「すぐそばに、傷ついている人がいる」。勝利の瞬間に見えた徳。クウェイド・クーパー[花園近鉄]
「もちろん、ライナーズにとって特別な瞬間だってことは分かっていた。ただ、すぐそばに違う立場の人がいる。負けて、傷ついている人がいるだろって伝えた。過去2戦で自分が学んだことです。そのうえ彼らは、この先また1か月も戦い続けなくちゃならない。三菱を支えてきたファンだって見てる。これ見よがしに喜ぶことはない。第一、そんな喜び方をする必要がない。俺たちは、勝つべくして勝ったのだから。セレブレーションは、チェンジングルームに戻って、自分たちだけでやればいい。特別な瞬間だって、分かってましたよ俺だって」
ラグビーでは、リベンジとはこのようにするのかと学んだ。悔しくて、もがいて、技や力や結束をとことん磨いたら、殴り返すはずだった相手が敵でなくなる。友になることも。だからフィールドでも、本当に相手の心や体を壊しにいくことはしない。
今季の初戦が印象的だったという。
三菱に14-25で敗れたあと、やはりチームメートに語りかけた。
「本当に勝つべき時に勝てばいい。今は初戦だ。これからその時までに、勝てるチームになっていこう」
「41週間の旅」(クーパー)を経て、チームは大きく成長した。
自身が手のケガで欠場した3試合が大きかった。8節からの三重ホンダヒート、日野レッドドルフィンズ、釜石シーウェイブス戦を全勝で乗り切った。
「ウィル(ゲニア/SH)もいない中、若い選手がタイトな試合を勝ち切った。ハートも強くなった。ケガをしてよかったと今は思えます。自分にとってもリフレッシュになった」
来季の契約については「具体的にはこれから。要らないよって言われるかもしれないし」とメディアを笑わせ、かわした。3年の契約は延長の可能性が高い。
「ウィルとは、面白い1年間だったねとさっき話しました。この3年の間には難しい時期もありました。選手はもちろん、チーム組織もスタッフも成長した。長くチームに在籍してきた人たちが喜ぶ顔を見たら、こちらまでグッとくるものがあった。家族のような気持ちに、なりました。これは旅の始まり。上がるだけではなくトップに居続けなければならない。そしていずれは日本一が目標になる」
Division1 昇格決定!
すべての選手とスタッフが芝生に降りて、用意されたボードを掲げると、雄叫びが上がった。「パパ」は今度は、目を細めてそれを眺めていた。