国内 2022.03.04

ブルーレヴズ・大戸裕矢主将、首位&大型のスピアーズへ「ちびっ子プライド」を示す。

[ 向 風見也 ]
ブルーレヴズ・大戸裕矢主将、首位&大型のスピアーズへ「ちびっ子プライド」を示す。
ボールを手に突破を試みる静岡ブルーレヴズの大戸裕矢(撮影:大泉謙也)


 現在12チーム中11位。静岡ブルーレヴズの大戸裕矢主将は言う。

「いまは順位的にもチャレンジャー。向かっていく姿勢を見せながら、一戦、一戦、勝ちにこだわっていきたいと感じています」

 参加するのは、日本ラグビー界最上位にあたるリーグワンのディビジョン1。初戦の前日に部内で新型コロナウイルスが流行ったため、1月19日までの10日間は活動停止を余儀なくされていた。本格的な再始動は25日まで待った。

 さらに言えば、リスタート後最初の第4節にも中止の危機はちらついた。対するNTTドコモレッドハリケーンズ大阪が、感染者発生のため第3節を辞退していたためだ。

「ちょっと動揺はありましたけど、今週の試合(第4節)があるものだと思って(臨む)」

 大戸は結局、この決意を実らせる形となる。地元・ヤマハスタジアムのスコアボードを36-13とするまで、リロードと位置取りの速さを貫いた。この日のゲームテーマは「アライブ」。グラウンド上で倒れたままの選手を減らすこと、とにかくファンに元気な姿を示すことという、ふたつの意味があった。

 雌伏の時の不戦敗を除けば、第7節までの通算戦績は2勝2敗。その間で大戸が心に刻むのは、2月19日の第6節だ。

 この日はヤマハスタジアムで、横浜キヤノンイーグルスを迎えた。

 守ってはダブルタックルを徹底できた。前節の東芝ブレイブルーパス東京戦(東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場)で26-59と大敗したのを受けて、防御網の間隔を調整したのがよかった。

 攻めても手応えをつかめた。パスの出し手と受け手がかみ合わずに好機を逃すシーンに出くわしたものの、ずっと仕込んできた組織的な動きには手応えをつかめた。

「スコアが取れるような匂いはしてきている。出口というか、スコアになりそうなところ(攻めるべきスペース)について、皆で共通認識が持てているので」

 しかし、力業にやられた。相手がシンビンの連続で13人となった試合序盤に、FWのモールで時間を使われた。結局、その時間帯にモールで失点を喫した。以後も似た形を交え、計4トライを取られた。18-28。

 大戸は、空中戦やモールで核をなすLOを務める。続く26日の第7節(千葉・柏の葉公園総合競技場)でNECグリーンロケッツ東葛を34-27で制してもなお、イーグルス戦での屈辱は忘れられない。

「モール以外は何の問題もない試合だった。それだけにFWとしては悔しい思いがしました」

 失敗を糧にする。課題となったモールの防御は、大久保直弥ヘッドコーチを交えて改善。ラインアウトの直後に簡単に塊を作らせないよう、向こうの捕球役が着地したところへ鋭く刺さらんとする。

 来る3月5日は、東京・江戸川区陸上競技場で第8節に挑む。対峙するのは現在首位、クボタスピアース船橋・東京ベイである。強力なFWを擁し、挑戦者にとって格好の相手と言える。

 注目はスクラムか。スピアーズの最前列では、南アフリカ代表のマルコム・マークスがHO、トンガ出身で今季大ブレイクのオペティ・ヘルが右PRで先発する。突進、タックルでも持ち前の力強さを発揮する2人の身長は、それぞれ189センチ、190センチと大きい。

 かたやブルーレヴズのFW1、2列目のスターターには、大戸を含めて国産戦士が並ぶ。いずれも190センチには満たない。しかし、「その選手たちを窮屈にさせたい」と主将は言う。

 ブルーレヴズのスクラムの源流は、現日本代表アシスタントコーチの長谷川慎が作った。互いの密着の仕方、膝の角度、地面にかませるスパイクのポイントの本数を事細かに決め、FW8人の力を濃縮させる。ジャージィをつかみ合う瞬間の圧で相手を「窮屈」にさせることで、無理に押し込まずとも前に出られる。

 前身のヤマハ発動機ジュビロ時代には、この形を磨き続けるなかで2014年度の日本選手権を制覇。昨年まであったトップリーグで2018年度まで5季連続4強入りと結果を出す過程で、自分たちのスタイルを日本のスタイルに昇華させていった。

 2012年度入部の大戸は、その形を自軍、さらに一時選出された日本代表でも遂行してきた。いまのブルーレヴズでスクラムを教える名嘉翔伍アシスタントコーチも、この系譜を継ぐ。

 両軍の出場メンバーが発表されたのは、3日の午後。マークス、ヘルを後ろから支えてきた身長205センチのLO、ルアン・ボタらはコンディション不良で欠場するようだ。

 大戸が取材に応じたのは、このアナウンスの直前にあたる。そのためこの時点では、大男たちに小兵が挑むという構図を強く意識していた。

 多国籍化への理解が進むラグビー界の風潮を鑑みてか、大戸はまず「こんなん、言っていいんですかね」と前置きする。ささやかに宣言する。

「日本人でもできるぞ、というのを見せたいです」
 
 フィールドでは低いタックルとその後の起き上がり、相手のジャッカルを引きはがす動きでも貢献するか。

「僕たちはちびっ子たちなので、ちびっ子プライドを…」

 胸のすく傑作を披露したい。

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