国内 2022.02.18

東芝ブレイブルーパス東京のマット・トッドは、自分を裏切らない。

[ 向 風見也 ]
東芝ブレイブルーパス東京のマット・トッドは、自分を裏切らない。
1月29日のヴェルブリッツ戦でスクラムを組むブレイブルーパスのマット・トッド(撮影:松本かおり)


 信念が試された。マット・トッドは信念を貫けた。

「残り時間が何分であっても、常に勝ちたい思いでした。一回、点が入れば、次も点が入る可能性がある。その状態を作りたかった」

 話題に挙がったのは、自身が出た試合でのワンシーンだ。

 ジャパンラグビーリーグワン・ディビジョン1の第4節のひとつは、1月29日、駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場であった。東芝ブレイブルーパス東京の7番をつけたトッドは、後半38分を迎えていた。

 23-33。10点ビハインドを背負っていた。一発逆転は不可能で、残り時間は3分程度。さらに直前まで味方に一時退場者が出ていたため、普段よりも疲れやすかっただろう。

 ましてや、この時にボールを持っていたのは対するトヨタヴェルブリッツだった。自陣22メートル線付近左でのラインアウトから、追加点を奪いにきていた。

 全てのラグビー選手が勝利を目指しているとはいえ、この時のブレイブルーパスは、集中力を保つのが難しそうな劣勢局面にあった。

 ここでトッドは、ただ「役割」を全うする。

 まずは、相手が擁する南アフリカ代表58キャップ、FLのピーターステフ・デュトイの突進をストップ。次のフェーズでパスが後方に乱れると見るや、自陣10メートル線付近左で強烈なタックルを放つ。

 SOのティアーン・ファルコンのみぞおちあたりに自らの肩を差し込み、仰向けにさせた。

 ここへは味方が寄り集まって攻守逆転に近づき、その周りで防御網を張る。

 まもなく、味方LOのジェイコブ・ピアスがチョークタックルを繰り出す。向こうの球出しを防ぎ、自軍スクラムを得られた。

 結局はスコアできずに2敗目を喫したが、序盤から好守連発のトッドは最後までタフだった。

「スコアボードに影響されずに常に競い合って、一貫してプレーしたいというマインドセットのもとで動いています。チームや私自身が自分に課す基準を、満たしていく」

 己に期待する。己を裏切らない。この気質は、出会いによって育まれた。

 ラグビー王国と知られるニュージーランドのカンタベリーでプロ生活を始め、所属したクルセイダーズではリッチー・マコウ、キアラン・リードと、歴代の同国代表主将と同じポジション群でプレーしてきた。世界中を転戦するスーパーラグビーというリーグ戦を通し、この2人の一挙手一投足に触れられたのがよかった。

「幸運にも、私は若い時からワールドクラスの選手と肩を並べてこられました。素晴らしい選手から学べることはできるだけ学びたい。そんな思いでした。彼らは週末の本当にタフな試合を終えると、すぐにリカバリーをして、翌週からの練習でパフォーマンスを出しながら自分の(次の試合での)役割を明確化させる。そのように準備する姿を通し、しっかりやってくれるだろうと頼りにされる存在となっていました」

 試合直後のラグビー選手は、規則正しい「リカバリー」と同時にビールも欲するのでは。その問いには笑みを浮かべ、補足した。

「そこは、バランスです。もちろん楽しむタイミングはあります。常にラグビーばかりにフォーカスしていたら疲れてしまい、メンタルがリフレッシュできないこともある。そこで適度に切り替え、常にワクワクした状態で試合ができるように…。そうしたことも、彼らから学んだところです。ただ、あれだけのハイレベルな試合を多くこなすなかで、経験則から『今回はリカバリーを優先しよう』と判断するなど、いろいろと考えながら過ごしていました」

 自身も同国代表に選ばれ、ここまで25キャップを獲得。31歳だった2019年には、ワールドカップ日本大会にも出場した。身長185センチ、体重104キロと、一線級のFLにあってはやや小柄である。その代わりに広背筋と首回りを見事に隆起させ、ロータックル、ジャッカルで際立つ。

 東芝に入ったのはワールドカップ終了後だ。かねてこの列島には、「いい人がいる国だ」と好印象を抱いていた。2018年にも来日し、現・埼玉パナソニックワイルドナイツと契約していた。

 今年開幕のリーグワンには、「(上位層)12チームで競い合うストラクチャーがいい」と所感を述べる。求められるのであれば、少しでも長く日本でプレーしたいと話す。いまはチーム戦績を3勝2敗とし、19日には埼玉・熊谷ラグビー場で古巣とぶつかる。やはり7番をつける。

 ブレイブルーパスの指揮官はトッド・ブラックアダー。かつてニュージーランド代表の主将だったブラックアダーに、トッドは「一貫性」を求められる。こうも付け足す。

「あとは、フィールド上で落ち着いてプレーすること、知識、経験、準備の仕方をチームで共有することも、です」

 すなわち、ブレイブルーパスにとってのマコウやリードになる。

「年齢を重ねるとともに、どんな準備の仕方が自分に向いているのかがわかるようになる。私の例で言うと、試合に向けてはその週の早い段階でハードワークを。加えて、(チームに課される)役割をクリアにする。『これだけしっかりトレーニングしたのだから大丈夫だ』と、自信を持って臨めるようにするのです」

 自分に期待する。自分を裏切らない。

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