頃、WTBのシオサイア・フィフィタが痛恨のエラーに表情を崩した。タッチラインの外に足を出しながら、相手のキックオフを捕球してしまったのだ。

 その直後こそ向こうのミスで一命をとりとめたが、18分、16-30とされる。ハーフ線付近左のラインアウトからの防御で、SOの李承信が果敢にタックルも弾き飛ばされたのだ。CTBのヨラム・モエファナが抜け出し、WTBのダミアン・プノーがフィニッシュした。

 モエファナは21分、日本代表のわずかな連携の乱れを突く攻めにも参加する。ここでは仕留め役となり、リードを19点に広げた。

 稲垣の言葉通り、後半の失トライは「セットプレーからの一発、ミスからの一発(だけ)」。組織が崩れた場面はそう多くなかっただけに、口惜しさが増す。

 この日最大の価値は、敗戦が内部でよしとされてないところにあった。

 公の場に出た日本代表陣営のうち、顔つきが穏やかだったのは「(それは)年を取ったからだよ」と述べるジョセフだけだった。

 チーム方針もあってか合計5名に止まった取材対応選手の1人、稲垣は「負けてしまっているので、あまりいろいろと言いたくないですけど」。試合前の時点で思うに任せぬ状況だったことにも、この調子で応じる。

「誰が入っても(日本)代表のプランは遂行できると思います。ただ、きょうはちょっとした連携のミスが目立ちました。よくない負けでしたね」

 2019年の日本大会で初のワールドカップ8強入りを達成した日本代表は9日、今回と同じカードに挑む。稲垣は「自分たちのやろうとしていることができている時はいい時間帯も作れている。あとは細かなミスと反則をいかに減らせるか。そこだけです」と続ける。

PICK UP