日本代表 2022.06.29

待望論叶わなくても本人腐らず。「姿勢」見直した野口竜司、日本代表へ戻り躍動。

[ 向 風見也 ]
【キーワード】,
待望論叶わなくても本人腐らず。「姿勢」見直した野口竜司、日本代表へ戻り躍動。
6月25日のウルグアイ戦で4年ぶりのテストマッチ出場となった野口竜司(撮影:松本かおり)


 ラグビー日本代表の野口竜司が、ファーストプレーで持ち味を発揮した。

 自陣中盤へ飛んできたボールを味方から受けるや、高い弾道を蹴り上げる。10メートル線エリアの落下地点へ駆け込む。跳ぶ。

 捕球役と球の間に片手を差し込み、向こうの防御が整う前に攻撃権を得た。
 
 6月25日、福岡・ミクニワールドスタジアム北九州。ウルグアイ代表戦に先発していた。位置は最後尾のFBだ。続く2分にも、パントとジャンプの合わせ技で魅した。

 ここでは自陣10メートル線付近左から、ほぼ直線上の敵陣22メートル線あたりへ侵入。味方のルーズボールへの反応と相まって、チームは複層的な陣形で攻め始めることができた。やがて相手の反則を引き出し、先制した。

 10分頃には、自陣深い位置からの野口のキックが直接、タッチラインの外へ出る。ダイレクトタッチ。蹴った場所の近くで相手にラインアウトを与えた。しかし、そのラインアウトで仲間がボールを取り返した。すぐさま野口は、長距離のキックを繰り出した。

 自陣22メートル線付近から伸びた球が、敵陣22メートルエリアでタッチラインを割ったのだ。

 ハーフ線より後ろの起点を経て放たれたキックで当該の線を越すと、その地点で自軍ボールラインアウトを得る。

 ミスを帳消しにした野口の足技を経て、日本代表はスコアを8点差から11点差に広げた。16分だった。

 15番は攻めても渋く光る。
 
 後半7分ごろ。敵陣ゴール前左でSOの山沢拓也がキックパスを放つ。左タッチライン際で捕球したWTBのシオサイア・フィフィタを、野口が後ろからサポートする。

 いったん左大外に回り、フィフィタの目の前の防御網を左右に広げる。その次の瞬間、フィフィタが前進しながら作った接点へスムーズに寄る。楕円球の真上にポジションを取る。

 この流れではトライを生めなかったものの、日本代表はそのまま敵陣ゴール前に居続けた。10分には加点。24-0。

 結局、野口はフル出場を果たし、43-7で勝つ。終始、無形の強みを示した。

「持ち味はフィールディング。後ろのカバーリングや、コミュニケーションを取って簡単にディフェンスライン(前方の隙間)を空けないことは強みだと思っています」

 身長177センチ、体重83キロの26歳。一線級にあっては決して大柄ではないが、東海大仰星高時代から最適な位置取り、蹴り分けを磨いてきた。

 初の日本代表入りは東海大3年時。もともとの持ち味が、現体制のニーズに符合したためだ。

 当時から指導していたジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチとトニー・ブラウン アシスタントコーチは、スマートな蹴り合いと組織的な攻防をシンクロさせる。2019年、ワールドカップ日本大会でジャパン初の8強入りを果たした。

 もっともその大舞台に、野口の姿はなかった。最終選考で漏れた。

 その後も2018年加入の埼玉パナソニックワイルドナイツで奮闘したが、昨季の日本代表活動では声がかかるのが常連組より遅かった。夏のツアー時は選外で、秋も途中参加。テストマッチでの出番は得られなかった。10月上旬にはこう述べている。

「足りないな、と。選ばれないということは、そういうことだと思っていた」

 腐らなかった。周囲の待望論には、「特にはわからないですが、そこ(日本代表)で活躍するのが目標」。目標達成に向け、淡々と課題を分析した。

「コンタクトの部分で、レベルを上げないといけない」

 生来の機動力、判断力、技術を磨きながら、大きな相手に負けない強さも身に付けようとした。

「接点で一歩でも前に出れば、オフロード(タックルされながらのパス)などで相手のディフェンスを崩せる。逆に、(防御で相手に)出られないように踏ん張れないと、勢いを与えてしまう」

 同僚のHOで36歳の堀江翔太からも、似た指摘を受けていた。2021年春までのトップリーグを終えてから、堀江が師事する佐藤義人トレーナーのもとへ出向くようになった。

 身体の内側を鍛え、姿勢を整えた。

「インナートレーニングをしました。身体の細かい部分(を鍛錬する)というか…。いままでは身体が丸まっていることが多かった。それでは(パワーが)出力されない。これは癖なので劇的に変わりはしないのですが、徐々に変えていきたいと思っています」

 着実に土台を作って臨んだリーグワンでは、故障欠場時などを除く実戦計11試合で活躍。初代王者に輝き、今度の出場機会をつかんだのである。

 ウルグアイ代表戦で成長点をにじませたのは、後半12分だ。カウンターアタックで、ハーフ線付近にできた防御網へ亀裂を入れた。背中のラインをほぼ一直線に保ちつつ、「コンタクトの部分」で「前に出」られた。

 強豪国とのバトルでもかようなオプションを示せれば、来年のワールドカップ・フランス大会行きにも近づくか。

 7月2日、9日には、愛知・豊田スタジアムと東京・国立競技場で世界ランク2位のフランス代表とぶつかる。向こうのFBであるメルヴィン・ジャミネもフィールディングの達人だ。陣取り合戦で両者が相まみえれば、その駆け引きで愛好家をうならせそうだ。

PICK UP