「大学選手権準決勝で、京産らしさを全国へ発信しよう」。廣瀬佳司監督、学生に期待。
監督就任1年目ながらチームを上昇気流に乗せた。
大学選手権4強に進出した京都産業大学を廣瀬佳司監督が率いている。国立競技場が舞台となる同選手権準決勝を2日後に控えた12月31日、報道陣の取材を受けた。
「学生たちが自信を持って戦ってくれている」
日本代表キャップを40も持つ48歳は、穏やかに、そして嬉しそうに、そう話す。
自身も京産大ラグビーに大きく育てられた。まだ頂点に届いたことはないけれど、どんな年でも日本一を目指すのが、長く変わらぬチーム理念だ。
2006年度以来のベスト4進出を果たした今回。初めての決勝進出と優勝の両方を手に入れたい。
昨季指揮を執った伊藤鐘史氏からバトンを受けた廣瀬監督は、前任者のときからコーチとして名を連ねていた。
しかしコロナ禍でほとんど指導機会はなかった。
大役を任されてチームの中に入った今季、最初に感じたのは「十分戦える」の感覚だった。
選手たちも自信を持っていた。
その手応えは、春季トーナメントで優勝した同志社大に1点差で惜敗し、3位となったことで深まる。
秋へ向け、悪くない足取りだった。
最初から、順風満帆にことが進んだわけではなかった。
昨季の体制が1年で変わり、選手たちは少なからず動揺した。新監督は以前のインタビューで、「最初はみんな、誰だ、このオッサンと思ったでしょう。何を話しても、あまり聞き入れてもらえない雰囲気がありました」と話した。
そんな空気を取り除くには、時間の共有を重ねるしかなかった。
8月にはコロナ禍でチームが活動できなくなった(9月上旬までの約1か月)。
練習量に支えられるチームだ。本来なら鍛え込む夏に汗を流すことができないのは不安だった。
スケジュールの変更もあり、シーズンは初戦から第5戦まで毎週末の試合となった。強化と調整のバランスが難しく、シーズン終盤に息切れするのではないか。
そんな危惧があった。
しかし、選手たちは逞しかった。
廣瀬監督が回想する。
「(初戦の)立命館戦の前半に苦戦しましたが、後半に逆転して勝ってからは、選手たちはあらためて自分たちの力に自信を持ったように見えました」
強力スクラムやモール、ディフェンスを軸に自分たちの戦い方を確立していった。
第5戦で同志社大に22-19と勝ってからは、さらに充実した空気が漂った。
天理大を19-10と破り、最終戦の関西学院大にも33-5と快勝。福西隼杜、三木皓正の両FLを中心にした前に出るディフェンスは、迫力が増した。WTB船曳涼太、FB竹下拓己らを筆頭に、個々がそれぞれの強みを出せるチームになった。
関西大学Aリーグを23年ぶりに制し、大学選手権準々決勝で日大に27-26と競り勝つ。
2006年度以来の全国4強にたどり着いた。
就任1年目の躍進について廣瀬監督は、「特に何も変えなかったのが良かったのでは」と笑う。
元木由記雄GM、田倉政憲FWコーチ、北畑勝大BKコーチ、鳥居義史S&Cコーチなど、チームを継続的に指導してきたスタッフは、チームと選手たちのことをよく知っている。
自身はアタック面の指導はするものの、他の領域はそれぞれのコーチを信頼し、任せた。
こと細かに口を挟むタイプでもない。普段は穏やかに選手たちを見つめ、たまに発する言葉で、日本代表やトヨタ自動車で選手、指導者として積み重ねてきた知見を伝える。
そんなスタイルが選手たちに響いた。
PR平野叶翔(かなと)主将は、監督のことを「ちょっと上の先輩のような感じ」と表現した。
「新しいサインプレーを試合ごとに提案してくれます。『どうだろう?』と。僕らが却下することもあれば、採用となることもある。判断を任せてくれるので、やりやすいですね」
選手主体で考えさせてくれる方針が、チーム力に結びついていると話す。
「今シーズンは前半が良くなくても、後半に修正できるとか、試合の途中に選手間で話し合って変えていけています」(平野主将)
自分たちで判断する力を普段から蓄えたことが、勝負どころのパフォーマンスに直結している。
自然体で指導にあたる廣瀬監督が自身のカラーを出しているとしたら、「京産らしさ」の強調だ。
「タフな(集団という)印象を見ている人に与えられるようなチームになろう、と言っています。そうなるために、こういう練習、厳しい練習をするんだよ、と。ひたむきに。泥臭く。勝利に執着する。ひたむきにやっているというのは自分で思うのではなく、見ている人が評価するもの。それは、勝利への執念、執着心が芽生え、必死にタックルをしたり、ボール争奪戦で体を張ることで伝わるもの」
心に闘志を秘めている。
それで終わらず、パフォーマンスや結果で、やる気、勝つ気、負けん気を伝えられるチームになろうという思いを、ことあるごとに選手たちへ伝えてきた。
長く指導にあたり、チームを強豪に育てた元監督、大西健氏の築いた京産大ラグビーを継承する。
2月23日のファーストミーティング。廣瀬監督は、1990年度の大学選手権準決勝で京産大が明大と戦った試合のダイジェスト映像を部員たちに見せた。
その試合は結果的に15-29と敗れるも、前半はスクラムを押しまくり、モールでも前へ。満員の国立競技場に詰めかけた明治ファンを沈黙させた試合だ。
後半、BKに走られて逆転負けも、猛タックルが無数に見られた試合だった。監督は、自身が高校時代に見て感銘を受けたその80分に京産大らしさを強烈に感じたから、みんなにも知ってほしかった。
人の心を震わせるこのラグビーを、この舞台(国立競技場)を目指そう。そんなメッセージを込めた。
準決勝の2日前、京都には雪が舞っていた。北区上賀茂にある神山球技場が白く染まる。うっすらと雪が積もる人工芝グラウンドを選手たちが駆けていた。
午後の練習後、グラウンドの一角でジャージー渡しがおこなわれた。廣瀬監督は一人ひとりに赤×紺のシャツを渡す前に全員に呼びかけた。
「今年最初のミーティングでビデオを見てもらいました。あの場に、今週立ちます。京産のラグビーを全国の人に発信する舞台。京産らしく戦って、全国の人に『京産はタフなチームやなあ』と思わせる試合をやりましょう」
ビールが大好きだ。グラウンドに近い京都市内のアパートで単身赴任中。1年365日、その部屋で金色の液体をたしなむ。
勝利のあとの晩酌は格別。今季あと2回、美酒を味わえたら最高だ。