国内 2022.04.23

168センチのフィニッシャー。HO髙島忍[横浜キヤノン]の価値

[ 編集部 ]
168センチのフィニッシャー。HO髙島忍[横浜キヤノン]の価値
童顔も、試合になるとスイッチが入る。(撮影/松本かおり)
セットプレーの向上で出場機会が増えた。(撮影/松本かおり)



 フィニッシャーとして信頼を深めている。
 168センチ、95キロ。横浜キヤノンイーグルスの髙島忍は、リーグワンのディビジョン1チームの中では、もっとも小さいHOだ。
 勝負どころでピッチに投入される。好調なチームを支えている。

 2015年に入社して今季が8シーズン目。昨季初めて先発出場の機会をつかんだ(3試合)。
 今季は第13節までにおこなわれた12試合中10戦に出場して先発は1試合だけ。
 もちろん、今季も2番を背負ってピッチに立ちたい思いはある。

 しかし指導陣の信頼を得て、「試合が決まるか決まらないかの状況で出ていく」のはプレッシャーもあるが、やり甲斐が大きい。
「流れを変えることを期待されていると理解してプレーしています」

 例えば4月9日のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦。髙島は後半37分にピッチに出た。
 敵陣ゴール前でのマイボールラインアウトの時だった。

 スコアボードは23-14。いきなりのラインアウトで正確なスローイングをみせる。
 FWが強固なモールを組み、押し切る。試合を決めるトライを呼んだ。

 第6節の静岡ブルーレヴズ戦では後半30分にピッチに出た。ジャッカルで相手反則を誘う。
 PK、ラインアウトからトライを呼んだ。21-18だったスコアは28-18。勝負を決めるトライのきっかけになる働きだった。
 試合後には、周囲から「あのプレーで流れが変わった」と声が飛んだ。

 強みのひとつがスローイングの精度。試合終盤に投入されるのも、そこにある。
 イーグルスに加わった頃はPR、HOの両ポジションに取り組むも、やがてHOに固定。そこでスクラムなどの安定感も高まり、出番が増えてきた。

 小柄ゆえ、低さとスピードに注力する。
「小さくても勝つには、速い動き出しと低いプレーが大事。そしてワークレートを高くすること」と話す。
 沢木敬介監督も、そこを評価する。

 今季唯一の先発となった第5節のスピアーズ戦には21-50と完敗も、スクラムが崩壊することはなかった。
 トイメンは189センチ、117キロと、21センチ、22キロも大きな南アフリカ代表のマルコム・マークスだった。

 その試合を「見上げるような大きさでした」と回想するも、マークスが試合後に「あんなに低いと組みづらいよ」と言っていたと聞く。
 自分の生きていく道は明確だ。

 3歳の時、ラグビー経験者の父の影響を受けて南京都ラグビースクールに入った。
 東宇治中時代は京都ラグビースクールに所属。立命館宇治高校から立命館大学に進学した。

 現在もチームメートの庭井祐輔は当時から1学年上の先輩で、お手本であり、目標とする人だ。
 自分が試合に出るためには超えなければならない壁でもある。

 大学卒業時にキヤノンを就職先に選んだのも、先輩の存在があったからだ。
 日本代表の経験も豊富な先輩との競争に勝って試合に出るのは大変だと十分に分かっていた。

「セットプレーもスローイング、その他のことも庭井さんに教わってきました。もちろん、試合に出られそうなチームを選ぶ方が(活躍するには)早いのでしょうが、高い壁を越すのがおもしろいし成長できると考え、キヤノンに決めました」

 入社時から社業とラグビーを両立させる生活を重ね、そのサイクルにも慣れた。職場の周囲の人たちのサポートが力になると笑顔になる。
 人事部に働く。試合メンバーに入ると会社でアナウンスされる。

 3番の津嘉山廉人も大きい(185センチ、107キロ)から、バインドも「ギリギリ腕が回るぐらい」と苦笑する。
「低くなってくれないと、ぶら下がる感じになる」と言う29歳は、まだまだ成長中。立ち止まるつもりはない。

「どれだけ練習を試合に近づけようが、試合では予想外のことが起きて、それに反応、対応することで成長できる。試合出場機会が増えて、得られるものが増えていると思います」

 プレーオフ進出の条件であるベスト4進出を懸けた争いが熾烈になっている。
「チャンスです。どん欲に取りにいきたい」

 緻密で強固。時間をかけて作り上げたモールには自信がある。
 佐々木隆道コーチはいつも、「一人でも違うことをしたらイーグルスのモールではなくなる」と言っている。

 スローイングは、FWの仲間たちが一斉に動き出す号砲の役目でもある。
 小さな体に大きな自信。勝負どころで、迷いなく腕を振る。


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