国内 2022.02.15

うまくて「タフ」なクウェイド・クーパー。ライナーズ3勝目の背景語る。

[ 向 風見也 ]
うまくて「タフ」なクウェイド・クーパー。ライナーズ3勝目の背景語る。
柔らかいパスを放る花園近鉄ライナーズのクウェイド・クーパー(撮影:松本かおり)


 すべての動きに根拠があるのだろう。

 クウェイド・クーパーは、2月12日、花園近鉄ライナーズの10番をつけた。司令塔のSOだ。リーグワン・ディビジョン2の第4節が始まって早々、東京は秩父宮ラグビー場のファンを驚かせる。

 自陣10メートル線付近右で球を受けると、目の前に2人の防御がいるなか左大外へロングパスを放つ。それも、ワンハンドで。

 タックルをされていない選手は両手で投げるのが基本とされるなか、アメリカンフットボールを思わせるフォームで放ったのだ。

 この一撃は、WTBの片岡涼亮のランを促す。その流れこそミスで止まったが、片岡は3トライを挙げてプレイヤー・オブ・ザ・マッチを受賞する。

 ノーサイド。67-22。日野ドルフィンズを下して3勝目をマークする。殊勲者のクーパーは、ファン驚愕のワンハンドパスの根拠を丁寧に説く。

「まず状況を振り返ると、あの時、私の目の前には相手のチェイスが来ていました。圧力を受けているな、と印象です。一方、反対側の片岡選手のところが空いていました」

 片岡がほぼノーマークで立っているのを見て、「ボールを渡せば、彼から相手に脅威を与えられるという自信があった」とのことだ。

 一発で長い距離をえぐるには、キックパスが有効打だと言われる。ただしこの時のクーパーは、ボールを手にした瞬間にパスのモーションを取ってしまっていた。急に「キックの姿勢にはなれなかった」のだ。

「身体の反応的にボールを蹴られないなか、空いている片岡になんとかボールを渡したかった」

 最善手を打つのに必要なツールが、珍しい投げ方だったわけだ。

 身長187センチ、体重90キロの33歳。入団2季目となる2021年のシーズンを下部トップチャレンジリーグで終えると、同年秋には4年ぶりにオーストラリア代表に復帰した。代表戦出場数にあたるキャップを75まで積み上げ、ライナーズでの日々に感謝していた。
 
 この日も、若いころから評価されていたきらびやかな動きで魅した。何より盤石の基本プレーで、好機を作り続けた。圧力下でも両手のひらで球を受け取り、相手に身体の正面を向け、ラン、パスを重ねる。

 7点リードで迎えたハーフタイム直前には、2つの妙技を披露する。

 敵陣22メートルエリアでの連続攻撃。左端での7フェーズ目でパスをもらうと、間合いを詰めてきた相手LOの木村勇大をかわす。身体を回して前に出て、2人の防御をひきつけながら右へパス。日本代表CTBのシオサイア・フィフィタの力走を誘う。

 ゴール前中央で接点ができる。元オーストラリア代表SHのウィル・ゲニアが、日野の圧力を受けながらボールをはじく。

 その右斜め後ろに立っていたクーパーは、身をかがめて低い弾道を手中に収める。球を手元にひきつける動きで、目の前の防御の足を止める。パス。

 最後はLOのパトリック・タファが、ほぼノーマークのような格好でゴールエリア右中間に飛び込んだ。クーパーのゴールキック成功で、スコアは24-10となった。

 クーパーにタックルを外された木村は、「クーパー選手が強かった、うまかったというより、逆ヘッド(通常と異なる形のタックル)で仕留めきれなかったという気持ちです」と悔やむ。敗れた箕内拓郎ヘッドコーチは、試合全体の総括として述べる。

「前半からディフェンスの読みはよかったですが、最後のタックルを仕留めるところで外された。後半は、確実に仕留めなきゃいけないところで出足が鈍った。のちにビデオで検証しないとはっきりとは言えないですが、(試合直後の時点では)そういうイメージです」

 ライナーズは「どのエリアでもチャンスがあればアタックを継続するのがスタイル」と、FLの野中翔平主将。そのうえで心がけるのは、「正解がないなかで、自分たちが信じたものを正解にしていく作業」のよう。この日も、試合中の方向展開に手応えをつかんだ。

 というのも試合開始早々、自陣ゴール前からの攻めでミスが起きていた。失点を招いた。野中はこうだ。
「もう一個、奥の地域でやろう」

 目指す全方位的な攻撃を繰り出す起点を、より前に置こう。キックも効果的に使おう。その意を選手間で共有する。やがて、クーパーが足技と眼力で際立つ。

 これは、タファのトライを演出するよりも約10分前のことだ。

 自陣22メートル線付近中央から敵陣22メートル線付近中央まで、クーパーがロングキックを放つ。ここからハーフ線を境に蹴り合いが始まる。3ラリー目が回ってきたクーパーは、それまでと異なる低い弾道を描く。球は鋭く地面をはじき、相手の立ち位置を後退させる。

 おのずと、次のレッドドルフィンズのキックはそれまでよりも奥側へは届かなくなる。次のキックを、ライナーズ陣営は自陣10メートル線付近で確保した。

 すると一転、カウンターアタックを仕掛ける。キックからランへの切り替え。野中の言う通り、「もう一個、奥の地域」で得意のパターンに持ち込むのだ。クーパーは述懐する。

「相手とキックバトルを開始した時は、チェイスライン(キックの落下地点の前に張る防御網)を可能な限り安定させ、キープするチームが勝利できることになります。こちらがキックバトルを継続的にしたら、彼らのチェイスラインにミスマッチ、空きが出ると自信を持って、キックバトルをおこないました。僕とバックスリー(WTB、FB)がしっかりとスキャンして、相手のチェイスラインにミスマッチやエラーが発覚した際、『チャンスだ!』と攻撃に切り替えられた」

 ライナーズが攻め始める。自前のフォーマットに基づき、名手が躍動する。日本代表FBのセミシ・マシレワが、野中が、フィフィタが防御を切り裂く。勢いに乗る。

 とどめを刺したのは片岡だ。37分、左タッチライン際で3人を抜き去る。

 クーパーはその後のコンバージョンを決めて17-10とし、攻め込むさなかの心理を述懐した。

「ライナーズが恵まれているのは、片岡選手、マシレワ選手のように大外での1対1で負けない選手が揃っていることです。彼らにさばけばトライをしてくれるだろう、というところがあります。だから(蹴り合いでも)がまんしてチェイスし続け、流れを作れるんです」

 この午後はフィフィタも2トライと好ジャッカルで存在感を発揮。そのフィフィタによると、クーパーは「タフな選手」。有事にも淡々と持ち前の技術を発揮する姿は、確かに「タフ」にも映る。

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