「空白」の経歴からスタート。谷口和洋、好調スピアーズで好配球重ねる。
4トライを挙げてプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの谷口和洋は喜んだ。
「個人的にはハッピーです」
4月17日、柏の葉公園総合競技場。リーグワン・ディビジョン1の第13節にSHで先発した。ホストのNECグリーンロケッツ東葛との「千葉ダービー」を71-41で制した。2位浮上。3試合を残し、4強によるプレーオフ行きに近づく。
殊勲の背番号9は、この午後4トライを決めた。前半終了までに決めた3本は、いずれも防御を破った味方を援護した形だ。接点のあたりから、遠くの味方がラインブレイクを決めるや自らも加速。防御の死角へ駆け込み、勢いよく突っ切った。
特にハーフタイム直前の3本目は、自陣22メートルエリア左から少ない手数で奪ったもの。WTBの根塚洸雅による突破を結実させた流れを踏まえ、こう総括する。
「(味方には)アタックで前に出られる選手が多い。ですので、(走者の)内側からのサポートは意識しています。きょうはそこがうまくいきました。特に前半の最後は、BK同士でコミュニケーションが取れた。ノータイムで、アタッキングマインドを持ってトライにつなげられたことは自分のなかでも学びですし、チームとしてもネクストレベルに行けたところではないかと感じています」
後半11分の4本目も、サポートからのフィニッシュだった。
敵陣22メートルエリア右で組んでいたモールの脇で、抜け出したFLのピーター“ラピース”・ラブスカフニの真横に躍り出た。
総括の言葉を通し、チーム状態の良さを強調した。
「4トライなんて人生でしたことないんで、うれしいです。ただ、これは僕だけの頑張りではない。ノンメンバーを含めて、チーム全員がサポートしてくれた。それがきょうの結果につながったと思っています」
今季は開幕からレギュラーに定着。11度あった実戦にあって、9度スターターとなった。得点力の他に際立つのは、パスの精度を保つ段取りだ。
激しい肉弾戦のさなか、相手に手足をつかまれパスの精度を乱すSHもいる。しかし谷口は、味方の強力FWとの準備でそのリスクを避ける。
「日々の練習から、ブレイクダウンのところ(接点での動きの重要性)を僕、コーチ陣、アタックを主導するリーダーが口を酸っぱくして言っています。それを受けてFWがプロセスを守り、激しくプレーしてくれているので、僕にプレッシャーのかからない状況でパスを投げられています」
本番で意識するのは「リラックス」。圧力下で好パスを投げられる理由について、こう補足したのだ。
「これは僕だけかもしれないですが、試合前に集中してしまうとひとつのプレーしかできなくなってしまう。ですので、リラックスして試合に入るようにしています。確かにプレッシャーはかかりますけど、そもそもラグビーはプレッシャーとともに戦うスポーツだと思っているので、割り切っています。SHは、試合をしているといろんな声が聞こえてきます。それが誰の声なのかを聞き分け、味方の顔や出している手を見て投げるようにしています。(受け手の)ポジションによって、投げるパスも違うので」
身長164センチ、体重73キロの27歳。大阪市立都島工から門を叩いた天理大では控えに回ることも多く、スピアーズに入った2017年度もいわば無印の存在だった。
チームの公式サイトに載った新入団選手の一覧表には、「主な経歴」の項目がある。谷口の同期には末永健雄、シオネ・テアウパ(当時)と学生時代から注目された選手も多く、「主な経歴」の欄には末永は「U20日本代表 Jr JAPAN」と、のちにジャパン入りするテアウパは「7人制日本代表」と記載していた。
この頃、計6名いた国内の大卒新人選手のうち、「主な経歴」が「空白」だったのは谷口だけだった。笑って後述する。
「恥ずかし! …みたいに、思っていましたけど」
ファーストジャージィまでの距離を詰めたのは、地道な積み重ねによってだ。
井上大介、岡田一平といった同じポジションの先輩たちと切磋琢磨。2019年に就任の田邉淳アシスタントコーチからも、ゲームコントロールについての指導を受けた。果たして、いまの立場をつかんだ。
「どうやればうまくなるか、どうやればチームにもっとコミットできるか(を考えてきた)。コミュニケーションをとるようにはしていました。自分ひとりではどうにもできなかったので、周りに助けてもらうように。スピアーズに入ってからもなかなか(試合に)出られない時期もありましたけど、それがあったから、いま試合に出てチャレンジさせてもらえている」
昨季は前身のトップリーグで4強入り。いまなお好調を維持する。その要因を簡潔に述べる。
「ハードワークは、全チームがやっていること。(スピアーズは)そこに加えてコミュニケーションが取れていることが大きい。練習でも『スモールトーク』と唱え、その質が上がっていると思います。選手主導でレベルアップできている。そこにコーチ陣がサポート、アドバイスをしてくれています。僕たちが練習中によく言われるのは『ベストコーチは、プレーヤー同士だ』ということ。選手間でコミュニケーションをとって、それをレベルアップにつなげていると思います」
正直で前向きなクラブを、明朗快活なコンダクターがリードする。23日はホームの江戸川区陸上競技場で、コベルコ神戸スティーラーズとの第14節に臨む。