国内 2022.03.03

新人賞は「考えない」とサンゴリアスの下川甲嗣。タフな競争と名手の神髄に感銘。

[ 向 風見也 ]
新人賞は「考えない」とサンゴリアスの下川甲嗣。タフな競争と名手の神髄に感銘。
東京サンゴリアスの下川甲嗣。2月26日の埼玉ワイルドナイツ戦から(撮影:松本かおり)


 いったいなぜ、東京サントリーサンゴリアスは強いのか。

 国内外の俊英が激しく「競争」しているからだ。

「もちろん、他のチームでもそういうことはないのかもしれませんが、『あの人が試合に出て当たり前だろう』みたいな雰囲気はありません。全員がプライドを持って練習に臨んでいる」

 23歳の下川甲嗣は、福岡の草ヶ江ヤングラガーズに修猷館高、早大を経て2021年に入部。昨季まで開かれたトップリーグで最多タイの5回の優勝を誇った所属先を、こう分析する。

「コーチの想定以上に練習強度が上がることが、よくあるんです。『きょうは上半身で(相手走者を)受け止めるだけ』のつもりが、最後はブレイクダウンが激しくなるとか」

 今季から始まったリーグワンのディビジョン1では、ここまで2つの不戦勝を除いても4勝1敗。12チーム中2位と堅調だ。組織的な連続攻撃を部是とし、戦力を集めながらその戦力を最大化する。

 ここで下川が感銘を受けるのは、ショーン・マクマーンの取り組みだ。

 マクマーンは身長186センチ、体重100キロの27歳。オーストラリア代表27キャップを持つハードワーカーだ。この人のタッチライン際での突進、防御でのハードワークの源はどこにあるのか。下川は断言する。

「日頃から(全体練習とは別に)コア、瞬発力強化といった自分に必要なトレーニングをしている。僕がウェイトトレーニングをしようとジムに行った時に、ショーンがひとりで身体を動かしている時もあります。そういう姿勢も見習わなきゃいけないと思っています。(マクマーンは)生まれ持ったもの(身体能力)が違うんだろうな、と言われているとしたら、それは違うよ、と思うこともあります」

 裏を返せば、自身も外国人選手との体格差を言い訳にしない。どんな相手とも臆せずバトルする。

 身長187センチ、体重106キロのサイズでフットワークとパススキルにも長け、FW2、3列の5つの位置をこなせる。

 直近の一戦では、昨季のトップリーグの決勝でぶつかった埼玉パナソニックワイルドナイツに激突した。

 守っては海外出身者へもハードなタックルを重ね、攻めてはサポートプレーからのトライを決めた。

 自身が試合に出ていない時には「誰が(試合に)出ても勝てるチーム。苦しい場面でも守りに入らず攻め続けるラグビーを、全員ができる」と実感し、逆に自身が試合に出た時は「80分間のプレーで質を落とすことなく、地味にでもハードワークを続けることを目指している」。件のワイルドナイツ戦では17-34と今季初黒星を喫したが、落ち込むだけではなかった。

「課題が残りましたが、収穫もあった。この試合を次につなげられたらと思います」

 営業マンでもある。川越市周辺を担当しながら、その前後に東京郊外の拠点で汗を流す。オフ期間中は慣れない業務量に苦慮しながら、得意先へ自分がラグビー部員である旨を共有。それぞれと適切な関係を築いたため、シーズン中はスムーズに競技へ注力できる。

 芝の上で目指すのは、「信頼を勝ち得て、試合に出続ける」。このクラブでそれを実現するのが何より難しいとわかるから、過剰に大きな目標は掲げない。

 新人賞の受賞対象者であることは、「まったく考えないです」。ただ、目指す将来像につきこう言い添えた。

「サンゴリアスでシーズンを通してスタメンとして戦い続けることが一番。その結果としてジャパン(日本代表)のスコッドに絡めたら、すごくうれしいです。そのためにも、信頼を勝ち得たいです」
 
 3月4日、東京・秩父宮ラグビー場でコベルコ神戸スティーラーズに挑む。いまの責務を果たした先に、国際舞台への入り口を見る。

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