国内 2022.03.14

下位決戦、ペナルティトライ取り消しの深層。「あそこが、ターニングポイント」

[ 向 風見也 ]
下位決戦、ペナルティトライ取り消しの深層。「あそこが、ターニングポイント」
3点差で迎えた後半15分過ぎ、スクラムでやり合うシャイニングアークスとブルーレヴズ(撮影:桜井ひとし)


 観客の視線を、ほぼ一点に集中させただろう。

 後半15分頃からの向こう約5分間、ホストのシャイニングアークス東京ベイ浦安は、敵陣ゴール前右でスクラムを押し続ける。10-13。3点差を追っていた。

 ビジターの静岡ブルーレヴズは、4度も続けて反則を取られる。右PRの伊藤平一郎に、10分間の退場処分が出された。

 伊藤は、前身のヤマハ発動機ジュビロ時代からの主戦級だ。現アドバイザーで元FWコーチの長谷川慎氏のもと、8人が強固につながる形をグラウンドで表現し続けてきていた。

 この日はけがをした今季初戦(第4節)以来、約1か月半ぶりの先発を果たしており、序盤とハーフタイム明け以降こそ、好プッシュを連発する。

 しかし、後半に入ると様相が変わった。

 シャイニングアークスは13分、伊藤の対面にあたる左PRを交代させている。先発の庵奥翔太はベンチを退く際、途中出場する齊藤剣へ耳打ちした。

「相手の特徴を、10秒くらいで伝えるようにしていました」

 その流れを受けて奪ったのが、件のコラプシングだったか。1度目はブルーレヴズボールの1本を、シャイニングアークスが左側から押し上げ、結果的にブルーレヴズが左側から落ちたような。

 シャイニングアークスはここから、ペナルティキック獲得で選べるプレーからスクラムをチョイスする。ここでは齊藤が伊藤を下敷きにして、再び滑川剛人レフリーの笛を誘う。シャイニングアークスは再びスクラムを選び、ブルーレヴズの伊藤は続けて地面に落ちた。

 ブルーレヴズも、全員の背中を地面と平行に保ったり、相手より低い位置でヒットしたりといった、すべき動作のほとんどを遂行できたのだが…。2列目に入るLOの大戸裕矢は、こう捉える。

「スキル的なことで言ったら、ヒットして、組めれば、戦えるなという感触はあったんですけど、(当該の場面では)ヒットして、ちょっとしたら、落ちちゃうみたいな感じだった。もちろん僕たちにも非があると思いますが、もうちょっとレフリーとのコミュニケーション、経験、改善が必要かなと」

 改めてペナルティキックをもらったシャイニングアークスは、ここでもスクラムに賭ける。直前には、滑川レフリーが伊藤に「次、やったら…」と、反則の繰り返しによるイエローカード提示の可能性を匂わせていた。

 ブルーレヴズの塊は、またも崩れてしまう。このスクラムにより、いったんシャイニングアークスのペナルティトライが生まれた。当該の反則がなければトライになっていたであろう、という趣旨からだ。

 これでスコアは17-13となる、はずだった。

 ブルーレヴズが次のキックオフへ移る前に、滑川レフリーは時間を止める。テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)と呼ばれるビデオ判定のためだ。

 しばらくフィールド上で、アシスタントレフリーを含めたレフリー陣が討議を重ねる。

 両軍陣営の談話を総合すると、TMOを任される谷口かずひと・元日本協会公認レフリーが、滑川レフリーに再審議を申し立て。伊藤がイエローカードを喫したスクラムは、ボールが投入される前に崩れているため、ペナルティトライの発生にはならないと結論付けられたようだ。

 笛が鳴る。いったん次のプレーに移ろうとした両軍は、改めてスクラムのあった場所へ集結。スコアは10-13に戻り、シャイニングアークスのペナルティキックからプレー再開となった。

 シャイニングアークスにとって、取ったはずのスコアがキャンセルされた格好。地金の強さが問われるシチュエーションだ。NO8のジミー・トゥポウは言う。

「もちろん失望はしましたが、その後またペナルティからの再開。スコアのできるチャンスでした」

 ブルーレヴズはここで、WTBの中井健人をいったん下げて控えの右PRの郭玟慶を投入する。FWの最前列は専門職とあり、一時退場者などが出た場合は別なポジションの選手を退けて代役を入れなければならない。

