国内 2022.02.28

なんで止められているかわかる? ワイルドナイツ好守の深層。

[ 向 風見也 ]
なんで止められているかわかる? ワイルドナイツ好守の深層。
東京サンゴリアス相手にも堅守が光った埼玉ワイルドナイツ(撮影:松本かおり)


 堀江翔太は言う。

「向こうからしたら『なんで止められているんだろう』だけど、僕らからしたらシンプルなことをやっているだけ」

 所属する埼玉パナソニックワイルドナイツでは、守りのシステム作りに関与する。大一番でもその効力を発揮する。

 2月26日、本拠地の熊谷ラグビー場。昨季のトップリーグの決勝で制した東京サントリーサンゴリアスを迎え、リーグワンの第7節に挑む。

 20-17とわずか3点リードで迎えた前半終了間際。サンゴリアスボールのキックオフが自陣中盤右へ飛ぶ。

 ジャンプして捕球したのは、サンゴリアスのLO、ハリー・ホッキングス。着地するや加速してパス。軌道の先にはWTBの中野将伍、CTBのサム・ケレビがいて、ワイルドナイツはゴール前右隅まで侵入された。

 ワイルドナイツは、動じなかった。ケレビのラックの左脇へHOの堀越康介が駆け込んできても、ラクラン・ボーシェー、ベン・ガンターの両FLがジャッカル。球出しを遅らせる。対するFLの下川甲嗣に、こう嘆かせる。

「FWとしてもプレッシャーを感じる時間帯でもありました。規律の高いディフェンスをするな…と」

 ワイルドナイツの防御網はさらに、左大外のスペースを埋めるように飛び出す。

 サンゴリアスは、FBのダミアン・マッケンジーのランニングスキルで迫る防御をいなす。ワイルドナイツ側から見て、左のスペースへパス。そこには中央側から順にLOのツイ ヘンドリック、WTBの尾崎晟也が悠然と並んでいた。

 サンゴリアスのチャンスは拡大か。いや、この2人の前に、ワイルドナイツのFB、山沢拓也が立ちはだかった。飛び出した仲間のカバーに回った山沢は、まず下川に向かってプレッシャーをかけ、下川が尾崎にパスをした瞬間に走路を変える。尾崎の行く手を阻む。

 山沢が尾崎を捕まえた頃には、その周りにはワイルドナイツの青い壁が出来上がっていた。十分な人数を揃えた防御ラインは、そう崩れない。

 以後はサンゴリアスがマッケンジー、ケレビといった強豪国代表選手のランで好機を作ろうにも、ワイルドナイツは一枚岩を保つ。

 タックラーよりも接点に近い側には、ジャッカルを狙う選手がスタンバイ。最後は、突進するケレビの手元にガンターが腕を差し込む。サンゴリアスの反則を誘う。ピンチを脱した。

 サンゴリアスのSOに入った田村煕は、「(自軍が)いいアタックしている時も相手のいい選手にボールを取られている。うまくいっているときほど規律を保ち、生命線のブレイクダウン(接点)をしっかりしたい」。接点に絡む選手を引きはがし、テンポよくボールを動かせたら結果は違ったと言いたげだ。

 かたやワイルドナイツの山沢拓は、こう振り返った。

「勢いを持たれると一気にトライまで取られるところではあったんですけど、チームとして個人、個人が自分の役割をやれた。攻められてはいましたけど、強みは出せたと思います」

 結局、ディフェンディングチャンピオンは34-17で勝利。ハーフタイム以降は無失点で、ガンターは終盤にも好ターンオーバー披露したものだ。

 後半11分に登場の堀江は、意味ありげに話す。

「僕らのディフェンスは、組織の動き方に独特なやつがあって。でも、シンプルです」

 さかのぼって前半20分頃。この頃まだベンチにいた堀江が、グラウンドにいたSHの内田啓介へ何やら大声で指示していた。

 その数分前、サンゴリアスのカウンターアタックから数的優位を作られトライを与えていた。堀江の声掛けは、防御の連携に関するものだったか。本人はこう言った。

「ざっくり言うと、コミュニケーションをとってな、と。あまり詳しくは言えないですけど」

 SOの松田力也は、その前後の状況を踏まえて補足する。

「チームとして、(個々が)誰を、どこを見てるか(の確認)という基礎のところを話し合いました」

 その延長線上にあったのが、ハーフタイム前の堅守だったのだろう。

 相手との間合いを詰め、その背後を別な人員が埋める。ランナーとタックラーが衝突すれば、適宜その場に圧をかけたり、次の防御ラインを充実させたりする。2人がかりでタックルする際に内側と外側のどちらが先に仕掛けるか、接点から球を出すSHに自軍のSHが圧をかけるか否かなど、守りのバリエーションの豊富さものぞかせる。

 ワイルドナイツには、手順を間違えなければ失点しないという自信があったのだろうか。序盤はリードされながらも、殊勲のガンターは落ち着いていた。

「得点でナーバスにならず、落ち着いてゲーム展開を読んでプレーにつなげられたのが大きかった」

 開幕から2試合続けて不戦敗も、実戦は5連勝中。看板の防御力は健在だ。3月5日には大阪・ヤンマースタジアム長居で、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪とぶつかる。

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