国内 2022.05.13
「すぐそばに、傷ついている人がいる」。勝利の瞬間に見えた徳。クウェイド・クーパー[花園近鉄]

「すぐそばに、傷ついている人がいる」。勝利の瞬間に見えた徳。クウェイド・クーパー[花園近鉄]

[ 成見宏樹 ]

「もちろん、ライナーズにとって特別な瞬間だってことは分かっていた。ただ、すぐそばに違う立場の人がいる。負けて、傷ついている人がいるだろって伝えた。過去2戦で自分が学んだことです。そのうえ彼らは、この先また1か月も戦い続けなくちゃならない。三菱を支えてきたファンだって見てる。これ見よがしに喜ぶことはない。第一、そんな喜び方をする必要がない。俺たちは、勝つべくして勝ったのだから。セレブレーションは、チェンジングルームに戻って、自分たちだけでやればいい。特別な瞬間だって、分かってましたよ俺だって」

 ラグビーでは、リベンジとはこのようにするのかと学んだ。悔しくて、もがいて、技や力や結束をとことん磨いたら、殴り返すはずだった相手が敵でなくなる。友になることも。だからフィールドでも、本当に相手の心や体を壊しにいくことはしない。

 今季の初戦が印象的だったという。

 三菱に14-25で敗れたあと、やはりチームメートに語りかけた。

「本当に勝つべき時に勝てばいい。今は初戦だ。これからその時までに、勝てるチームになっていこう」

「41週間の旅」(クーパー)を経て、チームは大きく成長した。

 自身が手のケガで欠場した3試合が大きかった。8節からの三重ホンダヒート、日野レッドドルフィンズ、釜石シーウェイブス戦を全勝で乗り切った。

「ウィル(ゲニア/SH)もいない中、若い選手がタイトな試合を勝ち切った。ハートも強くなった。ケガをしてよかったと今は思えます。自分にとってもリフレッシュになった」

 来季の契約については「具体的にはこれから。要らないよって言われるかもしれないし」とメディアを笑わせ、かわした。3年の契約は延長の可能性が高い。

「ウィルとは、面白い1年間だったねとさっき話しました。この3年の間には難しい時期もありました。選手はもちろん、チーム組織もスタッフも成長した。長くチームに在籍してきた人たちが喜ぶ顔を見たら、こちらまでグッとくるものがあった。家族のような気持ちに、なりました。これは旅の始まり。上がるだけではなくトップに居続けなければならない。そしていずれは日本一が目標になる」

 Division1 昇格決定!

 すべての選手とスタッフが芝生に降りて、用意されたボードを掲げると、雄叫びが上がった。「パパ」は今度は、目を細めてそれを眺めていた。

【筆者プロフィール】成見宏樹( なるみ・ひろき )
1972年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業後、1995年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務、週刊サッカーマガジン編集部勤務、ラグビーマガジン編集部勤務(8年ぶり2回目)、ソフトテニスマガジン編集長を経て、2017年からラグビーマガジン編集部(5年ぶり3回目)、編集次長。

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