コラム 2021.12.18
【コラム】昨日より今日、と信じて

【コラム】昨日より今日、と信じて

[ 野村周平 ]

 リーグワン1部のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪は、天理高OBのSO王子拓也の提案で活動を始めた。11月27日の日野レッドドルフィンズとの試合をチャリティーマッチにして募金を呼びかけ、グッズを販売した。会場には約1500人の観客が訪れ、グッズはハーフタイムで完売したという。広報の菊地新さんは「僕らができることは限られているけれど、個人が集団になればそれ以上の大きなパワーを出せる」という。

 12月11日の花園近鉄ライナーズとクボタスピアーズ船橋・東京ベイの一戦でも同様の取り組みは行われた。

 豪志さんを思うのは、OBやトップチームだけではない。

 2007年に練習試合で頸椎を損傷した杉田秀之さん(当時 慶大1年)は、豪志さんのニュースを見て何か出来ることはないか、と考えていた。

 杉田さん自身、けがをした当初は気持ちがすさんだ時期もあったという。それでも、ラグビー部の同期の手紙や仲間からの寄せ書きを病室中に貼って、リハビリへの意欲を奮い立たせた。

「1か月、なにも進まないこともあった。でも周りと比較しても苦しくなるだけ。昨日より今日、日常生活でできることが少しずつ増えていくことを喜びにした」

 杖をついて歩けるようになった杉田さんは現在、33才。外資系企業に勤めつつ、NPO法人「日本せきずい基金」の理事も務める。
「コロナが落ち着いたら豪志さんに会いに行きたい」。自分も同じような人たちの体験談を聞いて、励みになった記憶があるからだ。

 豪志さんがけがをしてから初めて外出したのは、11月21日の奈良県予選決勝だった。天理高校はライバルの御所実高に敗れ、豪志さんを花園に連れて行くことはできなかった。

 でも、豪志さんたちの高校ラグビーは終わっていない。次の目標は来年1月の3年生の送別試合。優二さんも松隈監督も、豪志さんがみんなと笑顔で会える日を心待ちにしている。

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 天理高校ラグビー部は、「木村豪志君を応援し、支える会」として「54会」を立ち上げた。支援金などの詳細は http://tenri-rugby-highschool.com/gosi/から。

【筆者プロフィール】野村周平( のむら・しゅうへい )
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップは2011年大会、2015年大会、2019年大会、オリンピックは2016年リオ大会、2020東京大会などを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

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