【ラグリパWest】あと、7点。IPU・環太平洋大
IPU・環太平洋大は4季で最大50点差を7点にまでつめた。
朝日大に冷や汗をかかせた。スコアは7−14(前半7−7)。東海・北陸の覇者はこれまで9年連続で大学選手権に出場していた。
2021年度の出場権をかけた一戦は11月13日。IPU(International Pacific University の略)は、58回の選手権で史上初となる中国・四国からの出場を目指していた。
「今までで一番のチャンスです」
そう言って監督の小村淳は決戦に臨んだ。今年52になる年。3年前の2018年4月に就任した。釜石シーウェイブスのヘッドコーチからの転任だった。
7点差を追う残り10分、濃紺ジャージーにミスが散見される。モールからの落球、簡単にタッチに出されてしまう。ノックオンもあった。
「今まで、見たことのないディフェンスをしてくれました」
敵将、朝日大監督の吉川充は振り返った。それだけ白いジャージーも必死だった。
「プレッシャーの試合に慣れていません」
小村は視線を落とした。この秋の中四国の公式戦は不戦勝の1試合をのぞき4戦全勝。平均得点は96、同失点は3。格が違い過ぎ、リーグ戦でチームの力を上げて行けない不利があった。接戦でのマインドセットは難しい。
「出げいこには行ったりしたのですが…」
先月10月にはキャンパスのある岡山から福岡に向かう。福岡大との40分×4本の練習試合にはすべて勝った。その月末は京都に遠征。京産大のBチームと戦った。40点ほどの差で敗れた。23年ぶりに関西王者をうかがうチームは二軍といえども強い。小村としてはできるだけのことをしてきた。
チームに外国人留学生は3人。小村の就任2年目にニュージーランドからやって来たNO8ティエナン・コステリーとWTBマイカ・ナシラシラ。2人は3年生になった。
「ティエナンなんかは相手の防御の厚いところに当たりに行っていました」
小村が振り返ったように、留学生たちも接戦の戸惑いがあった。
IPUの司令塔は宮下大輝。163センチ、63キロと小柄な2年生SOである。
「僕がPGを決めていれば、1点差でした。そうなれば試合はわかりませんでした」
涙が止まらない。前半24分、後半22分の2度の加点機をしくじる。
宮下は広島出身。サッカーのため中学は本州の北の端、青森山田に進む。高校でラグビーに転向。3年時には同校初となる全国大会に出場する。99回大会は2回戦で県浦和に28−33。IPUを選んだのは実家に比較的近いため。新幹線なら40分ほどで帰郷できる。Uターン選手も入ってくるようになった。
小村は母校の明大やU19日本代表などでもコーチングを施した。ユースレベルの指導経験も豊富である。IPUには、教職員という位置づけで呼ばれた。今は週に2コマ、ラグビーの体育実技を持っている。
指導した4シーズンはすべてこの東海・北陸・中国・四国代表決定戦に進出する。スコアは17−59、5−55、10−29、そして7−14である。チームの進化は点数に表れる。
「今年は自主性を重んじました。今まで僕やコーチが決めていたサインも選手たちに考えさせるようにしました。一つひとつのプレーに対して責任を持ってほしいからです」
就任当初の選手数は42。今は15増の57になった。質量ともに上がる。
「スクラムもライブで組めるようになりました。今年は去年よりも強くなりました」
右PRのショーン・ヴェティーは190センチ、128キロ。スタミナに問題は残るが、代表レベルのサイズは魅力だ。新チームからはすべて小村が声をかけた選手になる。
朝日大戦で4年生の古堅哲真(ふるげん・てっしん)はFLとして先発した。
「小村さんからはきついことをたくさん言われましたが、ついていこうと思える素晴らしい監督でした」
2年生から公式戦に出場した。
古堅は沖縄の名護商工出身。高校時代の監督は小菅爾郎である。小菅は早大を1989年度に卒業。パスやキックに優れたSOで、首のケガがなければ、前田夏洋とレギュラーを争う逸材だった。事実、本田技研鈴鹿(現Honda)では司令塔に座った。
小村は小菅の2学年下。明大では監督だった北島忠治の「前へ」の教えを忠実に守り、フィジカルに強いFLとして日本代表キャップ4を持つ。古堅の中では赤黒と紫紺が融合する。
「両方のOBの方にラグビーを教えてもらえたことは幸せでした」
卒業後は岡山県警に奉職する。
試合が終わって、運営に携わった協会関係者はつぶやいた。
「来年はどうなるか…」
IPUと朝日大の力の接近は周囲も感じる。
試合会場は長良川球技メドウ。朝日大のキャンパスと同じ岐阜にある。スタジアムの東には金華山がそびえ、その頂上には城がある。稲葉山から岐阜とその名は変わった。織田信長はここを本拠として、「天下布武」の旗印を作った。この地で戦ったチームが信長のように天下獲りに近づく日が来るのか…。
簡単なことではないが、可能性がないわけではない。