強さ引き出す代表選手の声掛け。サンゴリアスの辻雄康は首位決戦でも力勝負。
たったひとりで複数の猛者と対峙できる。
辻雄康。東京サントリーサンゴリアス所属の26歳である。
「自分がサントリーのためにできることは、フィジカルで相手(のランナー)を後ろへ(押し)戻したり、ボールキャリーとして前に出たりすることです」
3月4日、東京・秩父宮ラグビー場。国内最高峰のリーグワン・ディビジョン1の第8節に、力勝負で請われるLOとしてフル出場。チョークタックルと呼ばれる、相手走者をつかみ上げるプレーを連発した。
ひとたびランナーを羽交い絞めにすれば、別な相手がひとり、ふたりと引きはがしにかかってもその場で動かない。かくして攻めのテンポを鈍らせるうえ、次の局面における味方の数的優位を保った。
攻めても持ち前の突進力を活かす。球を持ち運ぶ時点へは、やはり複数の相手タックラーを巻き込む。この日は2018年度トップリーグ王者のコベルコ神戸スティーラーズを56-17で下し、通算戦績を7勝1敗とした。
「FWから接点を前に出して、フィジカルの強い相手にプレッシャーをかけ続けられた。それが(チームの目指す)アグレッシブアタッキングラグビーにつながったのかなと思います」
身長190センチ、体重107キロの26歳。慶應高時代からフィジカリティと勤勉さが称えられ、慶大を経て入ったサンゴリアスでも存在感を示す。
日本代表の副将でもある30歳の中村亮土主将には、「チームの生命線」と評される。
「シンプルにプレーすればするほど、勢いが出ます。フィジカルで前に出て、ブレイクダウン(接点)でアグレッシブに戦ってくれる。本当に優秀な、サントリーにとって大事な人材だと思っています」
力が認められているだけでなく、その力を発揮しやすい環境に置かれているとも言える。中村を含めた同僚の証言が、それを物語る。
日本代表でもあるSHの流大は、現在29歳。ゲームリーダーとして周りを鼓舞する際には、「一人ひとりキャラクターも違いますし、どういう声掛けをしたらいいかは人によって違う。それを理解してやるようにはしています」と意識する。
まじめな辻へは複雑な指示は出さず、得意の肉弾戦に専心させるという。
「なるべくポジティブな言葉を使って、自分の強みだけを出させるようにする。彼のよさは思い切りとフィジカルなので、何も考えずにそれ(身体衝突)をやってくれと言っています。あとは、『隣の人の話に耳を傾ければ、(最低限の)コミュニケーションは取れるから』と、いつも話しています」
こちらも現役ジャパンでHOの堀越康介副将は、辻とは同年齢だが入部年度は1年早い。後輩選手とのコミュニケーションを議題にした際、辻への期待をこう述べたことがある。
「少し自信がないというか、パニックになる時がある選手もいます。自分にもそういう経験があって気持ちもわかるので、それをわかったうえで次のプレーにフォーカスさせる声掛けをします。あえて自信を持たせる。『全然、大丈夫。次の○○で、思いっきりいこう』と、できるだけ具体的に伝えます。ああだ、こうだと言ったところで耳に入らないですし、余計に混乱させるだけなので。辻も、そっちの方がいいです。逆に彼は、次のやるべきことがわかっていて、それを100パーセントの力でやる時のパワーにすさまじいものがある。とにかく、いろんな選手とサポートしあってやっていければと思います」
互いが持ち味を発揮しながら息を合わせて攻めるサンゴリアスにあって、辻は入部4年目に差し掛かろうとしている。
スティーラーズ戦を今季3度目の先発機会としたが、開催されたすべてのゲームでメンバー入りを果たしてもいる。身長206センチのハリー・ホッキングス、元日本代表のツイ ヘンドリックら海外出身者も交えた定位置争いのなか、確たる存在感を示す。
11日には秩父宮で、クボタスピアーズ船橋・東京ベイと首位決戦をおこなう。この夜も辻は4番をつけ、タフにぶつかり続ける。