「積み上げてきたものがある」。ようやく開幕、勝利の埼玉ワイルドナイツを支えるもの。
2021年の対戦時は47-0と一方的だったカードが、10か月後のこの日、前半は10-3と競った。
開幕2連勝と好調の横浜キヤノンイーグルスの勝利を見られるかもしれない。トップリーグ最終年には完敗したチームのアップセットを期待した人もいたはずだ。
実際、赤いジャージーがラインブレイクするシーンは少なくなかった。
FB小倉順平が走り、NO8アマナキ・レレイ・マフィがタックラーを弾いて前進することが何度もあった。
しかしトライラインは遠かった。
1月23日に熊谷でおこなわれた埼玉ワイルドナイツとイーグルスの試合は最終的に27-3とホストチームが勝った。
イーグルスが進化を感じさせる攻防を展開するも、昨季王者ワイルドナイツの揺るぎなき根幹を感じさせる試合となった。
チーム内に新型コロナウイルス陽性者が多く出て、開幕からの2試合が中止となっていたワイルドナイツは、実戦から離れていた影響もあり、攻撃時にミスも少なくなかった。
ディフェンス面もそうだ。イーグルスの長短、緩急を使ったパスのコンビネーションに防御の裏に出られることがたびたびあった。
それでもノートライに抑えることができた理由を、選手たちはプライドという言葉に込めた。
試合後の会見でHO坂手淳史主将が「プライドを持ってディフェンスができた。自分たちのプライドがディフェンスに出た」と語ったのをはじめ、各選手が同様の分析を口にした。
ワイルドナイツの堅守は試合開始直後から感じられた。
キックオフから約3分。イーグルスがPKからワイルドナイツ陣深いエリアでラインアウトを得る。
モールからFWが攻め立て、最後はNO8マフィがインゴールにボールをグラウンディングするところを阻止した。
同じシーンは15分過ぎにもあった。イーグルスがラインアウトから好アタックを仕掛けて前進。ゴール前へ迫る。
PKからふたたびマフィがインゴールにボールを置こうとするも、青いジャージーや太い腕が芝の上に入り込み、グラウンディングは認められなかった。
そして圧巻は前半終了間際だった。
イーグルスがラインアウトから攻め、FL嶋田直人のラインブレイクやLOアニセ サムエラの突進でゴールラインに迫る。
ワイルドナイツの一人ひとりが矢となり、青い壁を作った。
WTB竹山晃暉、FL長谷川崚太らがビッグタックルを見舞う。それ以外にも、全員が体を張った。そして最後は、CTBディラン・ライリーが走り込んできたHO高島忍を押し返す。
15フェーズのアタックを止め、ボールを取り返す。王者が矜持を示したところでハーフタイムを迎えた。
後半11分からピッチに立った坂手主将は、前半の仲間たちのパフォーマンスをベンチから安心して見つめていたという。
「みんな、コミュニケーションが取れていました。一人がミスをしても、すぐに他が反応する。小さな綻びをすぐに埋めていたので安心して見ていました」
猛タックルで相手からボールを奪ったライリーは、「(周囲との)つながりが大事で、それがディフェンスにつながった」とさらりと話した。
「ワイルドナイツの伝統である自分たちのディフェンスを信じた」と言ったのはSO松田力也だ。攻守両面で好リードを見せ、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
コロナ禍で、チーム活動の中止を余儀なくされた期間は2週間に及んだ。
1月4日に3人に陽性が認められると、その数は同11日には計31人となる。全員が陰性となり、活動を再開させたのは同17日だった。
1週間の準備でこれだけのパフォーマンスを発揮できたのは、チーム活動中止期間も個々がそれぞれを高め、集合と同時に結束したからだ。
他チームがひと足先に開幕を迎え、周囲の空気が華やかなものになっても、「自分たちでコントロールできないものは仕方がない。できることに集中した」と選手たちは声を揃えた。
36歳で先発し、各局面の見極めよくジャッカルから相手のボールを奪うなど存在感を示したHO堀江翔太は言う。
「(2週間の休止はあっても)何年間も積み上げてきたベーシックなものは簡単には崩れない」
プライドの込められた言葉に、すべてが詰まっていた。
敵将の沢木敬介監督に、「前半に流れをつかむチャンスはあったが、経験ある選手たちのうまさもあり、勢いに乗ることができなかった。いい勉強をさせてもらった」と言わせた80分。
昨季王者は初戦にして27得点でボーナス点(3トライ差以上の勝利)を得る戦いを見せ、自分たちの価値をあらためて強く示した。