 台湾出身の郭は、リーグワンが発足した今季、公式戦デビューした23歳。伊藤より8歳年下のホープは、果たして、このスクラムを耐える。

郭玟慶が入った後のスクラムでペナルティを取り、喜ぶブルーレヴズ(撮影:桜井ひとし)

 大戸の述懐。

「静岡ブルーレヴズの3番(右PR)は、スクラムでまっすぐぶっちぎっていくのが役割。郭には考えすぎないように、ただただまっすぐ行け、ぶち抜けと、マインドのことを伝えました」

 シャイニングアークスはたまらず展開攻撃に移るが、この日はブルーレヴズの防御が一貫して機能していた。

 今度の場面でも列をなし、タックルを重ね、最後はFLのクワッガ・スミスが通算3度目となるジャッカル成功。ブルーレヴズのペナルティキック獲得をもたらした。この午後のスミスは、反則やターンオーバーにつながらなかったものを含めれば通算4度以上は接点に絡んでいた。

「まぁ、あそこが、ターニングポイントだったかなとは感じます。(ペナルティトライの取り消しで)安心はしていないですが、フロントロー(最前列)の選手、特に郭がプライドを持ってやってくれたので、いい立て直しができたと思います」

 大戸がこう述べる一方、トゥポウはうなだれた。

「いつも計画通りに物事が運ぶわけではないなか、チャンスでどれだけ正確なプレーができるか。そこが、自分たちの課題です」

 さらに怒りが止まらぬ様子だったのが、シャイニングアークスのロブ・ペニー監督だ。後に自軍のCTBのトゥクフカ トネのラフプレーにイエローカードが出たのに触れながら、この日の反則数が16にのぼった背景について聞かれて言った。

「レフリーがそう判定したから、ペナルティカウントが増えていったということ」

 以後、ブルーレヴズは郭を軸にビッグスクラムを披露。2014年度の日本選手権制覇時はコーチを務めていた堀川延隆監督はこうだ。

「伊藤はヤマハ時代からブルーレヴズを支えた3番ですが、その代わりに若い郭が入ってきて自分たちの支配できるスクラムを組めた。チームとしての成長を感じました」

 続く28分にはSOのサム・グリーンの好キックにより好機を得て、連続攻撃からCTBの鹿尾貫太のトライなどで20-10と差を広げる。

 試合終了間際には、グラウンド中盤でゆっくりとラックを連取するなか、一転、グリーンの好判断で右のスペースを切り裂く。鹿尾、WTBのキーガン・ファリアとボールをつなぎ、LOとFLを兼務する舟橋諒将がだめを押した。コンバージョン成功で27-10。ノーサイド。

接戦に敗れたシャイニングアークス(撮影:桜井ひとし)

 鹿尾は言う。

「いつでもアタックができる準備はしていた。(スペースが)空いたら(ボールを)呼ぶ、と。あそこではサムが抜け、ゲインしたので、それを僕がサポートして、それがトライにつながった。いいマインドセットで臨めたことが、そのスコアにつながったと思います」

 堀川監督は「僕の思う『こうなったら、こうだろう』を覆す判断力が素晴らしかった。選手を誇りに思いますし、僕自身まだまだ未熟だなと考えさせられるゲームでした」とある意味で脱帽した。

「ラスト10分。10点差。エリアを取ってディフェンスをしていくというのが、コーチ陣のセオリーでした。しかし選手たちはそこで果敢に攻めて、トライまでつなげる…。フィールドにおける判断力というのが我々の想像を上回りました」

 この日は戦前の順位がそれぞれ12位、10位と下位を争う一戦だった。ただし序盤にウイルス禍による不戦敗が続いたブルーレヴズは、重要局面をお家芸で乗り切り10位から9位に浮上した。

 かたや12チーム中最下位だったシャイニングアークスは、この日も自慢の攻撃力を活かしきるには至らず。ペニー監督は、プレーの一貫性が欲しいと言った。

「判断、スキル、プレッシャー下でのスキルの遂行力…そうした基本の部分が欲しいです。フィジカル的にいつもゲインライン(攻防の境界線)を割れるわけではない。ゲインラインを切れている時、いない時のそれぞれでどうボールをリサイクルするか(が鍵)。周辺の選手が(適切に)ポジションを取ってアタックをし続けることで、いずれディフェンスががまんできなくなる。そこまで一貫性を持って、忍耐強く、プレーを遂行し続けることが、我々の足りない部分です」

 NTTグループ企業のクラブとの再編についての談話は、この試合を前後して一部メディアに伝えられた。関係者の1人は、この件はすでに選手の耳に入っていると言及した。

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