「昨季王者」ワイルドナイツの最後尾に野口竜司。渋い働きで危険地帯を「カバー」
ファーストプレーで「マーク!」。自陣22メートル線付近左に放たれた高い弾道を、飛び上がって捕球。流れをいったん静止できるフェアキャッチが認められるや、走り出して前方へ蹴り出す。ボールは相手に当たってタッチラインの外へ出た。自軍ボールを得た。
5月7日、熊谷ラグビー場。埼玉パナソニックワイルドナイツの野口竜司は、本拠地でのリーグワン1部・最終節で最後尾のFBとして先発する。対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイの多用するキックに首尾よく対処し、蹴り返す。エリアの争奪戦で後手を踏むのを防いだ。
前方で身体を張るFW陣に感謝しつつ、自身のプレー中の思考回路を語る。
「FWが前でディフェンスをがんばってくれている。そこでゲインを切らせない(突破させない)となると、結局、(相手は)キックでプレッシャーをかけてくる。相手のSO(司令塔)の位置やラインの浅さを見て『蹴ってくるだろう』と、早めに反応できたと思います。後ろのバックスリー(WTB、FBの総称)は僕だけじゃない。周りとコネクトしてカバーはできた」
前半9分には、自陣中盤から高い弾道を蹴り上げるや鋭く駆けあがる。敵陣10メートル線付近左中間で捕球役へタックルし、味方のヒーナン ダニエルのジャッカルを促す。その間、ワイルドナイツ自慢の防御網が敷かれ、間もなくその列にいたFLのラクラン・ボーシェーが接点の楕円球に絡む。ペナルティキック獲得。3-0。
以後も野口は、バックスペースと呼ばれる防御網の背後を衛星のように動く。
手前の防御網の端に隙間ができれば、自ら「WTBとコミュニケーションを取りながら、外に脅威があれば(防御ラインに)参加する」とせり上がる。危機を回避する。
後半26分こそ味方選手とのコミュニケーション不良でキックの処理を誤り、14-14と同点とされる。もっとも、「自分たちのミスはありましたが、チャンスがある時にトライを獲ろうと気持ちは切り替えていました」。続く31分、右、左と大きく球を動かす連続攻撃の流れでフィニッシュする。直後のゴールキック成功で21-14。
以後はロングキックを用いてだめを押す機会をうかがい、最後は35-14と快勝した。リーグワン初年度のレギュラーシーズンでの、実戦全勝を果たした。
昨季、前身のトップリーグで通算5度目の優勝を果たしているワイルドナイツは、リーグワン初代王者を射程圏内にとらえた。
「後半はエリアマネジメントもよかった。強みのディフェンスを出せたのがこういう結果につながったとは思います」
野口は2018年入部の26歳。東海大仰星高(当時)を経て入った東海大では、3年時に初の日本代表入り。身長177センチ、体重83キロと一線級にあっては大柄ではないが、蹴り合うさなかの技能、判断力が際立つ。楕円球を蹴り込まれたスペースへ先回りするさまは、通好みの愛好家にはおなじみの光景か。
9日には、6月以降に動く日本代表の候補選手にも名を連ねた。FBに空中戦の強さとフィジカリティを求めるナショナルチームにあっても、満額回答を示したい。